2022.06.09
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人材定着に向けた病院の人事評価制度を考える
~人事評価の4つの目的とは?~

攻めの中小病院経営 ~事務部門が動かすヒト・モノ・情報~vol.3

攻めの中小病院経営 ~事務部門が動かすヒト・モノ・情報~

 

 

編集部より

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、経営・人材確保・収益化など、病院はさまざまな課題に直面していることがこれまで以上に浮き彫りとなりました。それらの課題解決のための取り組みが、必ずしも改善に結びつくとは限らず苦戦する病院もあるようです。本コラムでは、熊本県甲佐町にある谷田(やつだ)病院(99床)で事務部長を務める藤井将志さんに、病院において大きな役割を担う事務部門のリアルな実践方法について解説いただきます。第3回は病院における人事評価について考えます。近年、病院においても人事評価制度を導入し、昇格・昇給などの判断材料として活用するところが増えています。谷田病院における人事評価の紆余曲折を紐解きながら、何のために人事評価をやるのか、という根本的な問いに迫ります。

 

 

人事評価制度と給与というインセンティブ

近年、医療機関でも人事評価制度が取り入れられています。現在の主流は、年度当初に組織全体の目標に沿った個人目標を設定し、年1~2回の面談で達成度合いを振り返り評価するMBO(目標管理制度)です。この人事評価を給与や賞与に連動させている病院もあるでしょう。そこで、まず給与というインセンティブについて考えてみましょう。

 

ここで質問です。あなたが仕事に満足を得る要因と不満足を感じる要因には、どのようなものがあるでしょうか?アメリカの臨床心理学者・ハーズバーグが提唱した動機づけ・衛生理論(図表1)によると、仕事の満足感と不満を引き起こす要因は全く異なると言われています。

    

 図表1

仕事における満足と不満足を引き起こす要因に関する理論

 

   

満足感を引き出す要因として達成・承認・仕事そのものなどがある一方、給与は不満足を招く要因になっています。この不満要因(衛生要因)をいくら取り除いても満足は得られず、満足感を引き出す要因(動機付け要因)にアプローチしなければならないと言われています。つまり、給与は職員の満足度を高めるものではないが、不満足の要因にはなりえる性質があります。

 

この理論を裏付ける実体験があります。以前、経営支援に携わった病院で、職員の不満に関するディスカッションを行ったところ、「給与が低すぎてやる気が出ない」という意見が出ました。そこで、希望する給与額を挙げてもらい、その金額が口座に振り込まれたとしたら仕事をやる気になりますかと尋ねてみたところ、そう思うとみんなが答えました。

 

しかし、希望の給与をもらい続けた3カ月後の気持ちはどうでしょうと質問を重ねてみると、今と変わらない気持ちになるかもしれませんと言われたのです。最初はウキウキやる気になっても、数ヶ月も経つとそれが当たり前になってしまい、また新たな不満が生じるのです。

 

さらに、希望の給与をもらえる環境になったとしても、もし同僚が自分の4倍の給与をもらっていることが分かったらどうでしょう。おそらく、自身の給与に対する満足度は急降下するはずです。

 

ほとんどの人が満足することなく、継続的によくなり続けないとならないもの。他人と比較され、必ず不満につながるもの。これが給与の性質です。従って、職員の満足度を上げるために給与を上げるのは、経営者にとって禁断の果実だと考えています。個人的には、給与の配分と人事評価は別々に考えた方がいいと思っています。

 

 

   

谷田病院がいま人事評価をやめている理由

次に人事評価制度の課題を考えてみましょう。現在、谷田病院では人事評価を行っていません。

 

第一に、労力の問題です。合格点の人事評価を遂行するためには、目標設定・面談・評価・フィードバックなど、多くの時間を要します。教科書的な人事評価制度が決して悪いと思っているわけではありませんが、働き方改革が叫ばれる中、管理者や職員の貴重な時間と労力を人事評価にかけるべきか、患者

 

 

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