2021.11.19
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年末調整大改正から1年 
今年のトピックスをつかむ!

~医療介護施設経営者・管理者だからこそ知っておきたいこと~

  年末調整大改正から1年

 

編集部より

毎年大変な「年末調整」。この時期になると経営者の方、経理担当の方は年末調整の準備に追われていることと思います。昨年は大幅な改正が行われ、締め切りまでに正確に処理しなければならない年末調整業務には、多くの会社が苦労されたのではないかと思います。
計算自体は年末調整ソフトが行うので難しくはありませんが、その手前の事前準備(各種書類・情報収集)の段階で迷うケースが多発する可能性があります。言い換えれば、この事前準備がスムーズにいけば年末調整もスムーズに終わる、とも言えます。
今年は目立った改正はありませんので、改めて年末調整の仕組みや所得税の全体像を理解し、前回の改正点を整理していきましょう。最後に前回と変わっている点について説明していきます。

執筆:和田 公彦(税理士/税理士法人ロールスパートナーズ神奈川事務所所長)
編集:メディカルサポネット編集部

 


| 目次

 

■ 改めて考える、年末調整とは?なぜ必要なのか?

 

■ 所得税の計算の全体像

 

■ 前回の「大改正」の詳細とは?
1.基礎控除額10万円アップと所得制限の設定
2.給与所得控除の引下げ
3.扶養親族等の合計所得金額要件等の改正
4.ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除に関する改正
  └おさえておきたい4つのポイント 
  └注意点
5.所得金額調整控除の新設

 

 今回の改正点(昨年と比べて変わった点)
1.税務関係書類の押印業務の見直し
2.年末調整申告書を電子データとして提供する場合の税務署長の承認制度廃止
3.e-Taxによる申請の拡充


■ 年末調整をスムーズに行うために
1.申告書には「書くべきところだけ」に「漏れなく」書いてもらう
2.「給与収入」、「給与所得」、「合計所得」の違いを理解する

改めて考える「年末調整とは?」「なぜ必要なのか?」 

社員の正しい「年税額」を確定させて、その確定した「年税額」と「概算額」との差額を精算する手続きを「年末調整」といいます。「概算額」とは毎月の給与や賞与から控除される源泉所得税額の合計になります。簡単に言えば「天引きされている所得税の1月~12月までの合計」です。この毎月の源泉所得税はあくまで概算額なので、確定した年税額と一致しないのが通常です。この不一致を精算するシステムが「年末調整」です(図表1)。

この精算システムがないと全社員が確定申告をしなければならないため、会社での年末調整作業はとても重要な業務であると言えるでしょう。

年末調整のイメージ

所得税の計算の全体像

年末調整では社員の所得税(年税額)を計算します。給与収入から所得税を計算するまでの道のりは以下のとおりで、これが年末調整の所得税計算の全体像となります。どの部分の控除なのか把握しましょう。特に「収入」=「所得」ではないことにご注意ください。なお、「合計所得金額」は各種控除での判定で使用しますので、図表2を見ながらどの部分を指すのか理解しましょう。

年末調整における所得税の計算

CHECK!

次からの前回の改正点の説明では、この図のどの部分の話なのかを確認しながら読み進めてください。

特に、「給与収入」と「合計所得金額」とが別物であることを頭に入れておきましょう。

 

前回の「大改正」の詳細とは?

前回の改正点は、申告書が新たに2つ追加されていたり、収入や所得判定を要する論点が増えるなど従業員の情報収集に支障があると懸念される点が多かったことが特徴です。どのような改正が行われたのか、具体的に確認してみましょう。

 

 

1.基礎控除額10万円アップと所得制限の設定


「基礎控除」とは全ての納税者の所得から一定の金額を無条件で控除することができる制度です。この「基礎控除」額が今までの一律38万円から48万円にアップしました。ただし、合計所得金額が2,400万円超から控除額が減り、2,500万円を超える人は基礎控除を適用できないことになりました(図表3)。

 

年末調整 昨年から変わった点 基礎控除の改正

(図表3)「昨年から変わった点-2(1)基礎控除の改正」国税庁サイトより引用 

 

また、この改正に伴い「基礎控除申告書」が新設されました。この申告書の提出対象者は「全員」です。

ここでは「基礎控除額」を決定します。本人の「合計所得金額」の見積りを記入しますので、その会社の給与所得以外の所得も把握する必要があります。「収入」と「所得」の違いに注意しながら漏れなく記入してください。

 

2.給与所得控除の引下げ


給与所得者に必要経費の概念はありません。「給与所得控除」とは、給与収入から一定額を概算的な経費として差し引く制度で、個人事業者に置き換えると必要経費に相当する役割を持っています。前回の改正で、その金額が次のとおりに引き下げられることになりました(図表4)。

 

昨年から変わった点 給与所得控除に関する改正

(図表4)「昨年から変わった点-1.給与所得控除に関する改正」国税庁サイトより引用

 

一見、給与所得控除が10万円引き下げられたことで増税だと感じますが、実際は、基礎控除額が10万円引き上げられたため大半の社員は影響を受けません。

 

 

3.扶養親族等の合計所得金額要件等の改正

前回の改正で給与所等控除の引下げたことに伴い、各種控除を受けるための扶養親族等の合計所得要件が以下のとおりに改正されました。

扶養親族等に該当するのかで各種控除が変わってきます。重要な判定基準になりますのでしっかりと抑えましょう。(図表5)

 

昨年から変わった点 各種所得控除等を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件等の改正」国税庁サイトより引用

(図表5)「昨年から変わった点-3.各種所得控除等を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件等の改正」国税庁サイトより引用

 

4.ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除に関する改正


前回の改正の中で最も複雑な論点でした。前回改正時までは、同じひとり親であっても離婚・死別であれば寡婦(寡夫)控除が適用されるのに対し、未婚の場合は適用されず、婚姻歴の有無によって控除の適用が異なっていました。また、「男性のひとり親」と「女性のひとり親」で寡婦(寡夫)控除の額が違うなど、男女間でも扱いが異なっていたのです。

 

そこで、すべてのひとり親家庭に対して公平な税制支援を行う観点から前回の改正が行われました。下の表で見比べながら確認してください。

おさえておきたい4つのポイント

①「(男女関係なく)本人所得が500万円超」→子や扶養親族の有無に関わらず、控除なし
②「(男女関係なく)本人所得が500万円以下」「配偶者と死別・離別・未婚」「生計を一にする子がいる」の3つを満たす場合→ひとり親控除

 

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