2019.09.02
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SFの世界を実現したい ”着るロボット”で働き方変える
(ATOUN MODEL Y)

【 医療テックPlus+】第6回/株式会社ATOUN

作業における体への負担を軽減するパワードウェアの開発などを手がける株式会社ATOUN(アトウン)は、今年7月から介護施設への製品提供を開始しました。2003年の同社設立以来、介護業界からは数多くの要望が届いており、参入は常に視野に入れてきたチャレンジでした。しかし、作業の対象が「人」となることからさまざまな配慮が必要になったそうです。パワードウェアが介護業界で果たす役割やこれからの展開について、代表取締役社長の藤本弘道さんにお話を聞きました。

取材・文/秋山健一郎
写真/和知明(株式会社ブライトンフォト) 
編集・構成/メディカルサポネット編集部

【 医療テックPlus+】第6回 「腰用パワードウェア『ATOUN MODEL Y』」 株式会社ATOUN

 

    SFの世界を実現したい ”着るロボット”で働き方変える 

    機械の力で作業を楽にする「パワードウェア=着るロボット」を開発するにあたって、医療や介護の世界は「長らく意識してきた領域」だと藤本社長は言います。現場からの製品を求める声が多くあったにもかかわらず、ビジネスに踏み出すまでに時間を要したのには理由がありました。

     

    ――今回、新たに介護施設向けに提供を開始した「ATOUN MODEL Y」は、物流の現場などで活躍してきた機種だそうですね。

    空港の貨物搭降載業務などで使われている腰用パワードウェア「ATOUN MODEL Y」(ATOUN提供)空港の貨物搭降載業務などで使われている腰用パワードウェア「ATOUN MODEL Y」(ATOUN提供) 

    空港の貨物搭降載業務などで使われている腰用パワードウェア「ATOUN MODEL Y」(ATOUN提供)

     

    藤本弘道さん(以下、藤本)倉庫や工場での作業、空港内での積荷の運搬などに携わるグランドハンドリング業務、農作業などでも使っていただいているパワードウェアです。2015年に発表したシリーズの第2世代に当たるモデルで、背負うようにして装着し、腰部にかかる負荷をモーターの力で軽減できます。今年は、腕を使った作業の負荷を減らす補助機能を追加したプロトタイプも発表しました。

     

    ――そうした現場で扱う「荷物」と介護施設で扱う「人の体」では、異なる部分も多そうです。

     

    藤本:そうですね。決定的に異なるのは、運ぶ対象が物から人体になることです。体は一人ひとり形も状態も違いますし、運んでいる時に動くことも想定したさまざまな配慮が求められます。そのため、今回は福祉施設の協力を得て1年ほどかけて現場で検証しながら懸案事項を改めて洗い出し、新たな運用ルールをつくりました。それこそ、介護施設に泊まり込みでリサーチを行ったエンジニアもいますよ。その中で、ロボットを使った介護に心理的抵抗を持つ人がいることもわかってきて、福祉の専門学校と連携し理解を深めていく取り組みも始めました。

     

     

    福祉施設で1年以上検証し、パワードウェアの活用法を体系化したという

    福祉施設で1年以上検証し、パワードウェアの活用法を体系化したという

     

    ――業界からの要望が届いていたなかで参入せずにいたのは、そうした安全性への懸念や、現場の受け入れ体制の未整備が理由なのでしょうか? 

     

    藤本そうではありません。かつてのモデルでは、介護の現場で活用いただくには性能の面で十分とは言えない部分もありました。あまり突っ込んだ議論がなされてこなかったのですが、介護現場で求められるのは、実は単なる”上げ下げ”の力のサポートだけではないんです。「それでもいいから販売してくれないか」という声もいただいておりましたし、補助金制度という追い風もあったのですが、せっかく使っていただくなら長く愛用してもらいたいし、満足してもらいたいですよね。 

     

    「さらに軽く」を追求 次は介護を支える普及機目指す

    販売するのであれば、使う人を本当に幸せにすることができるレベルの製品を。ましてや購入時に補助金が供出されるのであれば、そこにはなおさらこだわる必要がある――。藤本社長が介護の分野に足を踏み入れるのをためらってきた理由は、メーカーの社長としての矜持でした。

     

    ――性能面で見合わないと感じたのは、具体的にどういった点でしょうか?

     

    藤本介護ではおむつの交換やベッドでの更衣の介助、車いすとベッドの間での移乗、寝浴介助など、介護を必要とする方の体を持ち上げたり動かしたりする作業は多くあります。例えばおむつでも、わたしたちがリサーチさせていただいた施設では交換したものを一度床に置き、それを集めて回るという低い姿勢での作業がありました。パワードウェアが役立つ作業ではあるのですが、物流業界での荷物の運搬のように連続で行う作業ではないので、パワードウェアを装着しても機能を使わない時間がある程度生まれてしまうんです。旧モデルのパワードウェアにはそれなりの重さがありましたから、使わない間は負荷になってしまいます。脱着するにしても多少手間がかかるので、メリットを享受しにくいのではないかと考えていました。でも、昨年発表した「ATOUN MODEL Y」は4.5kgと2015年に発表した旧モデルから2.9kg軽くでき、ある程度の時間なら、さほどの負荷を感じずに装着し続けられるようになりました。それで、介護分野でもメリットを生み出せるかもしれないと考えるようになったのです。

