2021.06.22
5

病院から訪問看護ステーションへの看護師出向制度、その狙いは?

~出向した当事者の声と受け入れる事業所側のメリットと準備~

 

編集部より

地域連携・退院支援が必要な患者さんは増えており、在宅医療の充実が必要なことは言うまでもありません。病院から在宅へ移行する過程においては、病院看護師が地域資源を把握し、その活用方法を熟知していることが大きなカギとなります。ここでは、がん研有明病院から出向看護師としてケアプロ訪問看護ステーションに2年間勤務した秋山愛さんに、出向に至るまでの経緯や訪問看護の実践について伺いました。さらに、出向先の管理者である金坂宇将さんに、本制度の意義について語っていただきました。
 

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)

撮影/高嶋 一成

編集/メディカルサポネット編集部

 

メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ 画像1 

 

お話を伺った方々

秋山 愛さん(写真左/がん研有明病院/ケアプロ訪問看護ステーション東京)

石巻赤十字看護専門学校を卒業後、石巻赤十字病院、東北労災病院、横浜労災病院などで勤務。その後、藤沢市民病院で救急病棟夜勤専従として働きながら、デイサービス、老人ホーム、訪問入浴などを経験。2014年にがん研有明病院へ入職し、2019年よりケアプロ訪問看護ステーションへ出向。2021年4月よりがん研有明病院に復帰。

  

金坂 宇将さん(写真右/ケアプロ株式会社在宅医療事業部事業部長 ケアプロ訪問看護ステーション東京管理者

島根県立看護短期大学を卒業後、松江赤十字病院に入職。心臓血管センター(循環器内科および心臓血管外科)で5年、ICUで4年勤務したのち、看護師9年目の10月から訪問看護のフィールドに転身。ケアプロ訪問看護ステーションにおいて訪問看護師の経験を重ね現職に携わる。

 

出向看護師インタビュー:秋山 愛さん

好奇心に従って、救急医療から地域医療へ

    私は若いうちにクリティカルケアを学びたかったので、専門学校を卒業後、まずは外科病棟で働き始めました。その後、循環器、心臓血管外科、HCUといくつかの領域で経験を積みましたが、入職して6年目、1つの転機が訪れました。テレビドラマ「コード・ブルー」の影響を受けて救命救急の世界に魅了され、その分野に強い医療機関への転職を思い立ったのです。幸い、当時の師長から関連病院への転勤を勧めていただいたので、地方から都会へ移り住み、転勤先のERで心機一転となりました。

     

    そこでの業務は楽しかったですが、もちろん挫折もありました。前の職場ではリーダー業務や師長代行などを任されていたこともあり、それなりに対応できるだろうという自信があったのですが、心肺停止の患者さんが搬送されてきても最初は何もできず、現場の医師から「できないなら、あっちへ行って」と言われることもありました。厳しさを感じつつも、命を扱う現場であることを再確認し、1つひとつ学んでいきました。そうしているうちに、重症の患者さんが運ばれてきたときに「秋山さんを呼んできて!」と指名されるまで成長できたのです。努力が評価されるのはとてもうれしく、やりがいにつながっていました。

     

    メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ 秋山愛

     

    看護師になって10年目、ERで働くうちに「地域医療の現場の様子を見てみたい」という思いが芽生えるようになりました。看護師が病院で接することができるのは、患者さんの人生のごく一部にすぎません。「患者さんはご自宅ではどう生活しているのだろう」「病院以外で看護師はどう働いているのだろう」――。そうしたことを知ってみたいという探求心から、夜勤専従をしながらデイサービス、老人ホーム、訪問入浴、クリニックなど複数の現場を経験するという1年間を過ごした後、がん研有明病院に転職しました。

     

    その後、がん研有明病院からケアプロへ出向する制度に手を挙げたのは、やはり地域医療や介護の現場を垣間見たことが影響しています。「私が地域医療についてもっと知っていたら、最期の迎え方が変わっていたかもしれない」と思わずにはいられないケースをいくつか経験し、そのことがずっと気にかかっていたのです。

     

    病院勤務したからわかる、訪問看護師に求められるスキルと役割

      訪問看護の世界に入ってみると、病院時代との違いに戸惑うことが多々ありました。特に印象に残っているエピソードの1つが、患者さんの生活を制限すべきかどうか葛藤したケースです。その患者さんは余命半年でしたが、それをできるだけ延ばそうと思えば食事やアルコールの制限が必要となり、それを本人が守れるようにご家族にもお話ししていきます。

       

      しかし、せっかくご自宅に戻って自分らしい最期を過ごせる状況だったので、生活を制限すべきなのか、それとも本人の好きなように過ごしてもらうべきなのか悩みました。それを考える上では、本人だけでなく、ご家族の思いにも向き合う必要があります。そこで、本人、その奥様、主治医などの関係者を交えて話をする場を設け、私は調整役として関わった結果、全員が相互理解の上で納得できる結論にたどり着くことができました。この過程の中で、患者さんと奥様の関係性がより良いものになっていったという実感もあり、最終的には訪問看護師として満足できる関わりだったように思います。

       

      メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ 

       

      訪問看護で必要なスキルについては、これまで身に付けてきたものを生かした部分と、新たに学んだ部分があります。身に付けておいてよかったスキルの1つは、静脈ルートの確保です。病院で多くの患者さんに実施していたので、難易度の高い血管でも成功させることができました。また、ケアプロの訪問看護ステーションは24時間365日対応なので、緊急性や重症度を見極めるフィジカルアセスメントをはじめ、とっさの事態にも対応できるスキルを身に付けていたことも役立ちました。

