2018.09.05
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【他科への手紙】救急科→内科一般(特に消化器内科)

メディカルサポネット 編集部からのコメント

2010年と2012年には「終活」が、2011年には「エンディングノート」が流行語大賞にノミネートされ、今や終活本や、エンディングノートのコーナーは本屋に常設されるようになりました。「死を考える」ことは「今の生き方を充実させる」ことです。厚生労働省も、自らが望む人生の最終段階における医療・ケアについて、前もって考え、信頼する人たちと共有することが重要と考えています。

 

私は2005〜16年まで米国で外科・外科集中治療医として修練を積んできました。米国では国民の約40%が事前意思表示を保持しており、集中治療室で脆弱な高齢者に機能回復の見込めない集中治療を施すことは稀でした。

当救命センターは、3次救急受け入れ件数が年間約2500名と、都内1位のハイボリュームセンターです。その40%が75歳以上の高齢者であり、彼らの院内死亡率は60%にも上ります。75歳以上の高齢者の死亡者の45%が救急車搬入後初療室でそのまま死亡しており、入院後2日目までに死亡しているケースは70%にもなります。

このように現職場では、人生の最終段階にある脆弱な多くの高齢者が、明確な「事前意思表示」を持たないまま、施設で急変したり、自宅で倒れたりして、救急車で全力の心肺蘇生を行われながら搬入され、そのまま回復することなく亡くなっていきます。米国から帰国した直後はいちいち衝撃を受けていましたが、今となっては日常的な風景です。はたして患者は本当にこのような最期を望んでいたのだろうかと、想像を巡らせます。

わが国の厚労省による2017年の国民調査では、自分の人生の最終段階に関して家族と話し合ったことがある者はたったの3%弱でした。そのような背景もあり、厚労省は2007年に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の第1版を、2015年に改訂版、2018年3月に最新の改訂版を発表し、高齢者が「もしも」の時に備えて、ある程度元気なうちに、人生の最終段階について考える“Advance Care Planning(ACP)”の重要性を説いています。

ここで重要なのは、「ある程度元気なうちに」相談を始めることです。急変し、患者が救急車で運ばれてきて、家族が動揺しているような切迫した状況で、初対面の救急医が人生の最終段階に関する重要な意思決定に踏み込むには限界があり、そこから無益な延命治療につながるケースが少なくありません。救急車で運ばれてからでは遅いのです。たとえば、高齢者の方の介護度が上がり在宅医療を導入するときなど、患者自身が自分の衰えを具体的に認識するような出来事があった時が、ACPを始める好機なのではないかと考えます。

現在、ACPの相談員養成のための厚労省委託事業「患者の意向を尊重した意思決定のための相談員研修会」が全国で展開されており、在宅医療にかかわる多職種の方が参加されています。

患者と医療者の一人ひとりが、必ず訪れる自身の人生の最終段階について意識を高めることで、無益な延命治療を回避し穏やかな終末期を迎えることができるのではないでしょうか。

  

結び

在宅医療導入時早期に「もしも」の時を想定したAdvance Care Plan-ningをしはじめることをご検討下さい。

    

      執筆:伊藤 香 (帝京大学医学部附属病院高度救急救命センター講師)

 

 出典:Web医事新報

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