メディカルサポネット 編集部からのコメント社会にストレスが溢れている現在「心を落ち着いた状態」に保つことは非常に困難です。仕事でも、人間関係でも「あれこれ考える」ことをいかに求められていることでしょうか! 瞑想やヨガはスポーツクラブでも人気のレッスンです。また、音楽を聴く、好きな香りを嗅ぐ、動物と戯れるなど、対策も人それぞれです。そんな中、その人にピッタリのものをアドバイスするには、時間がかかるのは当たり前。早急な結果を求めない心理状態をぜひキープしてください。 |
実臨床では定型的な診断基準に当てはまらない人が少なからずいますが,不安が強く強迫傾向があり(不安症や強迫症の水準には至っていない),攻撃性の高い患者群の怒り・不機嫌の爆発の制御には難渋します。リラクセーションとしての呼吸法や漸進性筋弛緩法,認知行動療法的なアプローチとしてのセルフモニタリングなど,ホームワークとして指導しても部分的な実行にとどまり,時間のかかる外来診療になりがちです。日常の外来で効率よく自分を慈しむマインドフルな状態に導けるような指導手順について,慶應義塾大学・藤澤大介先生にご教示を頂きたく思います。
【質問者】
八田耕太郎 順天堂大学医学部附属練馬病院 メンタルクリニック教授
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【回答】
【一般外来でのマインドフルネスの導入】 |
(1)マインドフルネスの定義の再整理
回答に先立ち言葉の定義を整理しておきます。マインドフルネスは,概念,プログラム,スキルのいずれを指す言葉としても用いられます。「今この瞬間の心の動きに気づき,価値判断することなく,意図的に注意を向けて関わろうとすること」1)が概念としてのマインドフルネスであり,そういった状態を体得・維持する方法のひとつがマインドフルネスのスキルの実践であり,スキルをパッケージ化したものがマインドフルネス・プログラムです。
マインドフルネスの実証研究は,定式化された「マインドフルネス・プログラム」についてであり,技法や概念そのものの臨床効果が実証されているわけではないことに注意が必要です。
(2)マインドフルネスの心理教育
マインドフルネスの概念を解説するだけでも有益な患者もいます。患者の実体験と結びつけて説明ができるとよいです。たとえば,何かに夢中になっているときには痛みや悩みを忘れていた,などです。あるいは,抑うつや不安になっているときには,心が“今ここ”ではなく,過去(「どうしてあのとき〇〇してしまったのだろう」)や未来(「〇〇してしまったらどうしよう」)に飛んでいると話してもよいと思います。
脳の2つの情報処理モードの解説も役立つかもしれません。問題を解決する際に使う,様々な考えを巡らせている「することモード(doing mode)」と,今の経験をそのまま感じ取り向き合う「あることモード(being mode)」があり,マインドフルネスで涵養するのは後者です。「あることモード」で,自身の思考や感情を観察できると,そこから距離を取り(脱中心化)心身の苦悩が和らぎ,より適応的な認知や行動につながる可能性が高くなります。
(3)スキルとしてのマインドフルネス
マインドフルネスのスキル単体での効果実証は少ないですが,呼吸瞑想などは短い診療の中でも実施可能で,一定の効果実感や,患者のマインドフルネスへの動機づけにつながりえます2)。
また,食べ物を注意深く味わったり,歯磨きなどの動作を丁寧に行うなどといった日常生活での“informalな”瞑想実践的活動も,マインドフルネスの涵養に役立ちます。外来で解説し,患者に日常課題として取り組んでもらうとよいでしょう。
(4)マインドフルネス獲得のために
マインドフルネスは体験的に獲得されていくものであり,効果を実感できるまでに時間が必要なことが多いです。忍耐も必要であることを教示します。セルフヘルプの資材3)4)の併用も提案できます。
【文献】
1) ジョン・カバットジン:マインドフルネスストレス低減法. 北大路書房, 2007.
2) Beng TS, et al:Am J Hosp Palliat Care. 2016;33 (6):555-60.
3) マーク・ウィリアムズ, 他:自分でできるマインドフルネス 安らぎへと導かれる8週間のプログラム. 佐渡充洋, 他, 監訳. 創元社, 2016.
4) こころのスキルアップ・トレーニング.
[https://www.cbtjp.net/mindfulness/]
【回答者】
藤澤大介 慶應義塾大学医学部医療安全管理部/精神・神経科准教授
執筆:
八田耕太郎 順天堂大学医学部附属練馬病院 メンタルクリニック教授
藤澤大介 慶應義塾大学医学部医療安全管理部/精神・神経科准教授
出典:Web医事新報