2019.01.18
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頸椎人工椎間板置換術について

メディカルサポネット 編集部からのコメント

頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症といった疾患に対して、前方除圧固定術では、運動機能(首をまげたり、伸ばしたり)が失われてしまうという宿命がありました。 しかし、運動機能を温存する頚椎人工椎間板は非常に画期的な治療です。全ての方に手術の適応があるわけではありませんが、今後さらなる改良・普及が期待されています。

 

2018年から,わが国において頸椎人工椎間板置換術の臨床使用が始まりました。頸椎人工椎間板置換術の特徴,対象疾患,および適正使用基準についてご教示下さい。東京医科歯科大学・大川 淳先生にご回答をお願いします。

【質問者】

山崎正志 筑波大学医学医療系整形外科教授

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【回答】

【1~2椎間の頸椎前方手術に対して積極的に適応されることが期待されている】

 

頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症に伴う神経障害(脊髄症,神経根症)に対して,わが国では主に前方除圧固定術が行われてきました。前方除圧固定術は罹患椎間での神経圧迫因子を取り除き,障害部位の動きを止めることで神経症状の改善効果を期待しています。一方で,椎間本来の可動性を犠牲にするために,固定隣接部への負荷が増大し,変性が加速されます。結果的に隣接椎間に障害が発生し,ヘルニアが脱出したり骨棘が形成されて症状の再発を見ることがあります。それに対し,人工椎間板置換術は,神経組織への圧迫を取り除く操作を従来どおりに行った後に,可動性を有するインプラントを設置する手術手技です。固定はせずに椎間の可動性を保持することによって,隣接部での障害の発生を防ぐ目的で開発されました。

 

米国では食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)が2007年に認可して以降,8種類の製品が承認され,近年では年間1万例以上の頸椎人工椎間板置換術が行われています。数年の経過観察においても比較的良好な成績が報告されています。わが国でも2017年に認可され,2018年から保険にも収載されて,手術が可能になりました。

 

対象疾患は,原則として,3カ月以上の保存療法に抵抗する,C3/4~C6/7の間の椎間板ヘルニア,骨棘を主因とした頸部神経根症または脊髄症となっています。症状が頸部痛のみの場合は,原則として適応できません。また,画像上著しい椎間板狭小化がある場合にも,早期に人工椎間板の利点である可動性が失われる可能性があることから,避けるべきとされています。また,挿入できる椎間板数は当面1椎間のみとしています。術者にはあらかじめトレーニングが義務づけられており,一定の施設基準もあります。このように,現在のところ慎重な導入・普及が図られている状況ですが,将来は1~2椎間の頸椎前方手術に対して積極的に適応されることが期待されている術式と言えます。

  

【回答者】

大川 淳 東京医科歯科大学整形外科学教授

 

執筆:

山崎正志 (筑波大学医学医療系整形外科教授)

大川 淳 (東京医科歯科大学整形外科学教授)

       

 出典:Web医事新報

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