2018.12.12
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リンパ浮腫に対するリンパ節移植の現状は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

リンパ節移植の最大の懸念はリンパ節を採取した部位のリンパ流に異常を生じる可能性があることです。安全かつ十分な移植組織の採取については今なお課題を残している状況です。期待通りの結果が必ず得られるとは限らない可能性もあることについて、患者には事前に納得していただく必要があります。

 

リンパ浮腫に対する外科的治療(予防)の中で,血管柄付きリンパ節移植の適応および効果,特に乳房再建時に行うリンパ節移植に関する最近の知見を千葉大学・秋田新介先生にご教示願います。

【質問者】

寺尾保信 がん・感染症センター都立駒込病院形成再建外科部長

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【回答】

【より高い治療効果と合併症の予防を目指し,知見が蓄積されてきている】

リンパ浮腫に対する外科治療としては,リンパ管細静脈吻合,血管柄付きリンパ節移植,脂肪吸引,およびそれらを複合した治療が代表的であり,主に症例集積研究を中心とした文献をもとにして,review articleもみられます。実際の治療方針の決定にあたっては,論文や国際学会発表の件数から,それぞれの国や地域によって治療方針に国際的な偏りが生じていることがうかがえ,術式の標準化は進んでいないのが現状です。わが国ではリンパ管細静脈吻合の重要性の割合が高く,これは,リンパ管細静脈吻合技術を確立した先人らの多大なる尽力と,治療の低侵襲性などが関わっていると考えられます。

 

リンパ管系は細胞外液の恒常性のみでなく免疫機構としての働きもあり,進行したリンパ浮腫に対する機能再建術としての治療効果は,リンパ節移植手術に軍配が上がるとする報告が複数あります。移植リンパ節にリンパ管細静脈吻合を追加する取り組みの報告や,移植組織に多くのリンパ節が含まれることが良好な治療結果と相関することを示した報告など,より高い治療効果を達成すべく,知見が蓄積されてきています。

 

リンパ節移植の最大の懸念はリンパ節を採取した部位のリンパ流に異常を生じる可能性があることです。乳房再建と同時に行う場合のリンパ節のdonor siteとしては鼠径が代表的ですが,reverse mappingとして下肢からのリンパ流を十分に把握する必要があります。この際,下肢のリンパ流は複数の支配領域にわかれていることに注意を払って造影検査を行う必要があります。多くのリンパ節を移植したほうが治療効果が高いことと,採取部の合併症の予防として限定した領域のリンパ節を採取することの間にはジレンマがあり,安全かつ十分な移植組織の採取については今後に課題を残している状況です。本治療法普及のカギも採取部合併症に対する安全性の確立にあると考えられます。

 

上肢リンパ浮腫に対して腋窩にリンパ節移植を行った場合,筆者らの報告では乳房再建とともに行った場合のほうが,そうでない場合よりも高い体積改善効果が得られました。郭清や放射線照射に関連した瘢痕化,線維化した組織の十分な解除と血流の良好な組織への置き換えが,高い治療効果を得るにあたって重要な要素となりえます。

 

乳房再建と同時に行う際は,乳房の整容的な形態とリンパ組織弁の適切な位置への配置を同時に成立させる必要があるため,再建乳房を栄養する血管(主に深下腹壁系)と,リンパ節を栄養する血管(主に浅腸骨回旋系)を,それぞれ血管吻合し自由な配置を可能にすることが望まれます。術前に十分な血管の精査,皮弁デザインと配置のシミュレーションを行うことが重要です。また,温存術後の乳房の変形を伴う例においては,浅腸骨回旋血管に栄養される領域の皮膚脂肪を用いることで,1つの血管茎でリンパ流,乳房形態の改善を同時に図ることが可能です。

 

【回答者】

秋田新介 千葉大学医学部附属病院形成外科診療講師

 

執筆:

寺尾保信 がん・感染症センター都立駒込病院形成再建外科部長

秋田新介 千葉大学医学部附属病院形成外科診療講師

 

 

 出典:Web医事新報

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