2018.09.19
3

【他科への手紙】救急科→内科一般(特に消化器内科)

メディカルサポネット 編集部からのコメント

急性心筋梗塞は患者の25%しか典型例にあてはまりません。胸やけは食道由来のものと心臓由来のものがありますが、冷汗をかいている患者には狭心痛を疑って心電図検査でST上昇をチェックするよう警鐘が鳴らされています。「いつもの症状」と思ってしまう油断は危険と隣り合わせです。ちょっとした変化も逃さないアンテナを心掛けてください。

 

研修医、ER医としての勤務医時代から、Clinical Pearlを教えて頂いたり、治療方針のアドバイスを頂いたり、内科の先生方にはお世話になりっぱなしでした。いま改めて、感謝申し上げます。特に内視鏡医の先生方には、緊急内視鏡検査など昼夜間を問わずお願いしてしまいましたが、颯爽と処置していく姿はさながら華麗に舞って人々を魅了するフィギュアスケーターのようでした。

  

そんな先生方に恐縮ではございますが、先日教訓的事案を経験しましたので、ご報告いたします。高血圧症の既往があって、降圧薬内服中の70歳代の女性の件です。その日の朝に腹痛があり、げっぷもあるということで午前中に消化器内科を受診されました。腹痛は心窩部痛で、胸焼けのような症状もあったようなので、上部消化管内視鏡検査を施行して頂き、逆流性食道炎の診断で、夕方に内服薬処方で帰宅されました。しかし、帰宅後も調子が悪く、ソファーで休んでいたところ夜間になり息子さんが帰宅された時に、ぐったりしており反応がないので救急車を要請されました。心肺停止状態であり、蘇生行為をしながら当院へ搬送されまして、一連のできうる加療を施しましたが、まったく反応なくお亡くなりになりました。

  

治療と並行して行った血液検査では、CK、CK-MB、白血球数の高度上昇、AST/ALTの上昇、トロポニンT陽性など、心筋梗塞を疑うデータが散見されました。CT検査では、大動脈解離などは認められませんでした。これをふまえて、もう一度、ご家族に聞くと、心窩部痛があった時に冷汗があったようです。しかし、動悸や胸痛はなかったようです。消化器症状が前面に出た急性心筋梗塞が死因と判断されました。

  

食道由来の胸焼けと心臓由来の胸焼けの鑑別は非常に困難です。まずは、「胸焼け」=「狭心痛」であるという心構えを持つことで、腹痛=腹部の疾患ではないという可能性が頭をよぎることができるかと思います。急性心筋梗塞の典型例(胸痛があって、心電図検査でST上昇)は25%と言われており、ほとんどが非典型例という救急でいうところの地雷疾患です。もちろん、心窩部痛の患者さんすべてに心電図検査をするという必要性はないですし、その多くの患者さんは消化器領域の疾患であることは先生方の経験されている通りです。しかし、アドレナリン全開になっている証拠である、冷汗を伴っていましたら、「いつもの」心窩部痛とは違ったギアを入れて頂き、心電図検査でST上昇をチェックしてみて下さい。誰が見てもわかる心電図や微妙な事案も多々あると思いますので、そのときはすぐにご連絡下さい。みんなで補完しあってチーム医療を実践していきましょう!

  

結び

消化器疾患と思い込みそうになる急性心筋梗塞は存在します。12誘導心電図を撮るという選択肢をお忘れなく。

    

      執筆:木川 英 (川越救急クリニック副院長)

 出典:Web医事新報

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP