メディカルサポネット 編集部からのコメント

二次性鉄芽球性貧血が否定された場合は先天性の可能性も考慮する必要があります。しかし、診断に必要な解析が可能な施設は限られています。貧血はより重い病気のサインとなっていることが多々ありますので、必要に応じて専門医と連携を取ってください。しっかり検査を受けることが、重大な病気の発見にも結びつきます。

 

原因がなかなか特定できない貧血症例で骨髄中に環状鉄芽球を認めた場合,成人では骨髄異形成症候群を念頭に置くのが通常と思われますが,中には他の血球系に異型がはっきりしないことも経験します。そのような場合,特にどういった症例で先天性鉄芽球性貧血を疑うべきなのか,また,遺伝子検査も含めどのような検査を追加していくべきなのでしょうか。東北大学・藤原 亨先生のご教示をお願い致します。

【質問者】

生田克哉 旭川医科大学病院第三内科(血液・腫瘍内科) 講師

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【回答】

【血球の異型性が乏しい場合は先天性の可能性を考慮する】

鉄芽球性貧血は,ミトコンドリアに鉄が異常に沈着した環状鉄芽球の出現を特徴とする貧血の総称で,先天性と後天性の様々な病態が含まれています。

 

先天性鉄芽球性貧血は,赤血球におけるヘム・鉄代謝に関わる遺伝子の変異が原因となりますが,最多のものは赤血球型5-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS2:5-aminolevulinate synthase 2)の変異です。ALAS2遺伝子はX染色体上に存在するため,変異アリルのヘミ接合体による男児発症,小球性貧血,鉄過剰症(肝障害・心不全・糖尿病など)を特徴とします。一方,ALAS2の変異が重度の機能喪失型の場合は,女性のヘテロ保因者においても成人期に先天性鉄芽球性貧血を発症することがあります。

 

後天性鉄芽球性貧血は明らかな原因のある二次性と,骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndrome:MDS)に代表される特発性に大別されます。WHO分類によると,MDSのうち骨髄赤芽球中に環状鉄芽球を15%以上認めかつ芽球が5%未満で,血球の異形成を認めるものはMDS-RS(MDS with ring sideroblasts)と分類されます。さらに,MDS-RSにおいて高頻度に認めるSF3B1(Splicing factor 3b subunit 1)遺伝子の変異が認められる場合は,環状鉄芽球が5%以上存在していればMDS-RSと診断されます。二次性鉄芽球性貧血は,銅欠乏,鉛中毒,亜鉛やアルコールの過剰摂取,薬剤(抗結核薬,リネゾリド,d-ペニシラミン等)が原因となります。鉄芽球性貧血全体では,先天性・二次性よりもMDS-RSが圧倒的に多いです。

 

原因がなかなか特定できない成人の貧血症例で骨髄中に環状鉄芽球を認めた場合,MDS-RSをまず念頭に置きますが,異型性が乏しく染色体異常を伴わない症例を経験することがあります。先天性鉄芽球性貧血の中でも,最も高頻度なALAS2遺伝子変異に伴うものでは出生後すぐに症状を呈さずに成人になって明らかになる症例もあるため,二次性鉄芽球性貧血が否定された場合は先天性の可能性も考慮する必要があります。この診断においては,貧血の家族歴の有無のほかに,平均赤血球容積(MCV)低値,および鉄過剰症の存在が参考になります。SF3B1遺伝子変異の有無も診断上有用ですが,現在のところ限られた施設でのみ解析が可能な現状です。ALAS2遺伝子をはじめとした先天性鉄芽球性貧血の変異解析につきましては,当方までお問い合わせ下さい。

 

【回答者】

藤原 亨 東北大学大学院医学系研究科血液免疫病学分野講師

 

執筆

生田克哉 旭川医科大学病院第三内科(血液・腫瘍内科) 講師

藤原 亨 東北大学大学院医学系研究科血液免疫病学分野講師

 

 

 出典:Web医事新報

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