2018.10.22
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筋萎縮性側索硬化症の治療の未来について

メディカルサポネット 編集部からのコメント

指定難病の一つ筋萎縮性側索硬化症。有効な治療が確立しておらず、核酸医療による治療薬の開発に期待が高まっています。現在注目されているのは、細胞質の異常凝集体の除去が根治につながる治療戦略としてモノクローナル抗体3B12です。臨床応用に向けて、有効性と安全性の確認が必要になります。

 

筋萎縮性側索硬化症の異常凝集体を除去する治療抗体の開発に関する研究成果が発表され,今後の難治性疾患における臨床応用に大きな期待が持たれることと思います。この治療に関する基礎的な機序,動物実験における成果,臨床応用への展望について,滋賀医科大学・漆谷 真先生にお伺いします。

【質問者】

岡本智子 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科医長

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【回答】

【根治につながる治療戦略として注目されるモノクローナル抗体3B12A】

 

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は,運動ニューロンシステムの選択的変性によって,全身の随意運動筋群の筋力低下と筋萎縮をきたす神経変性疾患です。通常は,発症から3~5年以内に球麻痺や呼吸筋麻痺が出現し,延命には人工呼吸器管理が必要となります。60歳代を中心に発症し,わが国での発症率は10万人当たり7人程度,患者の9割は家族歴を有さない孤発例であり,有効な治療はありません。

 

近年,家族性ALSの原因遺伝子が次々と同定され,核酸医療による有効な治療薬の開発が期待されています。一方,長らく原因不明であった孤発性ALSにも脳脊髄病巣に存在する異常封入体の本体として,TAR DNA-binding protein 43(TDP-43)が同定されました。TDP-43は,本来核に存在するRNA結合蛋白質で,RNAの代謝に重要な役割を果たしていますが,ALSではTDP-43が細胞質に移動し異常封入体を形成します。これにより,核内TDP-43の機能が喪失し,運動ニューロン死が生じるという考えが有力です。細胞質の異常凝集体の除去は,TDP-43の核からの消失という細胞死への流れを断ち切り,TDP-43の機能を回復させることが動物実験でも示されていることから,根治につながる治療戦略として注目されています。この際,核内で機能する生理的なTDP-43と核外に異常局在した構造を区別することが必要です。

 

筆者らが開発したモノクローナル抗体3B12Aは,異常な構造をとったTDP-43分子の表面に露出するアミノ酸を抗原として作製されたもので,核内のTDP-43には結合せず,細胞質内に異所性局在し凝集体を形成したTDP-43のみと反応します。筆者らは,神経細胞内で抗体をつくらせ凝集体を除去する遺伝子治療をめざし,3B12Aハイブリドーマから抗体の可変領域遺伝子を単離し,最小の抗体単位である一本鎖抗体遺伝子を発現するベクターを構築しました。さらに抗体に分解シグナルを付加することで,プロテアソームやオートファジーといった細胞内分解系で処理される「自己分解型細胞内抗体」をデザインしました。

 

培養細胞や胎児のマウス脳を用いた実験では,核内の正常なTDP-43には影響を与えず,細胞質の凝集体のみ分解を促し,凝集体を減少させ,細胞死を抑えることに成功しました。

 

臨床応用には,適切なモデルマウスや霊長類を用いた,有効性と安全性の確認が必要と考えています。

 

【回答者】

漆谷 真 滋賀医科大学内科学講座 脳神経内科教授

 

執筆:

岡本智子 国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科医長

漆谷 真 滋賀医科大学内科学講座 脳神経内科教授

 

 出典:Web医事新報

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