2018.11.16
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認知症疾患診療ガイドライン2017[ガイドライン ココだけおさえる]

メディカルサポネット 編集部からのコメント

認知症疾患に関するガイドラインとしてしてスタンダードとされている「認知症疾患診療ガイドライン」の改訂版が刊行されました。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など原因疾患ごとの具体的な特徴や診断・治療法を幅広く網羅しています。各章はコンパクトにまとめられ、1~2行にまとめられた「CQ」、それに答える「推奨」、「解説・エビデンス」の順に、文献や参考資料が記されている。書籍版は医学書院より刊行されています。

 

主な改定ポイント~どこが変わったか

 

1 ‌「認知症疾患治療ガイドライン2010」の発行後に報告された新知見をふまえ,2017年に「認知症疾患診療ガイドライン2017」が発行された1)

2 ‌認知症患者の増加に対して行政的な取り組みも強化され,認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン),認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)が示された。また,認知症疾患医療センター,認知症初期集中支援チームの活動が進められた。さらに,2014年には医師の任意通報制度,2017年には改正道路交通法の運用が開始された

3 ‌“Alzheimer病”,“Alzheimer型認知症”などの用語,診断の進歩,バイオマーカー研究の進歩や治療の進歩をふまえた記載がされている

4 Lewy小体型認知症(DLB)についても新たな診断基準が示され,治療薬の認可などを受けて診断・治療の進歩を含めて記載されている

5 ‌変性性認知症疾患として,新たに嗜銀顆粒性認知症(AGDあるいはDG),神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)の臨床的特徴が記載されている

 

(1)総論:2010から2017へ

2011年にNational Institute on Aging-Alzheimer’s Association(NIA-AA)から,Alzheimer型認知症,軽度認知障害などの認知症診断基準が示された。使用可能なAlzheimer型認知症治療薬も4種類となり,さらに,厚生労働省からの「医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱い」文書による非定型抗精神病薬の使用に関する記載などのいくつかの変化や,ガイドライン活用の利便性を期待して「認知症疾患治療ガイドライン2010:コンパクト版2012」が発行された。

  

2013年に「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,5th Edition(DSM-5)」2)が公開され,“神経認知障害群(neurocognitive disorders:NCDs)”という表現が用いられた。これには,“せん妄”や“major and mild neurocognitive disorders”が含まれ,この日本語訳としては,“認知症(DSM-5)”と“軽度認知障害(DSM-5)”が用いられる2)。

 

前頭側頭葉変性症に関して,2011年にRascovskyらによるInternational Behavioural Variant FTD Criteria Consortium基準3)が出され,意味性認知症・進行性失語症に関するGorno-Tempiniらの報告4)もなされてきた。また,米国心臓協会/米国脳卒中協会による血管性認知症に関する包括的ステートメント5)では,血管性認知症の前駆段階としての血管性軽度認知障害(vascular cognitive impairment-no dementia:VCI-NDまたはvascular mild cognitive impairment:VaMCI)や血管性認知障害(vascular cognitive impairment:VCI)といった用語も提唱された。

  

行政的にも,2012年に①認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン),2015年に②認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)が策定された。また,画像検査・バイオマーカーの進歩など多くの研究成果も報告されてきた。

 

これらをふまえ,2014年にガイドラインの改訂が決定され,作業が進められ,2017年8月に「認知症疾患診療ガイドライン2017」1)(以下,本GL)が発行された。

 

(2)諸制度,社会資源

認知症患者のさらなる増加が予想され,行政的な取り組みも強化され,オレンジプラン/新オレンジプランが示された。認知症疾患医療センター,認知症初期集中支援チームの活動が進められ,若年性認知症についても取り組みが進められている。また,道路交通法においても,2014年に医師の任意通報制度が導入され,2017年から改正道路交通法が運用開始された。

  

まず,認知症疾患医療センターに求められている機能には,①専門医療相談,②認知症の鑑別診断と初期対応,③周辺症状と身体合併症の急性期対応などの専門的医療機能と,①認知症疾患医療連携協議会の設置・運営,②研修会の開催などの地域連携拠点機能がある。さらに,認知症初期集中支援チームは,専門家集団が訪問して地域での生活が維持できるような支援を,できる限り早い段階で提供することを使命としている。

「若年性」の規定について医学的には65歳未満の認知症発症患者を指すが,制度上では利用時点で65歳未満であるとされ,経済的課題についての支援制度,生活支援に利用できる制度,相談支援が記載されている。

 

また,認知症が疑われたり診断された場合には,公安委員会に通報することが可能になった。2017年の改正道路交通法の運用開始により,免許証更新時に第1分類(認知症のおそれあり)と判定された場合は,認知症の有無を確認するために医師の診断が必要となる。診断の結果,認知症であると判明した場合,免許取り消し等の対象となる。

 

(3)Alzheimer型認知症:用語,診断,治療

◆用語

「認知症疾患治療ガイドライン2010」ではAlzheimer病の病理学的変化によって生じたと考えられる認知症に対してAlzheimer病の用語を用いた。2011年,NIA-AAによりAlzheimer病は,根底にある病態生理学的過程全体を包含する用語として定義され,Alzheimer病による認知症を示す状態をAlzheimer病認知症として,Alzheimer病と区別した6)。

