2021.03.31
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【開催レポート】ウィズ・コロナ時代の新人看護師教育とは

東京都日本病院会支部・東京都看護協会共催シンポジウム
編集部より

新型コロナウイルス感染症の影響によって、今年度は多くの看護学生の臨地実習が中止となり、教育現場ではシミュレーション教育や模擬病床の活用など、さまざまな工夫を取り入れています。その一方で、臨地実習の経験の少なさが、学生自身の不安や入職先スタッフの不安などを招いているとの指摘もあります。このほどオンライン開催された、東京都日本病院会支部・東京都看護協会の共催によるシンポジウム「看護職を元気にする!!ウィズ・コロナ時代の新人にエール ~教育現場と臨床をつなぐ~」では、ウィズ・コロナ時代における新人看護師の教育について教育側、病院側それぞれが意見を交わしました。当日の様子をレポートします。

 

取材・文/横井 かずえ

撮影/山本 未紗子(株式会社BrightEN photo)

編集/メディカルサポネット編集部

各医療機関が最大数の職員を受け入れる新年度が間もなくやってきます。これまでと異なり、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた看護学生の受け入れ準備に奔走する医療機関が多い背景もあって、平日の昼間に開催されたにも関わらず100人を超える参加があり、関心の高さがうかがえました。

 

写真左から座長の上野真弓氏、都看護協会長の山元恵子氏、済生会中央病院看護部長の樋口幸子氏、座長の池亀俊美氏

写真左から座長の上野真弓氏、都看護協会長の山元恵子氏、済生会中央病院看護部長の樋口幸子氏、座長の池亀俊美氏

 

教育現場からの報告

コロナ禍における看護学生の実習状況 

 

教育の立場からは、共立女子大学看護学部の中原るり子教授、東京都立板橋看護専門学校の蘆田洋子校長が講演しました。

 

オンラインで看護学生の実習状況について講演した中原るり子氏

看護学生の実習状況について講演し、教育と臨床現場との連携の必要性を訴えたた中原るり子氏(講演動画より)

 

中原氏は日本看護系大学協議会が行ったアンケート調査を紹介しました。それによると今年度は74%の大学で臨地実習が中止になり、特に生活の場で実習を行う、在宅看護や老年介護は8割が中止になっていました。また、中止になった実習の代わりとして、約8割の大学で学内実習が行われました。コロナ禍における臨地実習には、さまざまな課題が指摘されています。このうち大学側から見た課題としては、例えば臨地実習の実施に際して、実施施設や学内でのさまざまな調整が必要になるほか、実習できる学生とできない学生による不公平感が生じてしまう点が指摘されました。またコロナ禍での実習の現状として、直接的なケアが制限されることから、実践能力の低下、チーム医療における連携不足への懸念もありました。さらに、実践能力が十分でないことなどから、新人看護師になることへの不安が強い傾向がありました。

 

日本看護系大学協議会によるアンケート調査 

※中原氏の講演資料を参考に編集部で再構成 

  

その上で中原氏は、報道などを引用しつつ「『コロナ世代の看護師は使えない、と言われてしまうのではないか』など、学生の間から不安の声が聞かれている」と指摘。学生が不安を感じない実習のあり方を継続して模索する必要性があるとしました。最後に「病院におかれては、学生が十分な実習を経験できていないことを理解した上で、新人看護師研修を充実させていただきたい。大学側も病院にお願いするばかりではなく、入職後のフォローアップ研修に教員を派遣するなど、相互に連携しながら学生をフォローアップしていきたい」などとしました。

 

シンポジウムは東京都看護協会内の会議室からライブ配信された

 

実習中止に伴う「未実施」看護技術の増加と学生の不安  

 

蘆田氏は、都立看護専門学校7校間においても、5~6月の間はまったく実習ができず、7月以降も実習病院の受け入れ状況にかなり差がみられたことを報告しました。各校、できるだけ学生の学びに差が生じないよう、実習施設の配置変更について検討したほか、臨地実習に行くことができない期間については、学内代替実習方法に工夫を凝らし、模擬病床を活用して情報収集から看護計画立案、看護実践、振り返りまで一連の事例を学内実習しました。さらにICTを活用して動画視聴やリモートカンファレンスを実施したことも紹介しました。例年とは異なるこうした実習について、学生からは「リアルタイムではないからこそ、じっくり振り返りをすることができた」などの感想が寄せられているといいます。

   

 

看護教員歴25年目を迎えた蘆田氏も、学生の実習状況の変化への対応に追われた

看護教育に長年携わっている蘆田氏も、変化する学生の実習状況の対応に追われた(講演動画より)

 

