2023.01.12
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組織の価値向上につながる医師会活動
~断らない姿勢で、情報が集まり、人との交流が増える病院へ~

攻めの中小病院経営 ~事務部門が動かすヒト・モノ・情報~vol.10

  

 

編集部より

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、経営・人材確保・収益化など、病院はさまざまな課題に直面していることがこれまで以上に浮き彫りとなりました。それらの課題解決のための取り組みが、必ずしも改善に結びつくとは限らず苦戦する病院もあるようです。本コラムでは、熊本県甲佐町にある谷田(やつだ)病院で事務部長を務める藤井将志さんに、病院において大きな役割を担う事務部門のリアルな実践方法について解説いただきます。第10回のテーマは医師会の活動です。藤井さんが勉強会の講師を務めたことがきっかけで有志が集まった「上益城郡在宅医会」は、活動が評価されて熊本県上益城郡医師会の下部組織となり、県から予算も下りたそうです。自然災害の発生時にいち早くJMAT(日本医師会災害医療チーム)を派遣したり、コロナ禍で谷田病院の医療マネジメント職が中心となり発熱外来の役割を補完するドライブスルー検査センターを立ち上げたりと活動は多岐にわたります。医療機関の連携は患者の紹介だけでなく、人的資源の共有や勉強会の運営など組織運営に関することでもたくさんありそうです。

目次

  • 1.  地域の医師との交流から生まれた在宅医会
  • 2.  医師会の下部組織として、予算の確保も実現
  • 3.  なんでも依頼を受ける組織として、地域連携を推進

 

地域の医師との交流から生まれた在宅医会

きっかけはある診療所からの一本の電話でした。「地区医師会が診療報酬改定時に実施する勉強会の講師をやってくれないか」という打診を受けたのです。医師会には診療報酬改定の内容を学び、会員に伝えるという役割がありますが、担当理事である開業医が日々の診療の合間に膨大な改定資料を読み込み、分かりやすくまとめるというのは至難の技ではないでしょうか。そこでたまたま白羽の矢が立ったのが、近隣病院の事務方である筆者だったのだと思います。この依頼を前向きに受けたことから、地域の医療機関とのさまざまな取り組みが始まりました。

 

勉強会で診療報酬改定について説明したところ、参加された隣町の診療所の医師から、今度は在宅に関する診療報酬だけを取り上げて詳しく説明してくれないかという相談がありました。当院でも在宅診療を行っていたため、依頼を受けると競合に有利な情報を提供することになりかねません。しかし、たとえそうであったとしても、周囲の医療機関との距離を縮め、何らかの協力関係を結んだ方が得策であると判断しました。

 

そこで、在宅に関する勉強会の講師役も引き受けた結果、在宅医療により積極的に取り組みたいという地域の医師数名と協力体制を模索するようになったのです。ちなみに話し合いの場は、いわゆる「飲み会」でした。資料を持ち込んで真面目な話もしますが、それが終わればざっくばらんに意見交換する飲み会が始まります。働き方改革が叫ばれる中、「飲みニケーション」なんて流行らないと思われるかもしれませんが、やはり成果が出る手段のひとつです。

 

こうしたディスカッションを重ねるうちに同じ熊本県の“玉名”という地域で在宅医療をネットワークする会が活発に開かれていることが分かり、視察に出かけることになりました。そこでは、毎月1回多職種が集い、和気あいあいとした雰囲気の中でショートレクチャーや症例検討が行われており、これぞモデルにしたい形だと意見が一致したのです。

        

医師会の下部組織として、予算の確保も実現

「顔の見える連携」という目指す方向性が明確になったので、まずは始めてみて、課題が見つかったら改善しながら、地域に合う形を見つけていこうということになりました。これも経営手法のTTP(徹底的にパクる)で、勉強会当日の内容や運営スタイルもモデルとした玉名地域の在宅医会をそのまま踏襲することにしました。

 

当時は単なる有志が集まる会でしかなかったので、既存の枠組みと対立しないよう注意を払いながら準備を進めたことを覚えています。こうして、2017年11月に「上益城郡在宅医会」第1回定例ミーティングを開催しました。すると、初回からかなりの反響があり、多職種による地域の勉強会では異例の50名を超える参加者が集まってくれました。勢いのままに翌月開催した2回目以降は上益城郡内の5つの町のいずれかの場所で開催するなど、少しずつオリジナリティを加えていったのです。

    
初回のチラシ

初回のチラシ

  

当初、在宅医会は当院が手弁当で行っていましたが、自分のところだけに囲い込まず公平な運営を心がけていたため、2018年4月からは上益城郡医師会の下部組織に昇格し、医師会を構成する5町から「在宅医療・介護連携推進事業」における予算をいただくことができました。

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