薬局経営コラム

    

編集部より

調剤報酬改定のたびにマネジメントの工夫が必要となる薬局や調剤併設ドラッグストア。「物」から「人」へのシフトが鮮明になり、地域の医療情報集積とコミュニケーションを担う役割も求められています。地域社会や患者さんのニーズを満たす新しい試みを続けていくためにも、薬局は安定した経営を続けていくことが必要と言えるでしょう。

 

特に門前薬局経営者の皆様は、処方せん集中率を下げる取り組みについて、どのような施策を打てば良いか悩んでいませんか?

本記事では、処方せん集中率の計算式や関連する調剤報酬、さまざまな医療機関から処方せんを受け付ける場合の注意点もお伝えします。

 

執筆/篠原奨規 管理薬剤師 薬局グループ エリアマネジャー補佐

編集/メディカルサポネット編集部

  

ノートパソコンの前でメモをとる薬剤師  

処方せん集中率が高い薬局は、医薬分業において患者さんへの貢献の幅が狭まるだけでなく、調剤報酬の面でも不利になる可能性があります。

また、特定の医療機関に依存する経営は、医療機関の移転や閉院などによるリスクも大きくなりがちです。そのため、処方せん集中率を下げたいと考えている薬局経営者も少なくないでしょう。

 

本記事では、処方せん集中率を下げるメリット門前薬局でもできる取り組みをお伝えするとともに、処方せん集中率の計算式や関連する調剤報酬、さまざまな医療機関から処方せんを受け付ける際の注意点について解説します。

  

   

1.処方せん集中率とは? 

 

病院の外観

  

処方せん集中率とは、特定の医療機関が発行した処方せんの受付回数を、薬局全体で受け付けた処方せんの総受付回数で割った数値のことです。

 

門前薬局は医療機関に近く、その医療機関を利用する患者さんにとって利便性が高い一方で、服薬情報の一元的管理が難しく、患者さん本位の医薬分業が十分に機能しにくいという課題が指摘されています。また、処方せん集中率が高い薬局は取り扱う薬の品目数が限られるため、管理コストを抑えやすく効率的に経営できるという特徴があります。

 

そういった状況を踏まえ、処方せん集中率を考慮した調剤報酬改定が行われるようになり、近年では集中率の高い薬局ほど不利な評価を受ける傾向が強まっています

また、特定の医療機関からの処方せんに対応するだけでなく、患者さんが複数の医療機関を利用している場合には、服薬情報を一元的に管理する役割が求められています。

そのため、求められる役割を果たしつつ、安定した経営を実現するには、「門前医療機関以外の処方せんの受け入れを拡大する」など経営戦略の見直しが不可欠です。

 

処方せん集中率の計算式 

処方せん集中率は、以下の計算式で求められます。

  

処方せん集中率(%)=特定の医療機関が発行した処方せんの受付回数/薬局全体で受け付けた処方せんの総受付回数×100

  

また、同一医療機関から歯科と歯科以外の処方せんを受け付けた場合は、それらを合計した回数を1つの医療機関からの受付回数として計算します。

  

くわえて、以下に該当する処方せんは受付回数には含めません

■情報通信機器を用いた服薬指導を行った場合の処方せん

■同一グループの薬局の勤務者及びその家族の処方せん

 

処方せん集中率の計算式  

処方せん集中率が影響を与える主な調剤報酬は調剤基本料です。

2024年度の調剤報酬改定では、処方せん集中率と調剤基本料の関係が以下のように設定されています。

 

処方せん集中率が高い薬局ほど、調剤基本料の点数が低くなる傾向が見られます。

 

調剤基本料の種類 処方せん集中率 その他の施設基準 点数
調剤基本料1 要件なし 調剤基本料2・3、特別調剤基本料以外 45点
調剤基本料2 85%超 処方せん受付回数:月2,000回超~4,000回 29点
上位3つの医療機関の処方せん集中率の合計が70%超 処方せん受付回数:月4,000回超
95%超 処方せん受付回数:月1,800回超~2,000回
要件なし 特定の医療機関からの処方せん受付枚数が4,000回超
調剤基本料3のイ 95%超 同一グループの処方せん受付回数が月35,000回超え〜40,000回 24点
85%超 同一グループの処方せん受付回数が月40,000回超え〜400,000回
調剤基本料3のロ 85%超 同一グループの処方せん受付回数が月400,000回超え、または同一グループで薬局の数が300以上 19点
調剤基本料3のハ 85%以下 同一グループの処方せん受付回数が月400,000回超え、または同一グループで薬局の数が300以上 35点
特別調剤基本料A 要件なし いわゆる同一敷地内薬局 5点
特別調剤基本料B 要件なし 基本料の届出がない薬局 3点

 

資料「令和6年度診療報酬改定の概要 【調剤】」をもとに作成

出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要 【調剤】|厚生労働省(PDF)」

 

2.処方せん集中率を下げる取り組みを行うメリット

 

バインダーを持っている白衣の女性 

処方せん集中率を下げる取り組みを行うと、処方せん集中率の低下によって利益向上を期待できるほか、幅広い診療科の処方せんを受け付けられるようになると薬剤師のスキル向上にもつながります。

また、特定の医療機関に頼ることなく売上を確保できるため、経営の安定化にも役立つでしょう。

 

ここからは、処方せん集中率を下げる取り組みを行うメリットについて解説します。

点数の高い調剤基本料を算定できれば、利益アップにつながりやすい

処方せん集中率を下げ、高い点数の調剤基本料を算定できるようになると、利益の向上に貢献できます。

 

「処方せん集中率が関連する調剤報酬」でも示したとおり、処方せん集中率が低い薬局ほど、調剤基本料の点数は高くなる傾向にあります。

 

例えば、調剤基本料1(45点)を算定する薬局と、調剤基本料2(29点)を算定する薬局では、処方せん受付ごとに16点の差が生じます。

仮に月間3,000枚の処方せんを受け付ける薬局であれば、1か月あたり48万円、年間では576万円の利益差です。(1点:10円換算)

 

調剤基本料は処方せん1枚ごとに算定できるため、応需枚数が多い薬局ほど点数の違いが経営に与える影響は大きくなります

利益確保に苦戦している薬局にとって、処方せん集中率を下げる取り組みは、利益アップを目指すための有効な選択肢といえるでしょう。 

 

幅広い診療科の処方せんを経験することで、薬剤師のスキル向上につながる

処方せん集中率が低下し、幅広い診療科の処方せんを応需するようになると、薬剤師のスキル向上が期待できます。

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