全員が実習できた看護技術の内容として挙げられたのは以下のとおり。

▽ベッドメーキング

▽病床環境整備

▽おむつ交換

▽臥床患者の体位変換

▽ベッドから車椅子への移乗

――など。

これに対して胃管・胃ろうチューブ管理や経管栄養食の注入、食事指導、食事介助などは未実施が多くなっていました。また急性期の病棟実習ができない影響から、膀胱留置カテーテルの管理も未実施が多くなっていました。このほか吸入・吸引も昨年と比較して実施率が大きく低下していることがわかりました。これは、6月以降の臨地実習では、感染症対策として吸引・食事介助・口腔ケアを実施しなかったための結果となっています。また、学生を対象に行ったアンケートでは「入職後もコロナの影響で研修が減るのでは」「自分たちの世代は、コロナのせいで実習を受けていないからできないと思われるのではないか」と不安を感じていることがわかりました。

 

 

臨床現場からの報告

e-ラーニングや動画は有効な手段でありながらコミュニケーションに課題も

 

臨床現場からは、大規模病院を代表して東京都済生会中央病院の樋口幸子看護部長、中小規模病院を代表して日産厚生会玉川病院の澁谷喜代美教育担当副看護部長が講演しました。

 

研修方法に試行錯誤しながらも新人看護師の成長に手応えを感じたと話す樋口看護部長

研修方法に試行錯誤しながらも新人看護師の成長に手応えを感じたと話した樋口看護部長

 

樋口氏は済生会中央病院の今年度の新人看護師教育について紹介。同院の研修では従来なら新人オリエンテーションに始まり、集合教育を経てさまざまな経験をしながら9月をめどに夜勤で独り立ちを目指します。しかし今年度は密を避けるために集合研修を控え、さらに新人看護師とコミュニケーションを取るための場も作ることができないなどの影響がありました。

 

こうした状況を改善するために、同院ではグループLINEを使った配属先とのコミュニケーション(配属から2カ月間の限定利用)やリモート交流会、e-ラーニングを活用した在宅研修やyou tubeに公式チャンネルを開設するなど、研修・コミュニケーションを工夫しました。

 

2020年12月にはこのような研修のあり方に対するアンケート調査を実施(回答率63%)、無記名で自由な意見を求めました。調査によれば、学びやすかった方法としてはオンライン教育ツールの「ナーシングスキル」や「セーフティプラス」、「対面式」などで、対面だけではなくe-ラーニングは有効であることがわかりました。コミュニケーションについては、「コミュニケーションを取れていると思うか」について84%が「はい」と回答。コミュニケーションの相手は「同僚」が最多で28%、次に「先輩」(19%)「師長」(15%)と続きました。一方でコミュニケーションが取れていないという人に関しては「話しかけづらい」(41%)、「どのように話したらよいかわからない」(35%)、「話すタイミングがない」(12%)となっていました。

 

新人看護師への研修に関するアンケート調査結果

※樋口氏の講演資料を参考に編集部で再構成 

   

新人看護師と受け入れ施設の双方が安心できる研修体制を

 

澁谷氏は臨床の立場から登壇し、入職者を受け入れる中小病院の工夫を紹介しました。玉川病院では例年、内科・外科を含む全部署を10週間かけて回るローテーション研修を行っていましたが、2020年度はこれを中止。2週間研修を行った後に配属先での勤務を始めるというイレギュラーな対応を取りました。しかしその結果、各病棟で新人看護師の体験不足が見られることになりました。

 

中途採用を多く受け入れ育成する玉川病院の取り組みにも注目が集まった(講演動画より)

 

そこで同院ではウィズ・コロナにおける新人教育のあり方について見直しに着手。新人教育の担当部署を教育委員会から副師長会に移行することで

▽他部署との共有

▽プリセプターの指導力の差

▽新人スケジュールの病棟差

▽夜勤導入時期の病棟差

▽1年以内の離職者の発生

――などの課題の解決を図りました。

こうした改善点を踏まえた上で、今後の課題として「実習の中止や研修の短縮化など、新人看護師を受け入れる病院側では不安を感じている。しかし同時に新人看護師の側も不安を感じている。両者が安心できる環境づくりを継続して取り組まなければならない」としました。

 

講演終了後は、視聴者からチャットで寄せられた質問に答える時間が設けられ、意見交換が行われました。教育現場と臨床側が「しっかりと“つなぐ”こと」をテーマにした本シンポジウムが、今後の新人看護師教育の足掛かりになっていくことが期待されます。臨地実習がコロナ禍の影響を受ける可能性は来年度以降も続くことが予想され、教育現場と臨床の双方がつながり続けることで、「コロナ世代の看護師」が安心して成長できる環境が整っていくことが待たれます。

 

 

 

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