2023.08.31
5

現役病院事務長が語る 医療機関におけるDXの問題点と失敗事例・その先の理想のDX

    

編集部より

医療機関でも、業務の電子化(医療DX)が進行しています。前回は、病院のデジタルトランスフォーメーションで成功した例でしたが、今回は失敗事例と、それを乗り越えた未来のDX成功病院の理想の姿です。病院やクリニックでは何が原因で失敗しやすく、どうやってそれを乗り越えて導入に成功しているのか。実際に「使いやすさや費用対効果に悩みながら医療DXを進めている」という、谷田病院事務長の藤井将志さんが解説します。

  

執筆/藤井将志(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長 藤井将志)

編集/メディカルサポネット編集部

  

  

思い込みでシステム導入しても失敗する

前回は、病院のデジタルトランスフォーメーションで成功した事例と方法をご紹介しました。続いて今回は、当院における失敗したDXの事例です。

   

電子カルテの更新にあたり、看護師のバイタル入力を簡略化できないか検討しました。いろいろな製品を見ていき、最も導入が進んでいるのが、体温やSpO2、血糖値を測るデバイスを、電子カルテにつながったリーダーにかざすものでした。とても画期的だと思い、導入している病院に見学にいきました。しかし、体温計をリーダーにかざせば勝手にカルテに飛んでいくわけではありませんでした。

  

カルテで当該患者のページを立ち上げ、体温計から読み取ったデータを確認し、ソフト上の送信ボタンを押して初めてカルテに飛ぶ仕組みでした。実際に入力している看護師さんに話を聞いても、トップダウンで導入されたシステムだから仕方ありませんが、効率的にはなっていませんという意見でした。ただし、デバイスからデータが飛ぶので、データの転記ミスは無くなるようです。

  

諦めかかった矢先に、新たな製品情報が入りました。一般的なBluetoothの通信方法を使うため、メーカーが限定されずに体温計などの測定器が使えます。さらに、リーダーに近づければ、複数種類の測定器のデータが一気に飛ぶのも魅力的でした。これだ!と思い、早速病棟でデモをしてもらいました。

  

しかし、またしても、看護師から喜びの声が聞こえません。入力が面倒くさいと言うのですが、どう考えても簡素化されます。単に新しいプロセスを拒んでいるだけではないか、と疑っていました。しかし、実際に病棟に足を運び、入力しているプロセスを見せてもらって、ハッとしました。

   

これまでは、電子カルテの受け持ち患者の一覧から画面を展開することなく、次々にバイタルを打ち込むことができました。しかし、新しいデバイスを使う場合、飛んでくるデータが、どの患者のものかを特定するため、患者の画面を立ち上げるか、患者の情報を選択もしくは入力しなければなりません。その画面遷移をするくらいなら、一覧で入力した方が早いと言うのです。そして、実際にそうでした。

  

もし、筆者が「それは慣れの問題だ」と現場スタッフの意見を無視して導入していたら、使われないシステムになっていたと思うとぞっとします。DX化を進めるのはトップダウンでないと難しい面があります。しかし、上層部やシステム部の判断ミスが現場の手間増になりかねません。「本当にそうか?」を自分自身の固定概念も含めて検証する姿勢が大切です。

医療現場で通用するDX事例を模索

ちなみに、まだバイタル入力の簡素化を諦めたわけではありません。いずれは、様々なセンサーで自動でバイタルを入力することができるようになるでしょう。しかし現時点ではそうしたデバイスは出来上がっていません。一部は自動化できても、全て自動化されないと結局手間は大きく変わりません。最終的にはそのような世界が実現するでしょうが、現段階ではベッド単位で入力するデバイスに注目しています。

   

  

会員登録されている方のみ続きをお読みいただけます。

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP