2018.10.31
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脊椎・関節疾患に対するロボットリハビリテーションの現状

メディカルサポネット 編集部からのコメント

SFの世界に登場するロボットスーツが現実化しています。HAL®(Hybrid Assistive Limb®)は、装着者の「動きたい」という意思を脳が送り出す微弱な電気信号から読み取り、それに合わせて動作を補助する装着型ロボットです。HAL®には立ち座りや歩行動作があらかじめプログラムされており、装着者の動作に合わせたアシストを行います。人間の意思にしたがって動く「随意制御」と、ロボットが自律的に動く「自律制御」という二つの制御システムを備えています。

 

脊椎・関節疾患に対するロボットリハビリテーションの現状についてご教示下さい。筑波大学/日本整形外科学会・山崎正志先生にお願いします。

【質問者】

新井貞男 あらい整形外科医院院長

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【回答】

【装着型リハビリテーション支援ロボットHAL®の臨床研究が進んでいる】

  

脊椎・関節疾患に対する治療として,近年,ロボット技術を用いたリハビリテーションが広まりつつあります。医療や介護分野で用いられるロボットは,大きく2種類に大別されます。病院や医療施設内で用いられるリハビリテーション支援ロボット,家庭や日常生活場面で用いられる生活支援ロボットです。リハビリテーション支援ロボットは,上肢障害に対するものと下肢障害に対するものがあり,使用されるロボットの種類は年々増え,対象疾患や使用方法,特徴がそれぞれ異なります。本稿では筑波大学で開発され,筆者らが臨床研究を進めているHybrid Assistive Limb®(HAL®)について述べます。

HAL®は装着型のリハビリテーション支援ロボットです。装着者の皮膚表面に生じる生体電位信号や各種センサー(関節角度・足圧)からの情報に応じて,関節部に設置されたパワーユニットが関節の動きを補助することで動作の支援を行います。現在利用可能なHAL®は,①両脚用,②単脚用,③単関節タイプ,④腰タイプに大別されます。「両脚用」は,両下肢・四肢不全麻痺,神経疾患による両下肢筋力低下のある患者に用いられます。「単脚用」は,主に脳卒中後の片麻痺に用いられます。「単関節タイプ」は,膝関節と肘関節への使用が多く,人工関節置換術などの膝関節手術後や,上肢機能障害患者の肘関節機能訓練に使用されます。「腰タイプ」は,股関節屈曲位からの伸展動作をアシストする機能があり,各種作業における腰部負担軽減を目的として用いられます。

HAL®の効果は単なるパワーアシストだけではなく,interactive Bio-Feedback(iBF)理論に基づいた「運動企図─運動─感覚情報のフィードバック」というループを介した運動学習の反復によるものと考えられています。iBF理論とは「動作意思を反映した生体電位信号によって,HAL®とヒトの中枢系と末梢系の間で人体内外を経由してインタラクティブなバイオフィードバックが促され,脳・神経・筋系の疾患患者の中枢系と末梢系の機能改善が促進される」というものです。

現在,筆者らの施設で進めている整形外科関連の臨床研究の対象は,①脊髄症術後の急性期,②脊髄症術後の慢性増悪(脊髄萎縮),③脊髄損傷・障害(急性期・慢性期),④頸椎術後の上肢(C5等)麻痺,⑤腕神経叢損傷(神経移行術後),⑥脳性麻痺,⑦姿勢異常(首下がり),⑧人工膝関節・高位脛骨骨切り術(術後),⑨肩関節機能障害です。

今後とも,脊椎・関節患者の病態に合わせて,最適なロボットリハビリテーションを選択して,新たな治療法の開発を進めていきたいと考えています。

【回答者】

山崎正志 筑波大学医学医療系整形外科教授

 

執筆

新井貞男 (あらい整形外科医院院長)

山崎正志 (筑波大学医学医療系整形外科教授)

 

 出典:Web医事新報

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