2023.03.31
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第131回:今後中小病院は再編・統合を強いられるか?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

日本福祉大学名誉教授の二木立さんが、今後の中小病院の再編・統合の流れについての意見を述べました。高度急性期病院と一般急性期病院を区別して考え、高度急性期に関しては病床削減が不可欠ですが、一般急性期はむしろ分散している方が合理的なのではないかということをその理由と共に述べています。

   

標題は、私が1月下旬に、ある専門誌のインタビューで実際に受けた質問です。これに限らず、今後、急性期病院の再編・統合と病床数の削減は急速に進む、あるいはそれを推進すべきとの言説は少なくありません。今回は、この問いを出発点にして、今後の病院のあり方について考えます。

 

「高度急性期」と「一般急性期」は別

まず私が強調したいことは、「急性期」を一括して論じることはできず、「高度急性期」とそれ以外の「急性期」(以下、「一般急性期」)に分けて検討する必要があることです。

 

このことは「地域医療構想」の大前提でもあります。しかし、「急性期病院の再編・統合は必至」的言説の大半は両者を区別していないため、「一般急性期」を担っている民間中小病院関係者に無用の不安・混乱を生んでいます。

 

私は、今後、再編・統合が生じるのは、高度急性期病院及び人口減少が激しい地方の公立病院(と一部民間病院)に限られると判断しています。

 

私も高度急性期については、医師と高額機器の集約化を行い医療機能を高めるために、病院の再編・統合と病床削減は不可欠だと思います。

 

ただし、それにより医療費はむしろ増加する可能性が大きいことも見落とすべきではありません。その好例が山形県酒田市の県立・市立病院の統合(日本海ヘルスケアネット)であり、統合により病床数は168床(18.1%)減少した半面、医療機能の高度化により、入院単価・外来単価とも大幅に増加し、経常収益も100億円から201億円に倍増しました(第19回地域医療構想に関するワーキンググループ資料1-4。2019年2月22日)。

 

「一般急性期」は分散の方が合理的

それに対して、私は「一般急性期」及び「回復期」を担う民間中小病院(概ね200床未満)は広く分散している方が、今後急増する(虚弱)高齢患者の入院医療ニーズ─(誤嚥性)肺炎、骨折、尿路感染症等─に応える上でも、医療費の過度の上昇を予防する上でも合理的であると判断しています。冒頭に紹介した専門誌のインタビュー記事のタイトルも「民間中小病院は集約されるよりも分散している方が合理的である」としました(『国際医薬品情報』2023年2月27日号:26頁)。ただし、今後、人口・患者が急減する地域では、病院のダウンサイジングや有床診療所化が必要になるとも思っています。

 

私は「一般急性期病床」と「地域包括ケア病棟」の機能が類似していることを考えると、両者を制度的に統合することは検討に値すると思っています。ただし、その大前提は、地域包括ケア病棟の看護体制を現行の13対1から10対1以上にすることです。太田圭洋氏(日本医療法人協会副会長)も、13対1の看護基準では「高齢者救急に対応することは難しい。(中略)最低限、10対1の看護配置が必要」と主張しています(『社会保険旬報』2022年11月21日号:11頁)。

 

現実にも、地域包括ケア病棟で、ある程度の「一般急性期」医療を行っている病院は10対1が多いようです(鈴木学『月刊/保険診療』2020年8月号:37頁)。鈴木学氏(名古屋市笠寺病院事務長)の調査では、愛知県では、昨年12月時点で、地域包括ケア病棟のうち76%が10対1加算を届け出ているそうです(105病棟中80病棟)。

 

地域連携の強化は不可欠

しかしこのことは、病院が今後も孤立して存続できることを意味しません。逆に今後、民間中小病院が生き残るためには、他の医療施設(病院・診療所)や介護・福祉施設、行政機関等との地域連携・ネットワークの形成・強化が不可欠です。

 

