2023.11.29
5

薬剤のインシデント20%減少を目指すための取り組みとは?発生要因と3つの改善策

            

編集部より

薬剤のインシデント発生を減少させる取り組みは、看護管理業務において重要な課題のひとつです。なぜなら、薬剤のインシデントの発生は、患者さんの生命に直結する恐れがあるからです。例えば、アレルギーのある患者さんに処方と異なる薬剤を誤って与薬したり、降圧剤の与薬量を間違えたりすると、医療事故につながりかねません。管理業務も行う看護師経験14年の西川さんが、インシデント減少のための取り組みについて解説します。

   

執筆/西川 正太 (看護師、医療ライター)

編集/メディカルサポネット編集部

          

   

薬剤のインシデントは生死にかかわる重大な問題であり、しかも比較的多く発生します。

   

実際に、筆者が勤務していた病院では薬剤のインシデントが年間43件発生しており、全インシデントの約50%を占める状況でした。課題のひとつとして取り上げられ重点的に取り組んだ結果、翌年には年間33件に減少しました。本記事では筆者が実際に体験したインシデント20%減少を成功させた3つの改善策を解説します。

1.看護師が関与するインシデントの現状とは

あごに人差し指を当て、上向きで悩んでいる女性看護師

        

厚生労働省によると、そもそもインシデントとは「日常の診療の場で誤った医療行為などが患者に実施される前に発見されたもの、あるいは、誤った医療行為などが実施されたが、結果として患者に影響を及ぼすに至らなかったもの」と定義されています。つまり、インシデントは影響度発生分類のレベル3a(症状が出ても経過観察となるレベル)までに該当するものであり、軽微な治療や処置(消毒、シップ、鎮痛剤の投与など)を要した状態ということです。

   

経験が浅い看護師に限らず、熟練の看護師でもインシデントを起こすケースがあり、どの看護師も一度は経験したことがあるのではないでしょうか。まずは、看護師が関与するインシデント発生の状況について確認してみましょう。     

看護師1人当たり3.6件/年のインシデントに関与

医療の質・安全学会誌(Vol.16 No.3(2021))に掲載されていた「インシデントレポートの分析」によると、「看護師1人当たり1年間で3.6件のインシデント関与する」とされています。医師1人当たりは1年間で1.5件、薬剤師は0.8件、理学・作業療法士0.7件です。看護師がインシデントに関与する件数は、医師や薬剤師など他の医療職者と比較すると多いといえます。実際に、インシデントに悩む看護師は少なくありません。

   

こうした結果を招いてしまう理由として、看護師は患者さんのそばで業務を行い、常にケアを提供したり24時間日常生活の援助をしたりしていることが挙げられます。また、与薬やドレーン管理など医療行為の最終的な実行者となる機会も多く、看護師がインシデントに関与する件数が増える要因と考えられます。

薬剤のインシデント発生件数は全体の39.8%

日本医療評価機能機構が公開している「医療事故情報収集等事業 2022年報」では、「2022年薬剤関連のインシデントは全体の39.8%を占める。療養上の世話19.7%、ドレーン・チューブ13.2%」とされています。また、インシデント全体で「死亡もしくは重篤な状況に至った」件数は3,979件で、うち薬剤に関しては1,162件(29%)です。

   

薬剤のインシデント減少に向けた取り組みが重要です。これらを踏まえ、薬剤のインシデントが起こる5つの要因を解説します。

           

2.薬剤のインシデントが起こる5つの要因

さまざまな種類の内服薬

      

薬剤のインシデントには、さまざまな要因があり、それぞれ以下のような割合で起こっているようです。

    

薬剤のインシデントが起こる要因

    

薬剤のインシデントが起こる要因 上位4位

出典:「A 大学病院における医療職種と薬剤インシデントの発生要因との関連|東京医科大学看護専門学校紀要 第 25 巻第 1 号,2016 年 3 月(PDF)」をもとに作成

     

薬剤のインシデントが起こる要因は「確認を怠った」が最も多く76.3%です。次に、思い込み・勘違い(38.8%)、勤務状況が繁忙(31.3%)、他に気を取られた(25.2%)と続きます。4つの要因に加え分類できない要因をその他として、5つの要因がなぜ薬剤のインシデントに関与するのか具体的に解説します。

要因1:確認を怠った

薬剤のインシデントが起こる要因は「確認を怠った」が多く、与薬の原則である「6Rの確認」が十分ではない恐れがあります。「6Rの確認」は、以下のようになります。

 

 

会員登録されている方のみ続きをお読みいただけます。

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP