2020.07.30
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【識者の眼】「無症状者へのPCR等の検査拡充の議論について思うこと」和田耕治

メディカルサポネット 編集部からのコメント

国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治氏は、産業界やメディアを賑わせている「無症状者へのPCR等の検査拡充の議論」を深めるために、テレビドラマで「陰性の証明書が必要になった社会」を描いて具体的なシミュレーションを共有することを提案しています。検査がより身近なものになれば人々は安心し、経済は回せるのだろうか―。そんな問題提議をした上で、「産業界がまずやるべきことは具合の悪い人がきちんと休めること」「3密を徹底的になくすこと」と締めくくり、改めて基本の感染対策に立ち返ることを呼び掛けています。

 

「無症状者へのPCR等の検査をもっと身近に」という意見(既に自費診療で行われていますがコストがかかる)や「政府は検査を抑制している」という批判が、産業界やメディアなどからあるようです。個人的な考えをお伝えしたく書いております。

 

既に行われている自費診療でのPCR等の検査に異論はありません。ただ、検査される方の目的や期待が合理的か、また、検査の限界について十分な説明が必要、とは感じています。

 

海外渡航において陰性である証明が必要というのは、相手国からの要請であり、陰性であることの証明にどの程度の効果があるかは別として、従わざるを得ません。ただ、これがさらに日本社会の中でより広い場面、例えば、営業で誰かと合う際や、出張で都道府県を越える際などに検査の結果が必要となることを社会が求めているのでしょうか?

 

この比較的長きにわたる議論に対して私から提案があります。

 

具体的な運用方法やシチュエーションにおいて、検査、特に陰性であることが身近でわかるようになったら、社会はどうなるかをテレビ局はドラマで作られると良いと思います。

 

例えば、「シナリオ1:Aさんが東京から○○県に出張する際に陰性の証明書を持って行く」「シナリオ2:Bさんが営業先の方と会食をする際に陰性の証明書を持って行く」「シナリオ3:Cさんが恋人であるD君と会う際に陰性の証明書を持って行く」など。

 

私なりにシナリオを考えたところ、次第にゼロリスクを求める方向や不信感に傾くリスクが大きくなりました。例えば、「3日前の陰性の結果では古い」となり、毎日でも検査が必要になったりします。また、検査の結果が陰性だからといって、基本的な感染対策や体調確認は必要です。

 

確かに、検査がより身近になっている海外の国もあるようです。日本もそういう日が来るかもしれません。より身近で検査ができるようになったら人々はより安心するのか。社会経済を回せるようになるのか。そうした場面が具体的に示され、共有されるとより議論が深まり、もし「それが望ましい姿」となれば議論が加速するでしょう。

 

ただ、産業界がまずやるべきことは、具合の悪い人がきちんと休めること、基本的な感染対策(3密を徹底的になくす)にしっかり取り組むことだと考えています。これはもう十分できていますか?

 

和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス感染症]

 

出典:Web医事新報 

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