2021.10.18
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ストップ!介護離職!
スタッフの日常に突然「介護」が入り込んできたら?
~リアルな「介護を抱えた生活」をゲームで疑似体験~

――ボードゲーム「けあとの遭遇®」(株式会社and family)

 

編集部より

家族の介護は突然に始まることがほとんどで、混乱した状態のまま離職に至る例も少なくありません。それは、ケアに精通している医療・介護従事者であっても同様です。そこでご紹介したいのが、「介護を抱えた生活」をリアルに体験できるゲーム「けあとの遭遇®」。開発を手がけた株式会社and family代表取締役社長の佐々木将人(ささき・まさと)さんと、同ゲームのファシリテーターを務める看護師・介護福祉士の室津瞳(むろつ・ひとみ)さんにお話を伺いました。

 

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)

撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)

編集/メディカルサポネット編集部

 

 「けあとの遭遇®」を開発した佐々木さん(左)とファシリテーターを務める室津さん(右)  

 

介護離職者の多くが6カ月以内に離職を「決断」する理由

 ――まずは、佐々木さんが「けあとの遭遇®」の開発を始めた経緯を教えてください。

佐々木:原体験になっているのが、私が新卒で入社した企業での出来事です。もともと私は難病指定の疾患を抱えていたのですが、心配や迷惑をかけたくないといった思いから、それを周囲に伝えられずにいました。ついには1人で抱え込みすぎた結果、職場で倒れてしまい、早く言うべきだったと後悔したのです。

 

その後、家族介護支援の事業を立ち上げようとしている知人と話したとき、「家族の介護が必要になっても、自分はまた同じように抱え込んで倒れる気がする」と直感しまして……。仕事とプライベート(介護)の両立に悩む人がたくさんいることを知り、この分野で何かできることがないかと模索し始めました。

 

とはいえ、介護について知識が乏しかったので、家族介護の当事者50組ほどにインタビューさせていただきました。そこで分かったのが、介護が終わってから「もっと〇〇していたら」と後悔している人が非常に多いということ。介護が始まる前から何が起こるか理解しておいたり、どんな選択肢があるか把握しておいたりすることの重要性を痛感する結果となりました。

 

しかし、「介護」というとネガティブな印象を抱く人が多く、まだ当事者になっていない人はセミナーのようなものに誘っても興味を持ちにくいもの。そこで着目したのがボードゲームです。

 

 

 

 

2019年1月の展示会「Care Show Japan」に出展することを目標に掲げ、10回以上の試作を重ねました。「頭では分かるけれどハラオチしにくいもの」をゲームにするというアイデアは良かったと思うのですが、ノウハウがあるわけではないので苦労も多かったです。途中、私自身が交通事故で大けがをし、ICUで身動きが取れなくなったこともありましたが、幸いにも後遺症は残らず開発を継続できました。この出来事で、介護はいつ誰に起きてもおかしくないことをあらためて実感しました。

 

――現在の介護支援制度で、介護に臨む人のサポートが十分にできているかというと、難しいところですね。

佐々木:例えば介護休業にしても、利用率が極めて低調という現状があります。そもそも制度の存在自体を職員が知らないケースが多いことに加え、介護を抱えていることをオープンにしづらく、知っていたとしても取得しづらいことが大きな問題です。

 

何も準備していない状態で突然に介護が始まり、想定外の出来事が連続する中、なかなか職場にも相談できない……。半ばパニック状態にあるからこそ、介護離職する人の約40%が、6カ月以内という短期間に「離職」という大きな決断をしてしまうのでしょう。この状況を変えるためには、やはり「介護が始まる前」から当事者意識を持ってもらえるよう手を打っておく必要があると思います。

 

「介護はまだ先」と思う人にも、ダブルケアを抱える人にも

――「けあとの遭遇®」は、どうやってプレイするゲームなのですか。

佐々木:「けあとの遭遇®」は、3~4人でグループを作って遊ぶボードゲームです。まず、各プレイヤーは「ミッション」という個人の目標(仕事命、ワークライフバランスなど)を選び、なぜそれを優先したいかをチームに説明します。そして、「倒産の危機にある企業の営業職として業績アップを図る」という設定の下、カードを引くことで「(親が)認知症の疑い」などのイベントが発生。さまざまな選択肢が出てきて、自身のチョイスによりポイントがたまっていくシステムです。個人のミッションを達成することに加えて、チームで協力して会社の立て直しを図るという、まさに仕事と介護の両立を体現したゲームになっています。

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