2022.06.03
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「生きる」を支える看取り介護に必要なたった1つのこと

菊地雅洋の激アツ!介護経営塾 ~選ばれる介護事業所であり続けよ~ Vol.9

菊地雅洋の激アツ!介護経営塾 ~選ばれる介護事業所であり続けよ~ 

 

編集部より

来るべき”2040年問題”に向けて、介護事業所の経営はこれからさらに厳しさを増すと予想されています。いかにして生き残るか。経営者たちはその手腕が問われようとしています。本コラムでは「masaさん」の名で多くの介護事業経営者たちから慕われる、人気介護事業経営コンサルタント菊地雅洋さんに、「介護経営道場」と称して時にピリ辛に、時に激辛に現状と課題、今後の展望を伝えていただきます。第9回は介護施設における看取りについてです。超高齢社会を迎えた日本では、これから多くの看取りを経験することは避けられません。高齢者施設の増加に伴い、各施設において高齢者が安心して最期を迎えられる環境を整えることが求められます。看取りに向けた介護は「”生きる”ことを支える行為」だと話す菊地さん。その時に必要なたった1つのこととは一体何なのでしょうか?

 

多死社会の中で求められる看取り介護

 

2019年と2020年の死者数は、2年連続で前年を下回りました。この原因にはコロナ禍による巣ごもりが大きく影響していることは間違いありません。しかしこれはあくまで一時的な現象であり、人口減少社会の中でも後期高齢者が増え続ける我が国では、過去に経験したことがない多死社会を迎えることは確実です。現に2021年の死者数は145万2289人となり、前年比で6万7745人増えて戦後最多となっています。この数はもっと増え続け、2030年には死者数が約160万人に達する見込みです。

 

そこで問題となるのが「看取り難民※」と呼ばれる状態で亡くなる人が増大することです。死者数が増える中で、医療機関のベッド数は減る傾向にありますので「看取り難民」を増やさないように、自宅など現在暮らしている場所で看取り介護が行われるようにしなければなりません。介護施設での看取り介護も、そうした目的で推奨されるものです。

※「看取り難民」について 国は「看取り」をしてくれる場所「死に場所」が確保できない人々のこと、という意味で使っていますが、人間はどこでも、どんな状態でも死ぬことができることからこの言葉に明確な定義をすることはできないと言えます。「悲惨な死に方にならない」という意味で、看取り難民という言葉を使う場合もあるので、本コラムではこの意味合いを強く出して論じています。

 

  

最期のエピソード創りの支援

 

医師が常駐せず、全体の9割以上で看護職員が夜勤をしていない特養で、死の瞬間を看取ることに不安を感じる人がいるかもしれません。現に看取り介護を行っていない特養の施設長の中には「介護職員が利用者の死の瞬間に立ち会う際に何をしてよいのかわからず不安を抱えているため、看取り介護の実践を強制できないし、そんなことをしたら職員が辞めてしまう」と言う人がいます。

 

しかし、施設内死亡者が年間ゼロという特養はないわけですから、看取り介護を行っていないという特養でも夜間に予期せぬ死を迎える人がいるわけです。その時の介護職員の対応と、看取り介護を実践した末の死の瞬間の対応に違いがあるわけではありません。そして看取り介護対象者の方が、死を迎える瞬間に求めるものとは、冷たい注射針や聴診器ではなく、誰かの温かい手の温もりなのです。

 

看取り介護とは、逝く人と看取る人の双方が、死が訪れる時期が迫っていることを意識したなかで、その瞬間に備えたさまざまな準備ができます。限られた命ある時間を意識して、この世で縁があった方々と最期の時間をともに過ごし、旅立つ人と遺される人の双方の心に、消えることのない思い出を刻むことを支援するのが看取り介護です。それはまさに死を支援する行為ではなく「生きる」ことを支える行為なのです。

 

    

    

看取り介護は特別な介護ではない

 

看取り介護として最も求められることは、「看取り介護対象者が最期まで安心して安楽に過ごす支援」ですから、緩和医療が必要になる場合があります。しかしそれは看取り介護の過程の中で医師が適切に関わりを持つことで果たすことができる役割であり、看取り介護対象者が旅立つ瞬間に、医師や看護師が居なければならないという問題ではありません。現に自宅で旅立つ人の傍らに寄り添っているのは99%が家族なのです。その家族に代わって、特養では介護職員が最期の瞬間に寄り添うのです。そのため介護職員も終末期に起こり得る体の状態の変化等の知識は必要となります。 

 

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