2018.12.18
4.5

封入体筋炎が治療困難な理由と今後の治療展望は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

変性疾患の側面ゆえに、治療を困難にしている封入体筋炎。中高年以降に緩徐進行性の経過で四肢、特に大腿部や手指・手首屈筋を侵しますが、治療法はまだ確立していません。指定難病の一つとして、国内外で、病態の解明や治験の結果が待たれているのが現状です。治験情報については国立保健医療科学院のウェブサイトより検索可能です

 

封入体筋炎患者は他の筋炎と異なり免疫治療に対する反応も悪く,治療に難渋しているのですが,その理由と今後の治療展望についてお聞かせ下さい。東北大学・青木正志先生にご回答をお願いします。

【質問者】

幸原伸夫 神戸市立医療センター中央市民病院神経内科部長

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【回答】

【炎症性筋疾患ではあるが,筋の変性疾患の側面もあり治療を困難としている】

 

封入体筋炎は主に50歳以上で発症する慢性進行性の筋疾患ですが,欧米では50歳以上では最も多い特発性の炎症性筋疾患と言われています。わが国でも患者数が増えているという報告があります。臨床的には筋力低下および筋萎縮の分布が大腿四頭筋や手指・手首屈筋にみられるという特徴がありますが,診断の難しさや受診の遅れなどから初発症状から5年以上診断がつかない症例も少なくありません。また,進行性の嚥下障害のみが先行する例などもあり,筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患との鑑別が難しいこともあります。

 

診断には筋生検による筋病理が重要であり,炎症の要素を反映して筋内鞘への単核球浸潤を伴っています。特徴的な所見として縁取り空胞を伴う筋線維および,非壊死線維や筋内鞘への単核球の侵入や単核球による包囲がみられます。いわゆる難病新法の制定により開始となった「指定難病」にも指定され,厚労省の研究班により指定難病の認定基準である診断基準の作成も行われました。

 

ご指摘の通り,特異性の問題はあるものの自己抗体の報告もあり,封入体筋炎は炎症性筋疾患に分類される一方で,一般的に免疫治療に対する反応性は悪く,筋病理学的に観察される縁取り空胞が蛋白分解経路の異常など変性の関与を疑わせます。TAR DNA-binding protein of 43 kDa(TDP-43)は多くの組織や細胞で恒常的に発現するRNA結合蛋白ですが,封入体筋炎の骨格筋では筋核内のTDP-43が減少し,筋形質内に蓄積することが知られています。さらには選択的オートファジーに関与するp62蛋白も,高頻度に筋線維内に凝集します。これらの筋の変性疾患の側面が治療を困難にしていると推定されていますが,わが国を含めて国際的には様々な治験が行われていますので,病態の解明とともに治験の結果が待たれます。

 

【回答者】

青木正志 東北大学大学院医学系研究科神経内科学教授

 

執筆:

幸原伸夫 神戸市立医療センター中央市民病院神経内科部長

青木正志 東北大学大学院医学系研究科神経内科学教授

 

 

 出典:Web医事新報

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