メディカルサポネット 編集部からのコメント糖尿病の治療に用いられているチアゾリジン薬ピオグリタゾンの扱いについて、その危険性を藤村昭夫先生が注意勧告を行っています。処方前・処方後のチェックはもとより、慎重なチェックや、症状への対応が必要です。 |
臨床薬理学的特徴(表)
■1種類のチアゾリジン薬ピオグリタゾンが糖尿病の治療に用いられている。
■ピオグリタゾンは,主に薬物代謝酵素CYP2C8によって代謝される。
■リファンピシン等のCYP2C8活性を誘導する薬物と併用するとピオグリタゾンの血中濃度が約50%低下するため,血糖コントロールが悪くなる可能性がある。
チアゾリジン薬の作用機序(図)
■インスリン抵抗性を有する2型糖尿病患者では内臓脂肪に占める大型脂肪細胞の割合が高いため,インスリン抵抗性を惹起する腫瘍壊死因子α(TNFα)や遊離脂肪酸(FFA)の分泌は増加し,一方,インスリン抵抗性を改善するアディポネクチンの分泌は低下している。
■脂肪細胞に発現しているPPARγをチアゾリジン薬によって活性化すると,前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞への分化が促進して小型脂肪細胞が増加し,アディポネクチンの分泌は増加する。一方,PPARγを活性化すると大型脂肪細胞にアポトーシスが生じて細胞数が減り,TNFαやFFAの分泌は減少する。チアゾリジン薬によって生じるこれらの変化により,インスリン抵抗性は改善する。
■さらに,チアゾリジン薬によって中性脂肪は皮下に蓄積しやすくなるため,インスリンの主な作用部位である骨格筋や肝臓に蓄積する中性脂肪は少なくなり,インスリン抵抗性は改善する。
糖尿病治療における位置づけ
■以下のような,インスリン抵抗性が疑われる2型糖尿病が適応となる。
①肥満や内臓脂肪蓄積が疑われるBMI 25以上の症例
②メタボリック症候群の診断基準で決められたウエイスト周囲径を上回る症例
③HOMA-IR高値の症例
処方前のチェック項目
■循環血漿量の増加により心機能を悪化させる可能性があるため,心不全患者や心不全の既往のある患者では投与禁忌である。
■インスリン療法が適応となる病態(糖尿病性昏睡等)および重篤な肝障害では投与禁忌である。
■心不全発症の恐れのある心疾患を有する患者や低血糖を生じやすい病態(副腎機能不全,栄養不良状態等)を有する患者には慎重に投与する。
処方後のチェック項目
■循環血漿量の増加に伴う浮腫が出現し,さらに心不全が発症することがある。浮腫,急激な体重増加,心不全等の症状がみられた場合には投与を中止し,ループ利尿薬を投与するなど適切に処置する。
■女性患者で骨折のリスクが高くなるとされており,十分に注意する。
ピオグリタゾンと膀胱癌
■ピオグリタゾン投与中の患者で膀胱癌の発症リスクが1.22倍増加することや,ピオグリタゾンの総投与量の増加および投与期間の延長に伴ってリスクが増加する傾向のあることが報告されている。
■ピオグリタゾンを投与する前には患者に膀胱癌発症リスクについて説明し,投与中は定期的に尿検査等を行う。また,膀胱癌治療中の患者には投与を避け,膀胱癌の既往歴を有する患者では慎重に投与の是非を判断する必要がある。
執筆:藤村昭夫(自治医科大学名誉教授・蓮田病院学術顧問)
出典:Web医事新報