       

      一方で、新たに学んだスキルの1つが、リモートでの情報共有・相談です。訪問看護の現場には私1人しかいないので、病院のように「ちょっと一緒に見てほしい」ということが難しく、初めはそこが不安でした。しかし、例えば患者さんの足のむくみやCVポート部の発赤などについて確認したいことがあれば、その場で撮影した画像を他のスタッフに送って相談できるシステムが整っており、「すべて1人で抱え込む必要はない」と感じながら安心して働くことができました。

       

      また、うまく距離感を取るコミュニケーション方法も学びました。患者さんのプライベート空間であるご自宅に入り、ご家族とも関係性を築いていくとなると、付かず離れずの距離感を保つことが大切です。訪問看護の経験を積むことで、病院時代とは違ったコミュニケーション能力が身に付いたと思います。

       

      「病院と在宅の架け橋」になりたい

        訪問看護は、患者さんやそのご家族と人生を共にする伴走者、あるいは応援団のような素晴らしい仕事です。しかし、訪問看護に興味があっても、「自分のスキルに自信がない」「未知の領域で飛び込みづらい」と尻込みする人は多いかもしれません。何をするにせよ不安はあるものですが、「訪問看護をやってみたい!」という思いからすべてが始まると思います。そして、ケアプロは教育制度がしっかり整っているので、手厚いサポートの下で成長できることを、私自身経験させていただきました。

         

        出向期間が終わり、病院に戻ってからの部署はまだ決まっていませんが(※取材は3月に実施)、ケアプロでの経験を生かして「病院と在宅の架け橋」になりたいと思っています。例えば、病棟看護師に「在宅のリアル」を伝えることで、患者さんの退院支援を今までより充実させることができるかもしれません。出向というかたちで貴重な経験をさせていただいたケアプロの皆様とがん研有明病院に、とても感謝しています。

         

        メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ 秋山愛 

         

         

         

        管理者インタビュー:金坂 宇将さん

        看護師出向制度はwin-win-winが大前提

          当社で看護師出向制度を導入したのは、がん研有明病院からのお声がけがきっかけでした。もともと同院では他の病院と同様の取り組みを行っていたのですが、新たに訪問看護の分野も選択肢に入れたいという意向があったのです。そして、秋山さんが初めて当社への出向を希望してくれたので、受け入れ体制の整備を急ピッチで進めていきました。

           

          病院側が出向制度に伴って運用していたフォーマットをベースに契約書を作成しましたが、給与や賞与、社会保険関係の支払い、指示命令系統、労務管理、人事考課など、検討すべきことは多岐にわたります。それぞれの権利・義務が出向元と出向先のどちらに発生するのか弁護士に確認しながら、手探り状態で決めていきました。 

           

          メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ 金坂宇将

           

          出向制度は、本人、出向元、出向先の三方のwin-win-winが前提になるので、それぞれが納得できる2年間になるよう意識しました。秋山さんを迎え入れるときは、一般採用と同じように面接し、当社の理念や思いにマッチするかどうか事前確認しました。幸い、秋山さんは職務経験が豊富でしたし、実際に会ってみて当社の理念や思いにマッチする人柄だと感じたので、その点での不安はありませんでしたね。

           

          出向看護師をどう育成するか?

            訪問看護師としての育成は、当社オリジナルの教育ラダーに沿って進めていきました。他のスタッフと同じように評価、目標設定面談、人事考課を行うとともに、「こういう事例を経験したい」といった秋山さんの希望もその都度確認しました。その希望がすべてかなうわけではありませんが、当社の判断や現場のタイミングがそろったときは柔軟に対応しました。その結果、中野区・足立区にある2つの訪問看護ステーションで働きながら、さまざまな事例を経験できたと思います。この出向が本当に成功したかどうかは、秋山さんが病院に戻った後の様子を見て初めて評価できるものなので、今後の活躍ぶりを楽しみにしているところです。

             

            メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ

             

            秋山さんが成長していく一方で、当社のスタッフが成長させてもらった面もありました。看護師としての知識・技術の共有はもちろんなのですが、秋山さんは特にアサーティブコミュニケーションが素晴らしかったので、そのコツをスタッフに指導してもらいました。また、悩んでいそうなスタッフがいたときには、スタッフと管理者の間にさりげなく入り、組織の潤滑油のような役割も担ってくれていました。

             

            病院と訪問看護ステーション間の出向制度は地域医療の発展につながる

              病院と訪問看護ステーションの間で看護師の行き来があることは、これからの時代のあり方を考えたとき、非常に意義のあることだと思います。その上で、お互いの成長につながるとてもいい制度だと感じたので、これからも積極的に取り組んでいくつもりです。また、いったんは所属が出向先に移る形態なので、県外からの受け入れも可能であり、とても広がりのあるモデルだということもメリットです。訪問看護ステーションは普及啓発や教育なども役割の1つであるべきなので、今回のような取り組みをきっかけに、医療・地域連携を深めたり、地域医療・訪問看護の発展をリードしたりと、今後も積極的に活動していきたいと思います。

               

              メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ

               

               

               

              メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ

              ケアプロ訪問看護ステーション
              中野ステーション


              事業所番号:1361390048
              〒164-0011 東京都中野区中央4-25-14 中央ハウス A2
              最寄り駅:JR中野駅 徒歩10分 丸ノ内線新中野駅 徒歩5分
              URL:https://carepro.co.jp/zaitaku/
              TEL:03-6696-9789
              FAX:03-6849-5039

               

               

              この記事を評価する

              • このエントリーをはてなブックマークに追加

              TOP