2022.08.10
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介護現場のクラスター発生時こそ、現場でのコミュニケーションを!
~特養常勤医が振り返る新型コロナ対策の実践~

第6波に襲われた介護現場のクラスターー特養常勤医が振り返るゾーニングの実践と対策ー

  

  

編集部より

現在、新型コロナウイルス感染症の第7波が押し寄せ、感染リスクの高い高齢者が利用する介護現場ではクラスター発生防止対策やスタッフの健康管理など、緊張の日々が続いていることと思います。2021年12月から始まったとされる第6波の最中、大阪府の特別養護老人ホームでクラスターが発生しました。そこに常勤医師として勤務する堀切康正さんは、増え続ける新型コロナの陽性者への対応や、スタッフ教育、保健所対応などに奔走され、現在はその経験を日々の実践の中に活かしています。堀切さんがこの経験から得たものとはどのようなことだったのでしょうか?

 

執筆/堀切 康正(医師/永寿特別養護老人ホーム 管理医師)

編集/メディカルサポネット編集部

 

外科医から特養常勤医へ

皆さま、はじめまして。大阪にある永寿特別養護老人ホームで常勤医師をしている堀切康正と申します。Twitterで情報発信をしていたところ、今回初めてコラムを執筆することになりました。

 

私は外科医として市中病院で6年間(初期研修を含む)、がん専門病院で食道外科レジデントとして3年間勤務しました。その後、さまざまなご縁を頂き、2018年から現在勤務する特養で常勤医師として働いています。特養では、利用者さまの健康管理(急性期対応・慢性期管理)、ACP及び食道外科の経験を生かした嚥下障害の方への評価・介入などを中心に診療を行っています。高齢者施設では、外部の医師に診察を依頼するケースが9割を占めているため、特養に「常勤」で医師が勤務していることは珍しいケースです。


永寿特別養護老人ホーム
 

筆者が勤務する永寿特別養護老人ホームの外観(筆者提供)
 

当施設は、第6波中の2022年2~3月に3フロアで集団感染を経験しました。今回は、その当時の状況を振り返りつつ、コロナの感染対応、特にゾーニングについて考えます。結論は「緊急事態のときこそ、多職種でコミュニケーションを多く取って乗り越えよう!」ということです。第7波の影響が特養をはじめとする高齢者施設に出る前に、この記事が高齢者施設における感染症対策について再確認いただく一助となれば幸いです。
 

ひっそりと始まったクラスター

2020年2月3日、ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に寄港したことで日本中が知ることとなった新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)。3月から第1波が始まり、この原稿を書いている2022年7月15日は第7波が始まったと言われています。

当施設では、2020年2月20日より面会禁止の対応をとっており、第1~5波の間にコロナ陽性者が発生することはありませんでした。その間は厚生労働省や各種学会のホームページから情報収集を行い、コロナ陽性者発生時の施設マニュアルの作成・改定に努めました。コロナ感染対策では以下の4点について検討を重ねていきました。 

1.コロナ感染フロアでの個人用防護具着用(PPE:ガウン、手袋、フェイスシールド、マスク、キャップ、シューズカバー)
2.ゾーニング:コロナ感染フロアはレッドゾーンとして対応。それ以外の方法はコロナ感染リスクが高いため実行不可と判断
3.出退勤時のスタッフの動線分離(以下図参照)
4.従業員の業務縮小

実際のフロアのゾーニングの図実際のフロアのゾーニングの図(筆者提供)

第4波以降、スタッフやその家族の発熱など、利用者さまへのコロナ感染リスクが高まることはありました。その度に作成したマニュアルのテスト運用を行い、PPEの着脱方法の指導やゾーニングに関する課題の抽出、スタッフの実際の導線確認を行いました。このような対策を行いながらではありましたが、幸い利用者さまから陽性者が出ることはありませんでした。このままコロナから逃げ切れるかもしれない。そんな淡い期待を持っていましたが、それは第6波で打ち破られることになりました。
 
2022年2月、1人の利用者さまの発熱が続いていました。抗原検査以外の検査結果から、肺炎・尿路感染疑いと診断し抗生剤治療を行っていましたが、解熱しませんでした。そのうち同じフロアの複数の利用者さまが発熱しはじめ、「これは、、、」と思い、発熱精査で外部医療機関へ誘導したところ、コロナ抗原検査で「陽性」と診断されました。その翌日、利用者さま、発熱したスタッフに対して保健所の追跡調査が行われました。結果として、最初のコロナ感染者がでた翌々日に、利用者さま15名、介護士2名、看護師2名のコロナ感染者が判明し、ここから施設の本格的なクラスター対応が始まりました。

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