2023.04.27
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〈失敗事例から学ぶ〉ストレスチェック第1回:診断しちゃう産業医

メディカルサポネット 編集部からのコメント

ストレスチェックでの失敗事例を漫画で学ぶシリーズです。今回は、相談を受けた産業医がうっかり診断をして人事担当者にそれを伝えてしまったことから始まったトラブル事例です。

                  

事例の説明  

高ストレス者面談で,対象者から相談を受けた産業医。相談内容から,診断基準に基づいて発達障害と診断し,それを人事担当者に伝えてしまいます。それがどう伝わってしまったのか,その方が発達障害であるということが社内に広がってしまいました。職場では,仕事を任せられないし,飲み会でも揶揄されてしまうようになり,どんどん働きにくくなってしまいました。

  

長時間の訪問看護に対する加算   

 本事例は,かなりオーバーに表現してしまいましたが,この事例から伝えたい失敗ポイントは2つあります(このシリーズの事例はいずれもかなりオーバーにつくっています)。

                     

1 産業保健現場で診断してしまった

産業保健では,臨床現場のような病気の診断をしないことが非常に大切です(※)。病気を診断することによって,労働者と“主治医−患者関係”ができてしまったり,主治医とのダブルスタンダードをつくってしまい,その後の主治医との連携がやりにくくなってしまったり,本人自身が診断名に囚われてしまう可能性があるからです。産業保健現場では,臨床現場のように本人が診断と治療を希望して面談に臨んでいるわけではない,ということも重要なポイントです。

※ 職業病については産業医が診断することもあります。

              

2 人事担当者に誤解をまねく形で伝えてしまった

高ストレス者面談の内容を加工して,必要な情報を上司や人事担当者にフィードバックすることは,よく行われることですが,診断名のような個人情報を本人の許可なく伝えてしまうことは当然ダメです。しかし,実際には高ストレス者面談の結果として,診断名を含めた個人情報を伝えてしまう産業医も稀にいるようです。そして,この事例のように,伝えた診断名が一人歩きしてしまい,本人に不利益がもたらされてしまうこともあります。

  

高ストレス者面談の結果を伝える報告書を作成する際には,情報は最低限の範囲にとどめ,誤解をまねかないような表現にする必要がありますので,お気をつけ下さい。特に,もともと精神疾患(メンタルヘルス不調)はとても誤解をまねきやすく,スティグマが発生しやすいのが特徴です。そのため,高ストレス者面談から精神疾患と診断してしまい,そのまま担当者に伝えてしまうことで,本人に不利な形で情報が拡散してしまう恐れがありますので注意して下さい。

 

解決の3つのヒント              

ヒント1 診断はしない 

医師であれば,面談内容からついつい診断名が頭に思い浮かんでしまう方も多いと思います。しかし,そこはあくまで頭の中にとどめておいて,本人に伝えないというのが重要です。たとえば,「詳しい検査や,治療が必要だと思われるため病院を受診して下さい」とだけ伝えて,診断名や治療方針については主治医に任せるという役割分担が大切です。そして,主治医の治療方針が気に入らない内容であっても,それに難癖をつけないということも大切です。  

                

ヒント2 面談結果報告は必要最小限で

口頭で伝えたり,報告書で上司や人事と共有したりする内容は必要最小限にします。最低限必要な内容とは,「就業上の措置に関する意見として,このまま通常勤務ができるのか,それとも何らかの措置の検討が必要なのか」ということです。面談のフォローアップの要否を書くこともあります。報告書はどの範囲で社内に共有されるかわかりませんので,診断名や治療内容といった機微な情報は避けます。厚生労働省から,高ストレス者面談の報告書の書式1)が出されていますので,ご活用下さい。また,報告書に書く内容を対象者と確認することでコミュニケーションエラーが減りますのでおすすめです。

           

ヒント3 配慮は本人の申し出が原則

対象者の困りごとを聞くと,できる支援を考えて,先回りしてあれやこれやと手を回してしまう方も多いようです。わたしたち医療職は支援職ですので,そういう傾向があるのは仕方ないことだと思います。しかし,職場での支援は本人の申し出に基づくことが原則です。高ストレス者面談で困りごとを聞いても,面談情報を上司や人事担当者と勝手に共有して,先回り支援をしないようにお気をつけ下さい。

 

 

高ストレス者面談では病気かどうか微妙な労働者とも面談することになります。しかし,この際に病気かどうかにこだわらず,何に困っているかにフォーカスすることが大切ですし,困っていることを人事や上司と共有することで,必要な支援や解決に近づきます。読者のみなさんが次に高ストレス者面談を行う際には,ぜひ「困ったこと」にフォーカスして面談してみてはいかがでしょうか? 産業医科大学が公開している「職場における困りごと情報整理シート」(図1)2)も困りごとの整理にとても便利なので,ご活用下さい!

           

     

【文献】

1)厚生労働省:長時間労働者,高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル. 

  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00013.html

2)産業医科大学産業生態科学研究所産業保健経営学:職場における困りごと情報整理シート.

  https://www.ohpm.jp/wp-content/uploads/2019/08/616385bfe009f0e8a3a23b17b48821ec.pdf

     

五十嵐 侑(いがらし ゆう)

五十嵐労働衛生コンサルティング合同会社・代表/産業医。仙台出身。2010年産業医科大学医学部卒業。大手製造業で専属産業医経験を経て,2020年から現職。note(https://note.com/gachiop/)でも執筆活動中。

    

 出典:Web医事新報

  

  

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