2024.08.19
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世界の製薬企業トップ5

佐藤健太郎の薬の時間vol.6

    

編集部より

東京書籍の教科書「改訂 化学」や雑誌「現代化学」、文藝春秋、朝日新聞などで活躍中のサイエンスライター佐藤健太郎さんが薬の世界を紐解きます。

連載「薬の時間」では、注目の新薬や、医薬品こぼれ話、世界の製薬企業など、医薬品にまつわる様々なトピックを取りあげてわかりやすく解説していきます。 

 

第6回は、「世界の製薬企業トップ5」について語ります。

世界の製薬企業の現状について、世界の製薬企業トップ5の動向と、どのような新薬開発が行われてきたかの歴史、今後の動向について解説いただきます。

 

執筆/佐藤健太郎(サイエンスライター)

編集/メディカルサポネット編集部

   

 

 

1. 世界のトップ企業たち

海外には、国内企業とは比較にならない規模の巨大製薬企業がひしめいています。また、非常に浮き沈みの激しい業界でもあり、圧倒的な強さを誇った企業が情勢の変化で一挙に没落したり、誰もが知る有名企業が、買収や合併によって消滅したりということがよく起こります

 

今回は、そうした浮沈の激しい業界を勝ち抜き、現在世界のトップ5に君臨する製薬企業を紹介します。なお、売上額は断りのない限り、2023年12月期決算(Answers Newsより)の数字を用いています。2022年に比べてトップ5の顔ぶれは変わらず、順位だけが入れ替わりました。

https://answers.ten-navi.com/pharmanews/25612/

https://answers.ten-navi.com/pharmanews/27878/

 

現在世界のトップ5に君臨する製薬企業

 (Answers Newsの記事を元に筆者作成)

      

2. 第5位 アッヴィ

売上543.2億ドルで第5位にランクインしたのは、米国のアッヴィです。前年の4位から一つランクを落としました。1894年に、医師ウォレス・アボットがイリノイ州シカゴに設立したアボット・アルカロイド社を立ち上げたのが始まりで、後に社名をアボットと改称しています。その後、アボット社は買収を繰り返しながら発展を続けますが、2013年にジェネリック薬部門と医療用医薬品部門に会社が分割されました。前者が「アボット」のブランドを引き継ぎ、後者は「アッヴィ」(Abbvie)と名を改めています。

  

日本では2001年に北陸製薬を買収、2003年にダイナボット社との合併によって、日本法人がアボットジャパンとなりました。さらに2013年からは、アッヴィ合同会社に名を改めています。

  

2000年ごろまで、アボット(当時)は世界ランキング20位前後を行き来していました。売上拡大のきっかけになったのは、2001年にドイツのクノール社を買収し、抗TNFα抗体ヒュミラを手に入れたことです。この薬は、それまで治療手段の乏しかったリウマチに著効を示し、2010年代の売り上げランキング1位をほぼ独占しました。2022年には、ヒュミラの売上は349億6600万ドル(当時のレートで約4兆7200億円)に達しています。

https://answers.ten-navi.com/pharmanews/25857/

  

ただしヒュミラは、2023年にバイオシミラー(抗体医薬版のジェネリック薬)が登場し、今後の売上低下が予測されています。これに備え、アッヴィは2020年にアラガン(アイルランド)を、さらに2023年にはイミュノジェンやセレベルセラピューティクスを買収するなど、積極的なM&Aに乗り出しています。大黒柱を失う危機をいかに乗り切るか、今後の成り行きが注目されます。

   

3. 第4位 ジョンソン・エンド・ジョンソン

ジョンソン・エンド・ジョンソン社(以下J&J)は、2023年に547.6億ドルを売り上げ、アッヴィを抜いて4位にランクインしました。1886年にジョンソン三兄弟によって創業され、医薬・医療用品の総合メーカーとして発展を続けている企業です。

 

1920年に発売されたバンドエイドをはじめ、我々の身の回りでも数多くのJ&J製品を見かけます。ただし米国本社では、2023年にこれら消費者向けヘルスケア用品部門をケンビュー社として分社化し、J&J本体は医薬品及び医療機器の専業メーカーとなっています。なお、洗剤などを製造しているSCジョンソン社(米国での社名はS. C. Johnson&son)とは、全く別の企業です。

 

乾癬・クローン病・潰瘍性大腸炎の治療薬であるステラーラと、多発性骨髄腫の治療薬ダラザレックスが年間約100億ドルを売り上げており、J&J社の強力な柱となっています。コロナ禍においても、ウイルスベクターワクチンと呼ばれるタイプのワクチンを開発する(発売はJ&J傘下のヤンセンファーマ)など、パンデミック抑制に貢献しました。

 

ステラーラのバイオシミラーは、日本では2024年5月に、米国でも2025年に登場する見込みであるため、対策が急務です。こうしたことから、患者の免疫細胞を用いたCAR-T療法の新薬カービクティを送り出すなど、新たな創薬手法にも積極的に取り組んでいます。

 

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