2019.01.14
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非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)における肝線維化診断の重要性について

メディカルサポネット 編集部からのコメント

糖尿病や高血圧症、狭心症、心筋梗塞などの生活習慣病のの由来と言われるメタボリックシンドローム。中でも、非アルコール性脂肪肝は「肝線維化」に伴い、男性では大腸がん、女性では乳がんのリスクが高まります。また、循環器内科では表皮・深部組織感染における「重症下肢虚血」も疑っています。専門分野の研究が進むとともに、複数の異なる医療画像データを一元的に管理・閲覧できるようなマルチモダリティの重要性がますます増していくことでしょう。

 

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は,病態が進行することが稀な単純性脂肪肝(NAFL)と肝硬変や肝細胞癌に進行することのある非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に分類され,NASH診断の重要性が唱えられてきました。しかし近年,NAFLDの予後はNAFL/NASHの診断よりも,肝線維化の進行程度が影響することが報告されています。そして,肝生検に代わる非侵襲的な肝線維化診断方法も発達しています。この点に関して,名古屋大学・伊藤隆徳先生にご教示を頂きたいと思います。

【質問者】

多田俊史 大垣市民病院消化器内科医長

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【回答】

【NASH・NAFLにかかわらず線維化が予後に関連するとされ,注意が必要】

 

近年,メタボリック症候群に伴う,非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)が増加し,最近の疫学調査ではわが国における男性の約40%,女性の20%がNAFLDであると報告されています。NAFLDは組織学的に肝硬変,肝癌に至る可能性のある非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)と比較的予後が良好である単純性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver:NAFL)に分類されます。かつてはNASHか,NAFLかを診断することが重要であり,その確定診断のために肝生検を行うべきだと考えられてきました。

 

しかし,いったん予後良好とされるNAFLと診断されても,その後NASHに移行するという報告が相次いだために,NASHとNAFLを厳密に区別することの重要性が薄くなってきています。それらの分類よりも予後に直結するのが,肝臓の肝硬変進行の度合い,つまり「肝線維化」です。近年NASH/NAFLにかかわらず線維化が予後に関連するとされ,肝細胞癌などの肝関連合併症発生のみならず,肝臓以外の他臓器癌の発生にも関わっていると報告されています。特に男性では大腸癌,女性では乳癌といった生活習慣病に関連するとされるがんのリスクが増加するため注意が必要です。

 

NAFLD患者の肝組織(線維化)の状態と予後を予測するためには,肝生検を行う必要がありますが,脂肪肝と診断される患者数は膨大であるため,全員に肝生検を行うことは不可能です。それではどのような患者に肝生検を勧めるべきでしょうか。非侵襲的肝線維化予測マーカーとして日常臨床で使用できるものにはⅣ型コラーゲン7sやヒアルロン酸,比較的新しいものではMac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体(M2BPGi)などがありますが,今回は「Fibrosis-4(FIB-4) index」という指標を紹介したいと思います。

 

FIB-4 indexは,〔年齢×AST/血小板×√ALT〕で計算される簡易的線維化マーカーです。NAFLD患者のデータを用いてカットオフ値を2.67とした場合,肝線維化(F3/F4)の陽性的中率は80%と報告されています。つまりFIB-4 index高値の場合,可能であれば肝生検を勧め,それが難しければ厳重に経過観察を行うべきと考えられます。FIB-4 indexは計算式に平方根(√)が入っていたり,手計算で行うのは大変ですが,幸いインターネット検索エンジンにて「FIB-4 index」と打ち込むといくつかの自動計算ソフトが使用できます。ASTやALTの採血変化に一喜一憂せず,時にはFIB-4 indexを計算してみてください。

 

ほかにも,近年はエコーやMRIを用いた肝硬度の測定が可能となっています。特にMRIを用いたMRエラストグラフィは客観性が高く,経時的に線維化を評価することができ,有用性を示した報告が散見されます。しかし装置自体が高価であり,測定は一部の施設に限られます。将来的にはこれらのモダリティを用いることで,線維化診断のための肝生検は不要となる時代が来るかもしれません。何よりNAFLDは全身性慢性炎症の一表現であるため,肝臓内病変のみにかかわらず,心血管系イベントや他臓器癌発生のチェックなど全身に目を向けることが臨床医として一番大切ではないかと考えます。

 

【回答者】

伊藤隆徳 名古屋大学医学部附属病院消化器内科

 

執筆:

多田俊史(大垣市民病院消化器内科医長)

伊藤隆徳(名古屋大学医学部附属病院消化器内科)

       

 出典:Web医事新報

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