     

     「次世代機では3kg台を目指したいですね」

    「次世代機では3kg台を目指したいですね」

     

    ――重量の部分の課題が解決しかけているのですね。

     

    藤本:そうですね。でも、わたしとしてはまだまだやれる、と見ています。次世代機では、さらに軽量化させて3kg台に持っていきたい。そうなれば、もっと広く標準的に介護業界でパワードウェアを活用いただけるようになるのではないかと思います。ただ、維持しないといけない機能が多くあるので、さらなる軽量化は大きな挑戦でもありますね。

     

    ――なるほど。さらなる軽量化のためには、バッテリーが進化したりすれば……

     

    藤本:今のモデルのバッテリーは500gの重さがあるので、その軽量化が進めば大きいです。もっと小さなものにするという考え方もありますが、介護分野では「長い時間装着できること」がポイントになるので、できれば今と同じくらいのものは搭載したい。他の分野であれば「30分だけ動けばいい」といったニーズもあるので、その場合はバッテリーを削るという選択肢も出てくるかもしれません。あとはアニメの「エヴァンゲリオン」のように、通常は有線で給電して、コードを抜いた状態ではごく短い時間だけ動くものや、スーパーキャパシタと呼ばれる急速充放電が可能な蓄電デバイスを使ったものであれば、2kg台も夢ではないと考えています。

     

    ――今回の介護業界への参入では、次世代機への手がかりも得られそうですね。

     

    藤本そうですね。普及機を目指す次世代機をよりよいものにするためにも、使ってくださる方たちの声をダイレクトに聞きたいと思っています。実際に製品の提供に踏み切ったのは、ご自身で購入し、使っていただくことでしか聞こえてこない本音があると考えているからでもあります。

     

    介護の現場から生まれるかもしれない未来の風景

    藤本社長は介護を「本丸」と表現し、念願の進出だったと言います。「パワードウェアのような製品が社会に実装されてイノベーションが進み、思い描いてきた未来を引き寄せるための熱狂を呼び起こす上で、この事業はとても重要」とも。

     

    藤本:介護業界に踏み出さなかったので、周りからは参入に否定的だと思われてきたんです。だから今回、「ついに解禁した!」と言う人もいるのですが(笑)、実はそうではありません。わたしたちが医療や介護の世界を意識していたのは、創業当初から。業界でもかなり早かったはずですし、ずっと「いつかは」と思い続けていました。その理由の一つが、介護業界を対象にしたビジネスがBtoCに近いことです。そもそもわたしは「子どもの頃にあこがれたSFの世界の風景を現実の社会に描き出したい」と思いながら仕事に取り組んでいます。利益を上げることよりもそちらに関心があるくらい。そのためには新しい技術が次々に社会に実装され、ビジネスとして成立し、熱狂が巻き起こる必要があります。ロボットやパワードウェアの分野は、まさにそうなろうとしています。BtoCビジネスは熱狂を加速させる上で特に重要であり、中でも介護業界でのパワードウェアの普及は、直接的に日々の生活風景を変えるものでもあります。

     

    ――介護から未来の風景が始まるのなら、それは楽しみですね。

      

    藤本:もちろん課題はあります。物流業界ではパワードウェアを使うことで実現する生産性向上は利益を導きますが、介護業界ではパワードウェアは働く人の快適性を高めるものの、残念ながら目に見える数字としては評価されづらい。「介助が早く、楽に終わるようになったから、受け入れる人数を増やそう」とはあまりならないですから。働き方を変える、離職率を下げる、あるいは賃金を上げるなどの仕組みとも紐づけて考えていく必要があると思っています。でも、まずは今より少しでもゆとりを持って働ける環境をつくっていくことからでしょうか。それで解決する課題はたくさんあるはずです。人が歳を重ねて衰えるのは筋力で、経験は衰えません。筋力の衰えを助けるだけでも社会を少し変えられると思っています。

     

    「パワードウェアを通して、介護職の離職率低下や賃金アップにつなげていきたい」

    「パワードウェアを通して、介護職の離職率低下や賃金アップにつなげていきたい」

     

    独創的な語り口でパワードウェアと介護の未来を語ってくださった藤本社長。印象に残ったのは「利益を上げることよりも、SF作品で描かれたような空想の実現に貢献することに興味がある」という言葉でした。本気とも冗談ともつかない表情で、「200歳まで生きるって決めたんです。未来の風景が見たいから」と話すとてもユニークな方でした。

      

    株式会社ATOUN

    株式会社ATOUN

    住所:奈良県奈良市左京6丁目5-2

    URL:http://atoun.co.jp/

    2003年6月に松下電器産業の社内ベンチャー制度「パナソニック・スピンアップ・ファンド」により設立。現在の社名は「あうんの呼吸」にちなんでおり、あうんの呼吸で動くロボットによって年齢や性別に左右されずに働ける「パワーバリアレス社会」を目指している。「ロボットを着て、人間がもっと自由に動き回れる世界をつくる。」をミッションに掲げ、今回紹介した力をサポートするパワードウェアのほかにも、力を拡張して人間の作業を支えるパワードスーツの開発なども手がけている。藤本弘道社長は、奈良女子大学などで客員教授を務め女性エンジニアの育成にも力を注ぐ。

    メディカルサポネット編集部 (取材日/2019年8月7日)

     

     

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