2020.12.11
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日本看護管理学会が異例のメッセージを発表

「日本看護管理学会より国民の皆さまへ ナースはコロナウイルス最後の砦です」

一般社団法人日本看護管理学会(理事長:別府 千恵氏)は10日、ホームページ上に「日本看護管理学会より国民の皆さまへ ナースはコロナウイルス最後の砦です」と題した異例の声明を発表しました。

看護系学会では日本で4番目に大きく、多くの看護管理者が加入している同学会が声明を出したことの裏には、多くの看護管理者の悲鳴ともとれる現状が寄せられていると考えられます。

 

新型コロナウイルス感染患者への対応に毎日奔走する、主任・師長・看護部長などの看護管理者はいまだかつてない困難に立たされています。

「看護師を増やせ」と騒ぐメディア。北海道には自衛隊の看護官が派遣され、大阪では全国に看護師の応援要請が出され、現場で疲弊した看護師の退職が相次ぐ病院では、残る看護師たちもいつ燃え尽きるか時間の問題といえるでしょう。

「増やせないなら看護基準を7:1から10:1にすればいい」という無責任な主張は、患者を危険にさらし、看護師の疲弊を加速させるに過ぎません。

 

社会から偏見のまなざしで見られ、友人はおろか、家族にもコロナウイルス感染症患者のケアをしていることを言えず、保育園からは迎えに来ないよう言われ、それでも「目の前の患者さんの生命を守る」という使命だけが支えています。燃え尽きて退職を願い出る看護師を引き留める看護管理職も、大きな葛藤にさいなまれています。

この状況下で「現場に戻りたい」と申し出る潜在看護師がいることを期待してはいけません。

 

今こそ立ち上がり、看護師の現状を強く国民に発信していくことが求められています。

 

 国民の皆さま、ナースが危機を迎えています。コロナウイルスに感染した患者さんの最も近くにいるのはナースです。この長期戦の中、ナースは身も心も疲弊してきています。 コロナウイルス感染患者が増加すると、看護管理者は、一般の病棟を一旦閉じてコロナ対応病棟にナースを移動させるしかありません。ナースたちは、今まで自分が看護してきた患者を同僚に預け、コロナ病棟に向かいます。ナースは防護服を着ているとはいえ、患者の頬に付くくらいに顔を寄せ患者の声を聞き、孤独に苦しむ患者の手を握り、時には尊厳ある死を迎えられるように寄り添います。ナースは、家族も面会できない患者の一番近くで、患者の生命と生活を守るのです。

 

 私たちは、看護の専門職としての使命感で、コロナウイルス感染患者の看護にもう何ヶ月も携わっています。自分自身の感染の危険性と私生活、自分のキャリアに目を瞑り、時には自分の家族にも仕事の内容を隠し、コロナウイルスに感染した患者さんを看てきました。

 

 私たちは自分の仕事を全うするだけですので、感謝の言葉は要りません。ただ看護に専念させて欲しいのです。差別や偏見はナースに対してフェアな態度でしょうか?なぜナースたちは、看護していることを社会の中で隠し、テレビに出るときにはモザイクをかけなければならないのでしょう。これでは、潜在しているナースも復帰をためらいます。

 

 報道等では、ナースが足りていないと言われています。防護服を着て、コロナ感染患者の病室に入る仕事の多くをナースが担っています。しかし、医療現場を守るのはナースだけではありません。チーム医療を構成する多くの職種の人との協働体制を、取り戻す必要があると考えます。看護の仕事に専念させていただくためにも、関連職種の皆さまに、ぜひご協力をお願いいたします。

 私たちナースは、皆さまにこの長い戦いを、コロナウイルス感染患者とともに歩き続けられるように助けていただきたいのです。

 

国民の皆さまにお願いいたします。

●皆さまには、ご自分の健康と医療現場を守るため、なお一層の慎重な活動をしていただきたい。

●医療専門職として、感染予防には留意しております。私たちを偏見の目で見ることはやめていただきたい。

●また、もしも一旦仕事から離れている私たちの仲間が、看護の仕事に戻ってこようと思うときには、周囲の方にはぜひご理解いただき、この窮状を救う意志のあるナースを温かく送り出していただきたい。

 

ナースは、コロナウイルス感染患者の最後の砦です。ご協力をお願いいたします。

 

2020年12月10日

一般社団法人 日本看護管理学会

理事長 別府千恵

 

日本看護管理学会は、医療・看護サービスを提供する看護職の働き方や働く環境について学術的に探究し、もって人々の健康とQOL(生活の質)の向上に寄与することを目的とした学会です。多くの病院や訪問看護ステーション等の医療機関、介護保険施設等において、看護サービスのマネジメントを担う看護管理者ら5000人を超える会員が所属しています。

 

原文はこちら

 

 

 

SUKU

Profile

高山真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

看護短大・大学編入学を経て、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(ジャーナリズム修士)。

病院、在宅、行政・学校・産業保健、教育機関、スポーツ救護など、幅広い臨床経験を持つ。並行して看護ライターとしての活動も広げ、ダンス留学、自転車ロードレース選手生活も経験。現在はメディアの立場から看護の発展にたずさわる1児の母。日本看護科学学会会員。

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