2023.05.31
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摂食症(摂食障害)[私の治療]

メディカルサポネット 編集部からのコメント

摂食症(摂食障害)について、細金奈奈 愛育クリニック小児精神保健科副部長が概要と治療法を解説します。

摂食症の一部は一般では拒食症ともいわれ、自分の体形や体重に対する過度のこだわりがあり、身体的な健康や、本人の心理社会的機能に支障をきたす障害です。これの一病型、神経性やせ症の死亡率は精神疾患の中で最も高いことが知られています。

エビデンスのある薬剤は限られており、薬物療法のみの治療は避け、チームで治療にあたることが推奨されています。

                  

食行動の異常や,体重や体型に対する過度のこだわりを認め,多くが身体的健康や心理社会的機能に支障をきたす障害である。摂食症の大半は思春期~成人期早期より症状が認められる。摂食症の一病型である神経性やせ症の死亡率は精神疾患の中で最も高い。コロナ禍の不安に伴い,近年受診者が増加している。

                       

▶診断のポイント

【神経性やせ症(anorexia nervosa:AN)】

    

低体重(標準体重-20%以上のやせ),食行動の異常,体重や体型に関するゆがんだ認識(体重増加への強い恐怖)を認め,体重減少に結びつく器質的疾患を認めない。病識は低く,食事内容や食事習慣に関する丁寧な聞き取りや,家族からの情報を得る必要がある。児童思春期症例では成長曲線をつけることが有用である。自尊心が低く,完全主義的な思考を持ち,食欲や食事習慣を完全にコントロールしようとする傾向が強い。過剰な運動を繰り返す者もいる。児童思春期症例では,自分の感情を十分に言語化できず,食事制限の意図を説明できないことがある。

  

ANは,食事制限のみの「摂食制限型」と,自己誘発性嘔吐や利尿薬・下剤などを用いる「過食・排出型」とがある。

  

なお,無月経は,DSM-5から本症診断上の必須項目ではなくなった。

       

神経性過食症(bulimia nervosa:BN)

    

繰り返される過食エピソード,体重・体型への過度なこだわりを認めるが,低体重を伴わない。ANが先行する場合がある。過食は自分で制御しにくいと感じており,過食に引き続き,自己誘発性嘔吐や利尿薬・下剤の使用などの代償行為を認める。ANに比べると発症年齢は高く,多くは思春期後期~成人期前期に始まる。

       

むちゃ食い症(binge-eating disorder:BED)】

    

過食エピソードを繰り返すが,絶食や嘔吐などの代償行為を認めない。過食は制御しにくいと感じており,著しい苦痛感,自己嫌悪,罪悪感などを伴う。ANやBNよりも年齢層は高く,BED罹患者の約1/3は男性である。

       

身体合併症】

   

食行動症,特にANでは身体合併症が多く,摂食症の死因の約半数は身体合併症に伴うものである。徐脈,低血圧,不整脈などの心血管系の障害,骨髄抑制による貧血,免疫系の異常,電解質の異常,骨密度の減少,脳萎縮,浮腫,無月経などが起こりうる。繰り返される嘔吐によって,電解質異常,唾液腺腫,口腔内の異常などを認めうる。

       

精神疾患の併存症】

    

種々の精神疾患の併存を認め,不安症(強迫症や社会不安症),気分症(うつ病,希死念慮を伴うこともある),衝動行為(自傷行為,物質乱用,万引きなど)を伴うことがある。体重減少が進むと半飢餓状態が認知面や感情へも影響を及ぼし,ANが進行・遷延化しやすい。

     

▶私の治療方針・処方の組み立て方

【AN】

    

治療の目標は体重やBMIを正常域に戻すことである。治療への動機を持ちにくい症例が多く,共感的に接して治療同盟を確立することや,併存するうつ病などの精神疾患への対応が重要となる。低体重に対する身体管理,併存する精神疾患への対応,家族への対応,など多角的なアプローチが必要となり,治療チームで関わることが望ましい。ANに対してエビデンスのある薬剤は限られており,薬物療法のみの治療は避けるべきである。認知行動療法,対人関係療法,焦点づけ力動的精神療法,家族療法などの心理療法が有効である。少量の非定型抗精神病薬は不安感の軽減に有効である。また,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は併存する抑うつ症状や強迫症状の軽減に有効である。

    

【BN,BED】

     

認知行動療法,家族療法などの心理療法が推奨される。食事制限はかえって過食を誘発するため,推奨されない。嘔吐や下剤の使用などの排出行為をやめていくことが優先される。心理療法を通じて,疾患の心理教育,過食衝動に影響を与える要因について話し合い,規則的な食事習慣を徐々に確立していく。SSRIは過食や嘔吐にいくらか有効であるが,認知行動療法の効果のほうが高い。

     

治療の実際

【入院治療】

       

外来治療が基本となるが,徐脈,起立性低血圧,低体温,電解質異常,低体重が著しい場合は,入院治療で経鼻栄養や中心静脈栄養などの身体治療を行う。

  

【AN】

       

①疾患の心理教育を本人と家族に行い,体重やBMIを正常域に戻していく。

  

②治療に抵抗する場合,併存する精神疾患がある場合,専門医や公認心理師または臨床心理士に相談し,本人と家族への心理療法の導入や,栄養指導,併存する精神疾患に対する薬物療法などを検討する。

  

【BN,BED】

       

①疾患の心理教育を本人に行い,食事習慣の正常化を目標にしていくことを説明する。

   

②エビデンスに基づくセルフヘルププログラムは有効である。

   

③上記が有効でない場合,専門医や公認心理師または臨床心理士に相談し,認知行動療法,家族療法などの心理療法を検討する。

  

④補助的に薬物療法を取り入れる場合,フルボキサミン,セルトラリンなどのSSRIを検討する。

     

【参考資料】

▶ National Institute for Health and Care Excellence:Eating Disorders(NICE guideline [NG69]) 2017.

  https://www.nice.org.uk/guidance/ng69

   

細金奈奈(愛育クリニック小児精神保健科副部長)

    

 出典:Web医事新報

  

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