編集部より

一般的な企業でも新人研修で習う接遇マナーですが、医療機関や介護施設での接遇マナーは事業会社・小売店や飲食店などとは異なる側面を持ちます。足が痛くて治療に来ている患者さんに席次が良いからと遠い奥の席をすすめたり、体調が悪い利用者さんのところに強い柔軟剤の香りをさせて行くなどの行動は、医療機関職員や介護事業所職員なら避けたいものです。基本的な接遇マナーとその考え方を学びながら、本当に相手のためを思った行動ができるように工夫していきましょう。

講師は病院、薬局などで20年を超える患者対応経験があり、薬剤師資格を持った医療接遇コミュニケーションコンサルタント、村尾孝子さんです。

  

第4回は、医療接遇でも、一般企業でも基本となる挨拶のマナーです。職場での具体的な事例を想像しながら学んでいきましょう。

  

執筆/村尾 孝子(医療接遇コミュニケーションコンサルタント スマイル・ガーデン代表)

編集/メディカルサポネット編集部

  

 医療・介護者の思いやりあふれる応対は、患者さん・利用者さんが医療介護機関によせる信頼を高める上で絶対に欠かせません。今回から、新入職員が身につけたい、患者さん・利用者さんに安心して受診・利用してもらうための接遇マナーについて項目ごとに詳しくご紹介します。第1回は挨拶です。 

 
こちらを向いて笑顔の医療職

1. 相手に気持ちを集中し、自分から先に声をかけましょう

 挨拶は患者さん・利用者さんとのコミュニケーションに欠かせない接遇マナーの基本です。医療介護機関を訪れた患者さん・利用者さんは、まず受付で職員と接します。ここで気持ち良く「おはようございます」「こんにちは」などの挨拶があれば、患者さん・利用者さんは無意識のうちに安心や信頼を感じます。挨拶は、相手の存在を認めている、という情報の発信でもあるため、患者さん・利用者さんは「受け入れてもらった」と安心するのです。

 

待合室等で目が合うたびに職員が挨拶や会釈をすれば、「待っていることを分かってくれている」と感じます。一方で、患者さん・利用者さんが施設を訪れた時、職員からの挨拶がなかったとしたらどんな気持ちになるでしょうか。「感じが悪い」「歓迎されていないみたい」などと思う人もいるでしょう。初診の患者さんであれば、「無視された」「他の病院に行けばよかった」というように不愉快な気持ちになったり、ともすれば「ここで大丈夫かしら」「ちゃんと治療してもらえるか心配」と不安や不信感を覚えたりするかもしれません。普段何気なく言っている「おはようございます」「お大事になさってください」等々の挨拶は、患者さんや利用者さんとの信頼関係作りのきっかけとして重要な役割を果たしているのです。挨拶はただの儀礼上の言葉ではなく、コミュニケーションのひとつでもあることを理解しましょう。

 

 「挨拶」の「挨」は「心を開く」、「拶」には「相手に近づく」という意味があります。たとえば、朝一番に会う患者さん・利用者さんに「おはようございます」と声をかけながら、頭では午後の会議のことを考えているとき、相手は「他のことを考えて、自分の方に気持ちが向いていない」とピンとくるものです。また、目が合っても忙しいからと声をかけずに通り過ぎると、患者さん・利用者さんは「隠しごとがあるのかも」「嫌われているのかも」などと勝手に悪い方に解釈してしまう可能性もあります。

 

心を開いて相手に気持ちを集中し自分から先に積極的に声をかけるのが、患者さん・利用者さんが安心する挨拶のポイントです。聞き取りやすい声の大きさやトーン、やさしい微笑みや明るい表情を意識して、患者さんや利用者さんを快く迎えお見送りする挨拶を実践しましょう。

2. 感謝や思いやりを伝える動作を心がけましょう

 挨拶する時は、まず患者さんの目を見てしっかり言葉を伝え、言葉を言い終わると同時にお辞儀をする「先言後礼(分離礼)」を意識すると、患者さんへの感謝の気持ちや思いやりの心をしっかり伝えることができます。挨拶しながらお辞儀をすると(同時礼)、言葉が患者さんではなく床に向けて発せられ、患者さんの表情や反応を見逃しやすくなりますから、気を付けましょう。

 

 もうひとつのポイントは、「ファストイン・スローアウト(頭を素早く下げてゆっくり戻す)」。頭を下げたところで動きをほんの一瞬でも止めると、上品な動作に見えます。お辞儀する際は、背筋を伸ばし、腰から頭にかけて一直線になるように腰を曲げます。頭だけぴょこりと曲げる人がいますが、いかにもおざなりな印象を与えてしまいますので注意しましょう。お辞儀の際、身体の前で手を組む場合は、左手を上にして手を重ねます。

 

 お辞儀は角度や深さによって3種類に分けられます。会釈は軽い挨拶で、15度くらい身体を傾け、廊下で患者さんや利用者さんとすれ違うときなどに使います。一瞬でも立ち止まって挨拶するのが理想的ですが、難しければ歩くスピードをゆるめて目を合わせ、背筋を伸ばして軽くお辞儀するといいでしょう。敬礼は一般的な挨拶のとき、30度くらい身体を傾けます。施設内では、初対面で挨拶する際やお見送りの際に行います。最敬礼は深い敬意を表す挨拶で、謝罪やクレーム応対時などに使います。一般的には45度くらい上半身を倒しますが、心からの謝罪を態度で示す場合は90度まで深々と頭を下げるなど、状況に応じて使い分けるといいでしょう。謝罪時に膝に顔がつくくらい頭を深く下げる人もいるようですが、大げさな感じがしますので、90度程度にとどめましょう。

 

3. 施設内で気をつけたい挨拶のポイント

  施設内で気を付けたい挨拶のポイントをまとめてみます。

 

(1)挨拶は、自分から先に

 

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