2022.12.14
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医師の働き方改革は医療の質を上げるチャンス
ーーー2024年4月の施行を前に本質を理解する

日本救急医学会労務管理委員長 織田 順 氏インタビュー~

医師の働き方改革は医療の質を上げるチャンスーーー2024年4月の施行を前に本質を理解する 日本救急医学学会労務管理委員長  織田 順 氏インタビュー~

 

 

編集部より

日本救急医学会は2024年4月から開始予定の「医師の働き方改革」にいち早く対応し、アクションプランを作成するとともに「人を救うには、まず自分が健康でなければならない」という力強いメッセージを発信しました。「働き方改革はタスク・シフティングによって医療の質を上げるチャンス」と話す同学会労務管理委員長を務める織田順さんに、救急医の働き方改革について伺いました。  

   

取材・文/横井 かずえ

撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)

編集/メディカルサポネット編集部

     

2019年に公表した6つのアクションプランと報告書

日本救急医学会は1973年に発足し、まもなく設立半世紀を迎える学会で約1万人の会員を擁します。当学会では医師の働き方改革に関する特別委員会を立ち上げて議論を進め、2019年10月に「医師の働き方改革に関する特別委員会報告書」を取りまとめました。

 

特別委員会では報告書の取りまとめに先立ち、医師の働き方改革に対する声明も公表しました。ここでは救急医療のユーザーである国民などに向けて「人を救うには、まず自分が健康でなければならない」というメッセージを発信するとともに、6つのアクションプランを公表しました。アクションプランは以下の通りです。

 

 日本救急医学会 アクションプラン

    日本救急医学会が示した「働き方改革アクションプラン」は大きな反響を呼んだ

    

1.救急医学会に労務管理に係る委員会を設置

2.労務管理に関する救急科領域講習と管理者向け講習の実施

3.施設間相互訪問評価の実施

4.救命救急センター充実度評価項目に労務管理の追加を要望

5.救急科に係わる診療看護師養成を推進

6.救急救命士制度のタスク・シフティングに関する議論を推進

  

これら6つのアクションプランの多くがすでに実現しています。それぞれの現状をお伝えしておきましょう。

1.救急医学会に労務管理に係る委員会を設置

これは今まさに私が委員長を務めている労務管理委員会です。この委員会は、特別委員会を引き継ぐ形で新たに発足しました。

2.労務管理に関する救急科領域講習と管理者向け講習の実施

 労務管理に関する講習の実施についてはまだあまり実現できておらず、各病院の管理者が自主的に勉強している状況です。

3.施設間相互訪問評価の実施

これは施設間でピュアレビューを行うものですが、これは理事や役員の施設を中心にすでに試行が済んでいます。コロナ禍で外部の人間の立ち入りが厳しくなりいったん休止していますが、評価に必要な時間や得られる情報などについては整理されつつあります。

4.救命救急センター充実度評価項目に労務管理の追加を要望

これは一部で実施できています。例えば薬剤師が常駐していたり医師事務作業補助者を確保していたりなど、決められた基準を満たすと評価点が加算されるようになっています。この評価結果は救命救急入院料加算の施設基準として診療報酬と直結しているので、各病院は1点でも多くの点数を取るために努力する仕組みになっています。 

5.救急科に係わる診療看護師養成を推進

診療看護師についてはまだ人数は多くはありませんが、一部の病院では雇用も始まるなど取り組みが進んでいます。

6.救急救命士制度のタスク・シフティングに関する議論を推進

救急救命士のタスク・シフティングについては、2021年に救急救命士法が改正されました。それによって救急救命士が医師の指示の下で、院内でも医療行為ができるようになったのです。救命士が院内で活動するには、記録の作成などいくつかの煩雑な手順を踏む必要がありますが、それでも非常に大きな一歩だと感じています。すでに先進的な病院では多数の救命士を雇用しているところもあり、院内での救命士の活動は今後大きなポテンシャルを秘めた分野だと期待しています。

  

医師の働き方改革は医療の質を上げるチャンスーーー2024年4月の施行を前に本質を理解する 日本救急医学学会労務管理委員長  織田 順 氏インタビュー~

     

 

働き方改革の目的は、良質な医療を持続的に提供すること

このように見ていくとアクションプランの多くは、すでに実現していることが分かります。また、学会が「人を救うには、まず自分が健康でなければならない」という声明を出したことには非常に大きな意味があります。働き方改革というと「残業ができなくなる」「地域医療が崩壊する」などの短絡的な問題点ばかりが指摘されがちですが、最も大切なことは、そもそも救急医自身が健康を損なってしまえば、患者を救うことなどできないということです。つまり働き方改革の主眼は、医師自身の健康を守ることで、患者に良質な医療を持続的に提供するということなのです。 

 

働き方改革は、タスク・シフティングを推進して医療の質を上げる好機だとも考えています。これまで医師は、例えば手術ならば実際の手術だけにとどまらず、準備から後片付けまで一連の行為をすべてできてこそ一人前という風潮がありました。これは内科系であっても同様だと感じます。36協定によって残業が青天井にできた時代には、このように医師がすべてを抱え込むスタイルでも現場は何とかなったかもしれません。しかし本来であれば、医師は医師にしかできないことに集中し、他の作業はそれぞれの専門職に役割分担をすべきなのです。

  

働き方改革のポイント「タスク・シフティング」で医療の質を上げる

この機能分化は、すでに病院の役割分担としては定着しています。昔はほとんどの病院が外来から入院、手術、術後のリハビリまで自分の病院で行っていました。初めから終わりまで、すべてを診てから地域に戻れるようにするのがよい病院という風潮があったのです。しかし今はそうではありません。急性期や慢性期、リハビリなどそれぞれの得意分野に特化するのが当たり前になり、それによって医療の質は向上しました。

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