2023.04.06
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フレイル予防[私の治療]

メディカルサポネット 編集部からのコメント

高齢者にはメタボリックシンドロームよりも問題と目されるフレイル(虚弱)とその予防について、荒井秀典国立長寿医療研究センター理事長が解説します。

フレイルは身体、精神、社会的な要因が作用して起こりますが、可逆性があることも特徴です。あきらめずに治療すれば健康が取り戻せるケースは多いですが、予防して健康寿命を延伸できれば何よりです。

                

 

フレイルは加齢とともに生理的予備能が低下してくる中で,身体的・精神心理的に脆弱性が高まる病態であり,要介護状態の前段階である。加齢とともに起こる様々な疾病・併存疾患の合併がフレイルのリスクとなっているが,栄養摂取,身体活動,運動習慣などもフレイル発症と関係がある。また,フレイル状態になると外的なストレス(感染症,事故,手術など)に対する脆弱性が亢進し,種々の健康障害(たとえば,ADLの低下,転倒,入院など)を起こしやすくなる。フレイルには身体的な要因だけではなく,精神心理的な要因,社会的な要因があり,これらが負のスパイラルを形成して,自立性の低下をもたらすが,可逆性があることも特徴であり,早期に診断して適切な介入を行うことが求められる。

            

代表的症状・検査所見

加齢とともに筋力が衰え,疲れやすくなったり,特に体重を減らそうとしていないにもかかわらず,体重が徐々に減少するといった症状/症候がみられることがあるが,むろん鑑別診断は必要である。

  

検査所見に関しては,通常の血液検査などでは異常を認めることが少ないが,握力が低下したり,歩行速度が遅くなるといった所見がみられることがある。握力の基準は男性28kg未満,女性18kg未満が握力低下,歩行速度は男女とも通常歩行速度が1.0m/秒未満が歩行速度低下である。

          

▶予防の考え方

一般的に高齢者は活動量が低下するため,栄養摂取量も少なくてよいと考えがちであるが,実際には蛋白質の摂取量の低下がフレイルのリスクを上げることが明らかになっており,適切な栄養摂取はきわめて重要である。高齢者においては様々な疾病を合併していることが多く,塩分制限などが課せられている場合があり,それによる食欲低下や加齢に伴う食欲低下がみられることがあるため,注意が必要である。疾病の管理を適切に行いつつ,重症の腎機能障害がない場合には,蛋白質摂取量1.0〜1.2g/kg/日を勧めるべきである。また,ビタミンD不足にも陥りやすいため,適度な日光への曝露とともに20~30μg/日の摂取を促す。いずれにせよ,管理栄養士との連携が重要である。

  

適切な身体活動も重要である。コロナ禍において身体活動量が約30%減少したとの報告もあるが,1日30分程度の有酸素運動に加えて,週2~3回のレジスタンス運動が推奨されている。具体的なメニューについては成書を参照されたい。

     

アセスメントのポイント

身体的フレイルの評価法としては,日本版Cardiovascular Health Study(CHS)の評価法が一般的である。すなわち,1)過去6カ月間で,2kg以上の意図しない体重減少,2)筋力低下(握力:男性<28kg,女性<18kg),3)疲労感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする,4)歩行速度:通常歩行速度<1.0m/秒,5)身体活動:①軽い運動・体操をしていますか?②定期的な運動・スポーツをしていますか?(上記2つのいずれも「していない」と回答すれば該当),のうち3項目以上該当でフレイル,1~2項目はプレフレイルと診断できる。質問形式のものとして基本チェックリストが使われることもある。

     

▶予防の実際

糖尿病や脳卒中などフレイルのリスクとなりうる疾患の適切な管理を行うとともに,エネルギー量,蛋白質,ビタミンDなどの適切な摂取について管理栄養士との連携が重要である。また,身体活動については関節疾患や脊椎疾患がある場合には整形外科医との連携が重要であるが,有酸素運動に加えてレジスタンス運動の重要性を説明し,行動変容を図るとともに必要に応じて理学療法士との連携を図る。また,社会参加,口腔機能低下対策,ポリファーマシー対策も重要である。

   

長期管理・経過観察上の臨床的注意点

身体的機能低下とともに,精神心理的な機能や社会的活動性の低下が認められるときがあるため,定期的な身体機能の評価とともに社会活動や認知機能,うつなどの評価を実施することが望ましい。

    

予後

要介護になるリスクが,健常な高齢者と比べて約5倍と言われており,死亡,転倒・骨折,施設入所,認知症などのリスクも高くなる。

    

リハビリテーション

膝関節症や骨折後などで疼痛や運動制限がある場合には,リハビリテーション医と連携して,個人に合った運動療法を勧める。

    

家族への助言

フレイルは予防可能であり,また,フレイルになっても可逆性があることが特徴である。疲れやすさや食事摂取量低下を“年齢のせい”として片づけることなく,早めに医療機関へとつなげることが望ましい。

    

多職種連携のポイント

医師間の連携に加え,病態に応じて看護師,管理栄養士,薬剤師,療法士,社会福祉士などとの連携が重要である。薬剤師については,ポリファーマシーや高齢者において慎重な投与を要する薬剤がフレイルのリスクとなることがあるため,薬剤レビューが必要な場合,連携を考慮する。

    

▶社会資源の活用

適応があれば,サービスC(短期集中予防サービス)などの介護予防事業への参加を促す。

  

荒井秀典(国立長寿医療研究センター理事長)

   

 出典:Web医事新報

 

  

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