2021.04.29
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もどかしさと、新選組のイキザマから、自分の看護をとらえる
~訪問看護リハビリステーション所長~

介護・医療系管理職のわたしの背中を押した1冊 vol.1

 

編集部より

経営者や管理者は日々忙しいはずなのに、なぜか多くの本を読み生き生きとしている・・・。看護師・保健師を経て現在は人材育成・組織開発コンサルタントとして活躍されている久保さやかさんが、「経営者・管理者は本から多くのヒントをもらっているのではないか?」という仮説を検証すべく、毎回1人の経営者・管理者の方から本にまつわるエトセトラについてインタビューしていくコラムです。経営や管理に直結する本・趣味の本、さまざまな本との出会いや出会うタイミングが、仕事やキャリア・経営を考えるきっかけにもなる、これは介護・医療系のみならず、広く言えることではないでしょうか。皆さんはどんな1冊を選びますか?そして、そこにはどんなエピソードがありますか?

  

執筆/久保 さやか(thoughts代表/看護師・保健師)

編集/メディカルサポネット編集部

 

「リーダーたちは、よく本を読み、仕事の糧にしている」

前回の連載では、あれやこれやと苦労の絶えない管理職のモチベーションのありかを探っていきました。その中で気づいたことは、本を読んでいるリーダーが多いということ。読書によって、時には新しい知識を入手し、時には自分にはない視点を取り入れ、仕事に役立てるのはもちろん、本の中の非日常の世界を楽しんでいる方もいました。

 

今回の連載では、「私の背中を押した1冊」として、介護医療のリーダーたちに、これぞという本を選んでいただきました。本の内容だけでなく、選んだ理由や、背景に起こったエピソードをなぞりながら、働く源泉について探っていきます。

 

 

「ネガティブ・ケイパビリティ」「燃えよ剣」~訪問看護リハビリステーション 所長~

 

1人目のリーダーは、前回の連載にも登場して頂いたクロさんです。

連載の中でも、クロさんはピカイチな読書人。迷いに迷って、選んでくれたのはこの2冊です。

  

 

クロさんのイチオシ
帚木蓬生(2017) ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 朝日選書(朝日新聞出版)
司馬遼太郎(1972) 燃えよ剣 新潮社

 

  

クロさんから、この2冊にまつわるエピソードを伺いました。

 

ネガティブ・ケイパビリティ ~もどかしさの中で、寄り添い続ける真髄~

 

訪問看護で、ある難病患者さんのケアを担当しました。その方は、反応することも、話をすることもできないし、文字盤すら使えない。表情も読み取ることもできない。何を思っているか、まったく分からないまま看護をすることが怖かった時期がありました。医療的な処置も多い中、ご本人の苦痛の程度が分からないことが辛くて。正直、訪問するのが嫌だぁと思うことも・・・。

 

それが突然、吹っ切れた時がきたんです。

「見つめあっているだけで、いいんじゃない?」

そうしたら急に楽になった。

 

その経験の後に、この本を読みましたが、わたしが悩んでいたことは何だったのか、後づけで気づくことができたんです。

 

「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」や「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることが出来る能力」を意味しています。

 

 

病院の看護師時代に読んでいたら、分からなかった概念だと思います。病院の時は、明らかな答えを理論的に探し出し、即座に判断して、結論をだすのが仕事でしたから。今は、はなから曖昧で、“もどかしさ”しかない生活の中で、その場とその人に、より集中することが大事だと思っています。どうしても“答え”が欲しくなってしまうけれど、やり取りしている時間や人、事象を大事にして、感じとることの方が大切だと思うんです。

 

本の中では、「無感覚の感覚(the feel of not feel)」「感じないことを感じる」という言葉が出てきますが、まさにそんな感じです。曖昧なままで、より集中して感じる感覚。そして、それは諦めるのとも、また違うんです。全力で、寄り添う、そんなイメージです。