 

わが国では,Alzheimer病によると考えられる認知症状態をAlzheimer型認知症と呼称していた経緯もあり,本GLでは,Alzheimer病という病理学的背景に基づいて生じたと考えられる認知症についてはAlzheimer型認知症の用語が用いられることになった1)。なお,Alzheimer病の病変によることが証明されたAlzheimer型認知症と,臨床的特徴から診断された原因としてのAlzheimer病を証明していないAlzheimer型認知症に関して,本GLでは区別していない。

 

◆診断

本GLにおいては,①Alzheimer型認知症は潜行性に発症し,緩徐に進行する,②近時記憶障害で発症することが多い,③進行に伴い,見当識障害や遂行機能障害,視空間障害が加わる,④アパシー(自発性や意欲の低下)やうつ症状等の精神症状,病識の低下,取り繕い反応といった特徴的な対人行動がみられる,⑤初老期発症のAlzheimer型認知症では,失語症状や視空間障害・遂行機能障害等の記憶以外の認知機能障害が前景に立つことも多い,⑥病初期から著明な局所神経症候を認めることは稀である,などといった特徴および診断のポイントを記載してある1)。

 

Alzheimer型認知症の診断には,原因遺伝子変異,あるいは,脳脊髄液(crebrospinal fluid:CSF)中アミロイドβ(Aβ)42や総タウ,リン酸化タウ,アミロイドのポジトロン断層法(positron emission tomography:PET),MRI統計画像などを確認するのが望ましいが,実際の臨床現場では臨床的特徴に基づいて診断されることが多い。

 

◆治療

Alzheimer型認知症の治療では,コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジル,ガランタミン,リバスチグミン,N-methyl-D-aspartate receptors(NMDA)受容体拮抗薬であるメマンチンが使用され,軽度,中等度,高度の病期別アルゴリズムが示されている1)。

 

(4) Lewy小体型認知症(DLB)の診断と治療

◆診断

2013年にDSM-52)の診断基準が示され,2017年に新しい診断基準が発表された7)。2017年に報告された新しい診断基準7)は,今後,実臨床においても使用されていくと思われる。また,Lewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)に対するドネペジルの有用性も報告された。

 

◆治療

一方,認知機能,認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD),自律神経症状,運動症状(パーキンソニズム)の治療も示され,臨床症状に応じた治療方針についてのアルゴリズムも示されている1)。

 

(5) 嗜銀顆粒性認知症(AGD,DG),神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)

嗜銀顆粒性認知症(argyrophilic grain disease:AGDあるいはdementia with grains:DG)や神経原線維変化型老年期認知症(senile dementia of neurofibrillary tangle type:SD-NFT)も念頭に置いて診療を行うことが必要になってきている1)。

 

◎嗜銀顆粒病

嗜銀顆粒病は,嗜銀顆粒性認知症とも呼ばれ,脳内の嗜銀性顆粒状構造物を特徴とし,認知症を呈さない例もあるため嗜銀顆粒病と称される。嗜銀顆粒性認知症の臨床的特徴について,①高齢発症,②記憶障害で発症するが,頑固,易怒性,被害妄想,性格変化,暴力行動などの行動・BPSDがみられ,③緩徐な進行,④コリンエステラーゼ阻害薬の効果は限定的,⑤左右差を伴う,迂回回を中心とする側頭葉内側面前方の萎縮,⑥volumetryにおける海馬傍回の萎縮の程度がmini-mental state examination(MMSE)に比して高い傾向,⑦機能画像では,左右差を伴う側頭葉内側面の低下,などの特徴がみられ,⑧CSFバイオマーカーでは,Aβ1-42,タウやリン酸化タウは大部分が正常とされる1)。

 

SD-NFT

SD-NFTは海馬を中心に多数のNFTが認められ,老人斑をほとんど認めない老年期認知症である。SD-NFTの特徴は,①後期高齢者に多い,②緩徐進行性,③記憶障害で初発,④他の認知機能障害や人格変化は比較的軽度,⑤稀にせん妄,軽度の錐体外路症候が出現,⑥画像にて海馬領域の萎縮,側脳室下角の拡大(大脳皮質のびまん性萎縮は比較的軽度)とされる1)。

 

【文献】

1) 日本神経学会, 監修:認知症疾患診療ガイドライン2017. 認知症疾患診療ガイドライン作成委員会, 編. 医学書院, 2017.

2) 日本精神神経学会, 監修:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 高橋三郎, 他, 訳. 医学書院, 2014.

3) Rascovsky K, et al:Brain. 2011;134(Pt 9):2456-77.

4) Gorno-Tempini ML, et al:Neurology. 2011;76 (11):1006-14.

5) Gorelick PB, et al:Stroke. 2011;42(9):2672-713.

6) 井原涼子, 他:Cognition Dementia. 2012;11(3): 212-30.

7) McKeith IG, et al:Neurology. 2017;89(1):88-100.

 

執筆:

中島健二 (国立病院機構松江医療センター院長)

古和久典 (国立病院機構松江医療センター診療部長)

   

  出典:Web医事新報

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