2022.05.27
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中小規模薬局の採用戦略

「“超”地域密着」調剤薬局の経営戦略 ~地域と共に生き続ける~ vol.2

“超”地域密着調剤薬局の経営戦略  ~地域と共に生き続ける~

 

編集部より

「物」から「人」へ。2025年の実現を目指す地域包括ケアシステムの構築に向けて、薬局のあり方は変革期の真っ只中です。厳しい薬局経営が続く中、地域に根差す調剤薬局の強みを活かせる時代がようやく来たと考えている薬局経営者・管理者の方たちも多いことと思います。しかし、街の小さな薬局が地域と共に生きるとは具体的にどういうことなのでしょうか?本コラムでは、東京都練馬区江古田で地域密着調剤薬局経営をされている、たむら薬局の田村憲胤(のりつぐ)さんに、採用・税務・地域連携など薬局経営に関わる実践知についてお話しいただきます。

第2回は中小規模薬局における採用戦略について考えます。少ない採用人数を限られた予算で募るからこそ、自薬局と共に歩んでいける薬剤師や非薬剤師職を採用したいと考えるのが自然な考え方ではないでしょうか。そのためにはどのような視点を持てばいいのか、田村さんの経営初期における失敗談を振り返りながら、中小規模ならではの採用戦略を見出します。また、薬局で働く人材は薬剤師だけではありません。調剤事務員や最近薬局での雇用が増えている管理栄養士など、非薬剤師職の採用についてもふれていただき、地域に必要とされる薬局となるまでの軌跡を追いました。

 

“超”地元密着を目指して始めた薬局経営の現実

今回は中小規模薬局の採用戦略についてお伝えしたいと思います。

 

前回のコラムの最後にも述べたように、10年前のたむら薬局は調剤だけで精一杯、採用も困難を極めボロボロでした。日中は手が空けば派遣会社や紹介会社へ依頼の電話に追われ、処方箋のお薬を間違えずに渡すことで精いっぱい。やりたかった相談販売になど、とても手を付けられる状態ではありませんでした。

 

20代で薬局経営者となった私は知識・経験共に未熟で、人手不足を補おうといくら大変な状況を紹介会社に訴えたところで、そんな経営状況の薬局に良い人材を紹介してくれるわけもなく、出会う薬剤師は皆、渡り鳥のように見えました。なんとか求職者の要望(賃金や勤務時間等)に沿った雇用条件で採用しても、今度は薬局内の人材バランスが崩れ、良い人材から辞めていくという、まさに悪循環な経営に陥っていたのです。

 

悪い状況は周囲に伝わるもので、そんな私に声をかけてくれる人などいるはずもなく、全部1人で背負い込み、思考停止状態となりました。

 

 

 

地元の知人からは「人が頻繁に変わるわね」などとささやかれ、薬局に対するネガティブな情報が耳に入るようになり、「これが憧れてなった薬剤師としてやりたかったことか?」と悩み、全てをリセットしたいと薬局を閉めることすら考えるまでになっていました。

 

そのたびに脳裏によぎったのは、代々地域に根ざして運営してきた薬局を譲ってくれた先代の「地元江古田への思い」でしたが、当時は江古田に暮らしていることさえ苦痛に感じていました。

 

しかし、江古田で暮らしている以上、後ろを向いても光がみえるわけでもありません。「前を見て進むしかない!」と一念発起して、経営者の会に入ったりさまざまなセミナーに時間を見つけては足を運んだりしました。暗中模索する中で自社のビジョンがブレてしまっていたことに気付き、江古田から出ないと覚悟を決め、前回お話しした、薬局のビジョンを示したクレドカードを作成しました。採用に関して、今でも大切にしているのがこのクレドカード(経営理念)です。

 

たむら薬局 経営理念 行動指針 メディカルサポネット

 

  

薬局経営ビジョンをスタッフに浸透させていく難しさ

ビジョンを示してもすぐスタッフの行動が変わってくるわけではなく、まずは、自分の行動を変えていきました。

 

地元の小学校・幼稚園の学校薬剤師としての活動を引き受け、保護者や児童向けのお薬教室を開催し、商店会の集まりなどにも顔を出すようにし、また買い物や飲食なども、薬局に来てくれている地元の方のお店に行くなど、できることから少しずつ実行していきました。

 

同時に、薬局の中は積極的な機械化ICTの活用を進め、厳選したOTC薬の品ぞろえを増やすために、店内を改装して環境を整えていきました。

 

ビジョンを明確にしたことに伴い、去っていくスタッフも当然いました。退職まではしなくても、できない理由を並べ行動を変えようとしない者、それだけでなく他の人も巻き込み中をかき乱す者もいて、そこを変えていくのことが一番大変でしたが、「江古田地域にこだわりcureからcareまで貢献する」と覚悟を決めて方向性を決めた以上、ビジョンに合わなければこの船(会社)を降りてもらっても構わないと腹を決め、環境を整えていきました。

 

 

また、以前の苦い経験を踏まえ、賃金規定就業規則をしっかり整備し、無理に社員で採用するより、足りなければ派遣でつないでビジョンに共感してくれる社員を1人、また1人と少しずつ増やしていきました。

 

今では、江古田で感謝と住民との信頼の輪が広がり、以前にも増して好きな街になっています。

 

中小薬局における薬剤師・非薬剤師職の採用戦略を考える

―――社員薬剤師中心の採用へ

「江古田地域にこだわりcureからcareまで貢献する」というビジョンを軸に、責任を持ってかかりつけ業務を増やしていくことを想定した時、まず扶養内のパート薬剤師から社員薬剤師中心の構成に徐々に切り替えていきました。

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