2023.06.08
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〈失敗事例から学ぶ〉ストレスチェック第4回:高ストレス者ゼロ!?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

ストレスチェックでの失敗事例を漫画で学ぶシリーズです。

今回は、健康経営に力を入れ始めた企業の勇み足のケースです。ストレスチェックとメンタルケアに力を入れて施策をまわし始めたものの、その熱意の向け方を間違ってしまい……!?

                  

事例の説明

健康経営を高らかに宣言した社長は,健康経営の数値目標として「高ストレス者ゼロ」を打ち出しました。人事担当者は社長が打ち出した目標通りに安全衛生計画を作成し,組織の末端にもストレスチェックで高ストレスにならないように回答することを指示してしまいます。もちろん,そんな指示がおりてきたほうはたまったものではありません。ストレスチェックに真面目に回答するのがバカらしくなってしまい,ストレスチェックはどんどん形骸化してしまうのでした。

  

失敗の1つの原因

1 非現実的なKPIを設定してしまった

今回の事例のポイントは,安全衛生活動(ストレスチェック含む)ではKPI(key performance indicator,いわゆる数値目標)の設定が非常に重要ということです。ストレスチェックでは,高ストレス者がおよそ10%程度になるようにもともと設定されている通り,一定数の高ストレス者が出るほうが本来は自然と言えます1)。

  

メンタルヘルス対策を継続的に行うことで,高ストレス者を減らすことは可能ですが,決してゼロになるものではありません。ストレスチェックは,主に「症状」や「職場の要因」が尋ねられています。「症状」については,人それぞれ感じやすさや,症状の出現しやすさ,ストレス耐性,持病といったものがありますので,点数が高くなる方は常に一定数います。また「職場の要因」についても,全員が快適な職場ということも現実的には難しいでしょう。景気,社会情勢といった外部要因や,事業活動の変化や人の入れ替わりといった内部要因も様々あります。労働者のメンタルヘルス状況は様々な要因で変化し,きわめて不確実なものです。そう簡単にコントロールできるものではありません。健康経営を標榜したからといって,闇雲に高いKPIを掲げさせないように産業医としても助言する必要があると言えます。

      

解決の1つのヒント

ヒント1 実現可能性の高いKPIを設定する

安全衛生活動のPDCAサイクルを回すには,KPIの設定が非常に重要です。計画(P),活動(D),振り返り(C),改善(A)の中で,KPIがあるからこそ有効な振り返りを行い,活動を改善し,次の計画で新たなKPIを設定するというサイクルを回せるからです。だからこそ,実現可能性の高いKPIの設定が肝となってきます。ストレスチェックにおけるKPIには,「受検率」「高ストレス者数」「産業医面談数」「集団分析の総合健康リスク値」などが挙げられます。一方で,全員面談の危なさは,このシリーズでも紹介していきたいと思います。

  

実際の高ストレス者数をKPIにする場合には,次のような設定が個人的におすすめです。

  

◉計画を数カ年計画にする

  

メンタルヘルス対策は,単年で結果が出るという単純なものではありません。むしろ,短いスパンでみると,数値が悪化することもあります。掘り起こし効果として,ストレスチェックをきちんと活かそうとすると,従業員がそれならばと真面目に回答してくれて,高ストレス者が一過性に増える事象も起こったりします。相談しやすそうな気さくな産業医が新しく選任されれば,面談したい従業員が増えるのと同じようなことです。そのため,1年ごとの数値で一喜一憂しないように3年計画,5年計画でKPIを設定することも有効な方法だと思います。

   

◉10%以下にする

  

高ストレス者を一定数以下にする,というやり方です。高ストレス者は少なければ少ないほど良いという考え方もありますが,減らすことにも限界があります。“前年比10%減”といったKPIの設定方法もどこかで下げ止まりしてしまうでしょうし,前述の通り外部・内部要因で上がることもありえます。ほどほどな数値をKPIに設定する,という考え方もありうると思います。

   

  

皆さんの企業では,高ストレス者数に関するKPIは設定されていますでしょうか? もちろん,絶対に必要というものではありませんが,産業保健活動を可視化していき,経営層に説明していくためには,KPIは欠かせません。本記事を参考にしていただき,実現可能性の高いKPIを設定することで,さらに産業保健活動を推進していけるのではないかと思います。

   

【文献】

1) 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室:労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル.

  

五十嵐 侑(いがらし ゆう)

五十嵐労働衛生コンサルティング合同会社・代表/産業医。仙台出身。2010年産業医科大学医学部卒業。大手製造業で専属産業医経験を経て,2020年から現職。note(https://note.com/gachiop/)でも執筆活動中。

 

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 出典:Web医事新報

    

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