2020.10.27
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ICT化による管理業務の効率化
大久保季絵さん(株式会社SmartHR クロージングセールスグループ チーフ)

第11回メディカルフォーラム講演レポート【第2部】

2020年9月16日、医療業界のデジタル化をテーマに開催された「第11回メディカルフォーラム」(マイナビ主催)。第2部は、病院・薬局関係者向けに、雇用契約書のペーパーレス化などの事業を展開する株式会社SmartHRで医療・福祉業界の電子化を進める大久保季絵さんを講師にお迎えしました。業務の効率化が手つかずの人事労務領域において、クラウドシステムなどを活用していかに効率化を図るべきか――。大久保さんは、人事労務領域の効率化と働き方改革の展望について語りました。

取材・文/横井かずえ
編集/メディカルサポネット編集部

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プロフィール

株式会社SmartHR クロージングセールスグループ チーフ

大久保 季絵(おおくぼ きえ)


大手インターネット広告会社にてキャリアをスタート。
新規開拓や商品開発・人材領域特化プロジェクトを経験した後、株式会社SmartHRへ入社。
働き方改革や法律改正に対応しつつ、日本全国の人事労務業務の改善に従事。2020年より、医療・福祉業界を中心に業界全体の電子化を進める。
管理部だけではなく、働く全ての方が本来注力すべき「価値ある仕事」にすべての時間を費やしていただくことを目指している。

  

効率化が手つかずだからこそ 効果が大きい人事労務領域

今、業務の効率化において、非常に注目を集めているのが人事労務領域です。なぜかというと効率化が普及しつつある医療・ヘルスケア分野において、人事労務領域は唯一、手つかずの分野だからです。裏返せば人事労務領域における効率化は、非常に効果が大きいともいえます。

 

昨今は働き方改革の必要性が叫ばれています。なぜ働き方改革が必要かというと、ひとつには日本の労働人口が急速に減少しているからです。2017年から2030年までの13年間で940万人減少すると試算されていて、これは東京都23区の人口に該当し、1日当たり約2000人減っていることになります。こうした中、少ない人数で多くの業務を行うためには、効率化はもはや欠かせない視点です。

 

人事労務における主な業務は「採用」「研修・教育」「評価」「制度企画」「労務」「給与計算」「社会保険」「勤怠管理」「年末調整」「その他」です。

 

このうち「採用」や「教育」は時間をかけて行うべき業務といえます。そして「給与計算」や「勤怠管理」はすでに優れたサービスがあり、効率化されている領域です。

 

では「労務」「社会保険」「年末調整」はどうでしょうか。この業務はいまだ電子化されず、非効率なまま行われているケースが大半です。

 

デジタルファースト法案や電子政府 行政が大きく電子化へ舵を切る

これには行政側の対応もあるのですが、ここ最近で政府の対応も変わりつつあります。例えば電子政府というものができて、電子申請ができる環境が整ってきました。また昨年にはデジタルファースト法案が成立し、行政手続きの電子化が一層、推進されることになりました。このほか厚生労働省から、2040年にむけた「医療・福祉サービス改革」が示されて、医療・福祉における生産性向上の目標値が明示されています。

 

このような大きな流れの中で、人事労務領域における改革は待ったなしの状況です。そして、いまだ手つかずの人事労務領域こそ、効率化によって大きな恩恵を得られるのです。

 

どのように効率化すべきかをお話する前に、人事労務領域において課題となっていることを整理したいと思います。

 

課題としては、次のような点が考えられます。

 

・紙の記入、入力作業が多く、業務効率が低い

・(紙の書類は)従業員の負担が大きく提出に時間がかかる

・書類紛失など人的ミスや行政監査リスクがある

・情報がバラバラでどこにあるかわからない

・採用、配置、育成、評価に時間を割けない

・業務が属人化し、仕事の滞留や業務過多につながる

 

これらの課題についてクラウドなどのシステムを活用すれば、どのように解決できるかをご紹介します。

 

