2018.12.14
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血管肉腫の最新の治療方針は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

青あざや内出血斑のような発疹が拡大し、大きな斑や血豆のようなしこりとなる血管肉腫。高齢者で腫瘍径の大きい高リスク症例は治療に難渋する中、外科的治療、放射線治療、化学療法などが提供されていますが、まだ治療方針は研究途中です。筑波大学の藤澤康弘先生は、タキサン系抗癌剤と放射線の同時併用を推奨されています。

 

血管肉腫は肺などへの遠隔転移が多く,予後が悪い印象があります。以前はインターロイキン-2くらいしかありませんでしたが,最近はタキサン系の薬剤が有効であると聞いています。血管肉腫の最新の治療方針についてご教示下さい。筑波大学・藤澤康弘先生にご回答をお願いします。

【質問者】

菅谷 誠 国際医療福祉大学医学部皮膚科主任教授

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【回答】

【タキサン系抗癌剤と放射線を同時併用するconcurrent chemoradiotherapy】

皮膚血管肉腫の世界的な標準治療は広範囲切除と術後放射線治療で,欧米の5年生存率はおよそ30~40%程度です。一方でわが国の症例は予後が非常に不良で,5年生存率は10%以下です1)。欧米の研究で年齢,人種,組織学的グレード,腫瘍の大きさ,腫瘍の切除度をもとに低リスク,中間リスク,高リスクの3つに分類したところ,広範囲切除と術後放射線治療により低・中間リスク症例の予後は良好であったのに対して,高リスク症例は予後不良で生存期間中央値は1.6年でした2)。

 

なお,わが国で遠隔転移がなく手術を行った症例の生存期間中央値は約20カ月であり1),これはわが国の症例の多くが欧米の高リスク症例に当てはまることを意味します。つまり,欧米で標準とされる広範囲切除と術後放射線治療は,低~中間リスクに分類される症例(腫瘍径<3cmで年齢<70歳など)が適応と考えるのが妥当で,わが国に多い高齢者で腫瘍径の大きい高リスク症例は欧米でもその治療に難渋しています。

 

それでは,予後不良な高リスク症例はどのように治療すればよいでしょうか。筆者らは2005年からタキサン系抗癌剤と放射線を同時併用するconcurrent chemoradiotherapy(CCRT)を開始しました。これは,進行期の皮膚血管肉腫にタキサン系抗癌剤が奏効することが報告されていたこと3)4),そしてこの薬剤は放射線感受性を上昇させる効果があるとされていたことから,CCRTにより臨床的に明らかでない微小な転移を全身化学療法で抑えながら,局所では放射線の効果を増強させることができると考えたからです。

 

同様の治療を行っていた都立駒込病院と東京大学に協力を頂き症例を集積したところ,CCRTは従来の治療に比べて有意に予後が改善することが明らかとなりました5)。ただし,CCRT後に維持療法として化学療法を継続することが重要で,維持療法を行わなかった症例では従来の広範囲切除と術後放射線治療と同等の予後になってしまうこともわかりました。

 

CCRT以外では,従来の治療後に再発予防目的のアジュバント化学療法が試されていますが,予後の改善はないようです2)。そこで,術前に抗癌剤を投与してから手術を行うネオアジュバント治療も米国で試みられていますが,その結果はまだ報告されていません6)。

 

以上のことから,現状では高齢で腫瘍径が大きい症例の治療はタキサン系抗癌剤によるCCRTとその後の維持療法が最も良い選択と考えています。しかしながら,維持療法をいつまで続ければよいか,そしてタキサン系抗癌剤で完全奏効にならなかった症例や維持療法中に再発した症例に対するセカンドラインをどうするかなど,まだまだ課題もあります。現在,筆者らはタキサン系抗癌剤が効かなくなった症例に対するエリブリンの治療効果を検討していますので,近いうちにその結果を報告できると考えています。

 

【文献】

1) 水上晶子, 他:Skin Cancer. 2009;24(3):350-62.

2) Sinnamon AJ, et al:J Surg Oncol. 2016;114(5): 557-63.

3) Fata F, et al:Cancer. 1999;86(10):2034-7.

4) Nagano T, et al:Cancer. 2007;110(3):648-51.

5) Fujisawa Y, et al:Br J Dermatol. 2014;171(6): 1493-500.

6) Guadagnolo BA, et al:Head Neck. 2011;33(5): 661-7.

 

【回答者】

藤澤康弘 筑波大学医学医療系皮膚科准教授

 

執筆

菅谷 誠 国際医療福祉大学医学部皮膚科主任教授

藤澤康弘 筑波大学医学医療系皮膚科准教授

 

 

 出典:Web医事新報

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