2023.12.28
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日本初のsiRNA高脂血症治療薬レクビオ
スタチンとは何が違うのか

佐藤健太郎の薬の時間~vol.1

    

編集部より

東京書籍の教科書「改訂 化学」や雑誌「現代化学」、文藝春秋、朝日新聞などで活躍中のサイエンスライター佐藤健太郎さんが薬の世界を紐解きます。

連載「薬の時間」では、注目の新薬や、医薬品こぼれ話、世界の製薬企業など、医薬品にまつわる様々なトピックを取りあげてわかりやすく解説していきます。

 

第1回は、日本初のLDLコレステロール低下siRNA製剤「レクビオ」について解説します。この新薬はどのような病気の時に使われるのか、スタチンとの違い、なぜ作るのが難しかったのか、RNA干渉型を含む核酸医薬の今後など、レクビオについての知識が楽しく学べます。

 

執筆/佐藤健太郎(サイエンスライター)

編集/メディカルサポネット編集部

   

       

1. レクビオ登場

 2023年9月、ノバルティスファーマ社の高コレステロール血症治療薬「レクビオ」(一般名インクリシランナトリウム)が、製造販売承認を取得しました。高コレステロール血症は、血中の中性脂肪やコレステロール(特に「悪玉コレステロール」と呼ばれるLDLコレステロール、以下LDL-C)の濃度が正常より高まった状態を指します。

 

LDL-Cの血中濃度が高まると動脈硬化が進み、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞など重大な疾患の原因となります。このため高脂血症を放置すると危険である、とはみなさんもよくご存知でしょう。

 

これまで高コレステロール血症に対しては、リピトールやクレストールをはじめとしたHMG-CoA還元酵素阻害剤(いわゆるスタチン剤)が広く用いられてきました。これは体内でコレステロールが合成される過程をストップするもので、多くの人で十分な効果が得られます。

 

ただし、これらスタチン剤では薬効が不十分なケースもあります。特に家族性高コレステロール血症と呼ばれる、生まれつきコレステロールが蓄積しやすい遺伝性疾患の患者さんではこれが顕著で、20代で心筋梗塞を起こす場合さえあります。

 

今回登場したレクビオは、このように心血管イベントの発現リスクが高く、スタチン剤では効果が不十分(あるいは副作用の問題などで、スタチン剤が使用できない)患者さんを対象としています。また、一般的な低分子医薬とは異なるタイプの薬剤であり、いくつかの特徴を持ちます。以下に、そのあたりを述べてゆきます。

        

2. 今までの医薬との違い

      

レクビオは、「核酸医薬」と呼ばれる、比較的新しいジャンルに属する薬剤です。デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)を主成分とし、化学合成によって作り出される医薬品を指します。最近では、細胞に遺伝子操作を加えることで治療を施す、いわゆる「遺伝子治療」などの手法も進展していますが、核酸を用いてはいても、こうした手段は「核酸医薬」には含めません。また、核酸に似た構造の小分子を、がんやウイルス性疾患への治療薬として用いる「核酸アナログ」とも異なります。あくまで、

 

 

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