実はこの点について私は「筋金入り」(?)で、2000年の介護保険制度開始直後に、今後全国的に「医療施設の『複合体』化が急速に進むことは確実である」と述べると共に、大規模複合体化が困難な大都市部では、「『ミニ複合体』(在宅・通所ケア施設を併設した医療施設)と単独施設のネットワークが主流になると予想」しました(『介護保険と医療保険改革』勁草書房,2000,42頁)。最近も、「民間中小病院が、地域包括ケアに積極的に参加し、地域に根ざした保健・医療・介護サービスを展開すれば、大半が生き延びられる」と展望しています(『病院』2023年1月号:24頁)。

 

医療の枠内での地域連携・ネットワーク形成の方法としては、地域医療連携推進法人、それよりも緩やかな病院・診療所の連携・「アライアンス」、大規模病院・「複合体」のM&A(合併・買収)による「囲い込み」等があります。ここで重要なことは、松田晋哉氏(産業医科大学教授)が強調しているように、「どのような形で進むのかは、それぞれの地域の状況による」ことだと思います(『ネットワーク化が医療危機を救う』勁草書房,2022,141頁)。

 

地域医療連携推進法人の「活用」

ここで注意を喚起したいことは、政府・厚生労働省が昨年に地域医療連携推進法人の「活用」に方針転換したことです。

 

地域医療連携推進法人が2017年度に発足した当初、厚生労働省はそれに「中立」で、担当者も「選択肢の1つ」と説明していました。翌年の2018年度診療報酬改定でも、地域医療連携推進法人を後押しする加算等は導入されませんでした。そのため、私は当時、「地域医療連携推進法人は一部の地域を除いてほとんど普及しないと予測」しました(『地域包括ケアと医療・ソーシャルワーク』勁草書房,2019,21頁)。2018~20年の「骨太方針」にも、地域医療連携推進法人の記載はありませんでした。

 

しかし、「骨太方針2021」(31頁)と「骨太方針2022」(19頁)に地域医療連携推進法人の「活用」がチラリと書き込まれました。これらを受けて、昨年10月27日の「第9回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」では、事務局が「地域医療連携推進法人制度の見直しについて」提起しました(資料3)。

 

同年12月16日の「全世代型社会保障構築会議報告書」は、さらに踏み込んで以下のように書きました:「医療機関が担うかかりつけ医機能の内容の強化・向上を図ることが重要と考えられる。また、これらの機能について、複数の医療機関が緊密に連携して実施することや、その際、地域医療連携推進法人の活用も考えられる」(19頁)。そして、医療法の一部改正案(2月10日閣議決定)では、地域医療連携推進法人に個人病院・診療所も参加できることになりました(ただし、それらへの資金の貸し付けは禁止)。

 

そのため、今後は、地域医療連携推進法人は、地域連携・ネットワーク形成の重要な選択肢になると思います。

 

診療所の地域連携の方法

最後に、本題とは少し離れますが、診療所の地域連携の方法について述べます。私は、診療所については、日本では欧米で主流となっている「グループ診療」の普及は当面は困難であり、それに代わる地域連携・ネットワーク化の方策を模索する必要があると判断しています。

 

この点について、松田晋哉氏は、「都市部の開業医が、それぞれの専門性を持ったソロプラクティスの医師として存在しながらもICTを用いて連携し、仮想的なグループ診療を形成し、面としてのプライマリケア体制を保証することが必要だ」と考えており、卓見と言えます(本年1月16日私信。引用許可済み)。松田氏の上掲書では、そのモデルとして、コロナを機に、品川区医師会や北九州市医師会が「現場力」を発揮して、バーチャルなグループ診療を始めたことを評価・紹介しています(115,165-79頁)。

 

日本福祉大学名誉教授・二木 立

にき りゅう:1947年生まれ。72年東京医歯大卒。日本福祉大学教授・学長などを経て2018年4月より現職。著書に『医療経済・政策学の探究』『2020年代初頭の医療・社会保障』(いずれも勁草書房)など

 

 出典:Web医事新報

 

  

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