ペーパーレスや情報の一元化で課題を解決

まず「紙の記入・入力作業」「従業員の負担が大きく提出に時間がかかる」「書類紛失など人的ミスや行政監査リスク」については、ペーパーレス化を進めることで解決が可能です。

 

人事労務領域を非効率にしている最大の原因は“紙”です。入社関連書類や行政提出書類など、人事労務のご担当者様は非常にさまざまな書類を扱わなければなりません。

 

このことについてみなさん当たり前だと思っていたかと思います。私自身も当たり前と思っていました。

 

しかし、視点を変えれば、医療現場においては電子カルテや予約サービスの普及など、IT化や効率化が少しずつ普及する中、人事労務は突出して紙のやり取りが多いのも事実です。

 

紙でやり取りしていると、郵送などのやり取りに伴う負担、さらに情報の保管も問題になります。例えば、今はGoogleなどで必要な情報をすぐに検索することができますが、紙の書類だと個人情報の検索も非常に労力がかかります。

 

仮に、担当者が従業員の情報を1日1回調べるとして、所要時間は1回3分とします。これは年間でみれば720分、つまり13時間もの時間を情報の検索に取られていることになります。これは本当に必要な時間でしょうか?

 

このように情報のペーパーレス化は、業務効率化の大きなポイントのひとつになります。

 

次に「情報が複数の場所でバラバラに保管されている」「採用・配置・育成・評価に時間を割けない」という課題です。これについてはデータの一元管理で解決できます。

 

例えば同一法人内に3つの施設があるとします。これまでは情報管理の方法が施設ごとに異なるため、法人内で異動などが発生した時に、新たに従業員から情報を収集する手間が発生していました。

 

また法人全体で情報を分析したいという時に、そもそもデータを整備するところから始めなければなりませんでした。

 

これを法人内の複数施設で全て同じデータベースで完結できるように整備すれば、負担は大きく軽減されます。

 

特定の人にしかできない業務が発生し「業務が属人化して仕事の滞留や業務過多につながる」という課題には、定常業務を標準化することで解決できます。

 

さまざまな業務の中で、労務に関して特に属人化が多く発生する傾向があります。これは業務の内容上、専門書を参照しながら複雑な書類を作成する必要があるなど属人化が起こりやすかったからです。

 

このような属人化は経営の継続性におけるボトルネックになっています。解決するにはいくつかの方法がありますが、マニュアルを整備することもひとつです。

 

単純業務を効率化して 管理部門からクリエイティブな提案が増加

当社は効率化が遅れている人事労務領域において、多くの法人様のご支援をさせていただいてきました。「恒常的に発生し」かつ「単調で煩雑な業務」の電子化をお手伝いすることで、人事労務領域ご担当者様が本来の業務に専念できるよう、ご支援させていただいています。

 

ご担当者様からは「手書きやハンコ、サインがなくなった」「煩雑な手続きがいらなくなった」「郵送やFAXがなくなった」「窓口に行く必要がなくなった」など、業務の効率化についてうれしい声をいただいています。

 

中でも私たちが予想していなかった「管理部門からの新たな業務改善の提案が増加した」といううれしい感想をいただいたことがありました。単調な業務を効率化することで、生み出した時間をブランティングや新たなPR戦略など、より組織運営を活性化させるためのアイディア創出に使うようになったそうです。

 

ここまでお話してきたように、人事労務領域における課題は「ペーパーレス」「データの一元管理」「定常業務の標準化」――この3つの方法で解決が可能です。

 

働き方改革は担当者に丸投げでは実現できません。今日、お伝えしたことを明日から業務に生かしていただくために、ぜひともご担当者様との会話の中で「できている部分」「できていない部分」を把握していただければと思います。

 

例えば「今の業務で紙がいらなくなったらどうかな?」とか「施設ごとにデータがバラバラで困ることはない?」、あるいは「引継ぎにはどれくらい時間がかかっているの?」など、コミュニケーションの中でご自分の組織の課題を把握することから始められてはいかがでしょうか。

 

メディカルサポネット編集部(講演日:2020年9月16日)

 

 

 

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