 

燃えよ剣 ~土方歳三の信念と不器用さと、カッコよさ~

 

2冊目は打って変わって、歴史小説です。

初めて読んだのは、高校生の時。文学少女に勧められたのがきっかけでした。定期的に読み返す時が来るのか、今までに3回読んでいます。そして、毎回読んだ印象が変わるのも、この本の特徴だなぁと思います。

 

高校生の時は、「土方歳三ってカッコいい」としか思わなかった。鉄砲に絶対当たらないし(笑)

今は、ちょっと見方が変わっています。

 

土方歳三は、変わらずカッコいいのですが、「燃えよ剣」には、近藤勇、沖田総司など、個性的な登場人物が沢山出てきます。もう、とがりまくってますよね。そんな新選組の副長として、土方歳三は、ついて来いでも、皆で頑張ろう!でもない、率い方をしている。それで良いんだなぁと。役割を果たしていれば、理解してくれる人もいて、悪い方向には行かないんだと。その突っ走り方には、憧れも感じます。

 

そして、幕末という混沌とした時代に、新選組は、動いた。誇りをもって戦い、それを貫いた。でも、この人たち、とっても不器用なんですよ。剣の道を延々と。ある意味生きにくさも感じます。

 

 

この、“生きにくさ”に、わたし自身を重ねてみたのかもしれません。

病院を退職した後、わたしは自分に何が出来るのかとずっと考えていました。所属があった時は、「〇〇病院の〇〇病棟にいます」というのがある意味、自分が何者かを示す記号だった。しかし、その組織を離れてしまえば、わたしには「看護」しか残らない。認定や専門看護師のような専門があるわけでもない。そんなわたしには、価値があるのかと迷っていた時もありました。

 

仕事や、やっていることに意味を考えないと、常に変わり続ける社会の中で、自分をなくしていく、というか。わたしたちは何者で、なぜこういう仕事をしているのか、常に問いかけることは忘れたくない。新選組のイキザマと、わたし自身を重ね合わせているのかもしれません。

  

「ネガティブ・ケイパビリティ」は、前回の連載時にもご紹介した1冊です。連載を読んでくれた、一般企業の友人たちが最もザワついた瞬間でもあります。考えてみれば、看護や介護だけでなく、ビジネスマンの仕事も、日々根拠のある決断が求め続けられます。しかし、そんな明確な根拠が毎度ある方が稀。特に人事や教育など、“人”そのものを扱う部署は、もどかしいことばかりです。だからこそ、「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいること」という概念は、ビジネスマンにとっても、自分がちょっと楽になり、腑に落ちる考え方なのだったのだと思います。

 

そして、「燃えよ剣」。私にとって歴史小説は、普段手に届かないジャンルでもあります。クロさんと読み進めていくうちに、土方歳三のリーダーシップやその魅力、組織やチームとしての新選組が浮かび上がってきました。何より、自分は何者なのか。大義というほど大げさなものではないかもしれませんが、立ち止まり考える機会となりました。

 

同じ本を読みながらクロさんと語り合い、それぞれの見方や読み方も味わう、そんなインタビューの時間になりました。次回はどんな本と出会えるのでしょうか。どうぞお楽しみに!

 

プロフィール

久保さやか(くぼ・さやか)
THOUGHTS代表。看護師・保健師、人材育成・組織開発コンサルタント。
慶應義塾看護短期大学卒業後、慶應義塾大学病院混合病棟勤務を経て、慶應義塾大学看護医療学部に編入学し保健師免許取得。大学卒業後は、大手小売業にて人事部所属の産業保健師として産業保健体制の立ち上げに携わる。その後、弁当チェーン運営会社の総合職として役員秘書、人事部、経営戦略部などで勤務する。現在は中小企業の産業保健師として勤務すると同時に、医療職やビジネスパーソン向けの人材育成・組織開発コンサルタントとして活躍している。

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