編集部より

2024年に行われた介護報酬改定を通して、介護業界には多くの課題が生まれました。経営課題はもちろん、人材不足の解決、介護DXをどのように進めるか、事業所経営者は様々な問題と直面することでしょう。そこで、本コラムでは「masaさん」の名で多くの介護事業経営者たちから慕われる、人気介護事業経営コンサルタント菊地雅洋さんに、「菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営」として、介護の現場に重要なノウハウやマインドを解説頂きます。

  

第5回は、「待ったなしの介護生産性向上」です。

2025年問題の真っただ中にあり、2040年問題を抱える日本で、人材難に対応した生産性向上の取り組みは待ったなしの状況です。

では、その「生産性向上」とは具体的にどのようなことをすればよいのでしょうか。

最新テクノロジーを駆使するだけでは、介護実務の生産性向上効果は限定的であると考える筆者が、最先端の機器やテクノロジーに頼る前におこなうべき生産性向上の取り組みを解説します。

安定した事業継続の参考に、お役立てください。

  

執筆/菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

編集/メディカルサポネット編集部

   

      

  

1. 2040年問題の本質とは何か?

団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年以降の我が国では、75歳以上の人口増は落ち着くが85歳以上の人口が伸びていくことになる。

すると高齢者が容態急変するなどして要介護状態となるリスクが増加する。

そのような中で団塊の世代を財政・サービス両面で支えてきた次の塊である団塊ジュニア世代が2040年までにすべて65歳に達する。

 

その時期に団塊ジュニア世代は、まだ現役世代であり要介護状態になる人は少ないと予測されるが、85歳以上の人口数と要介護者の数はピークを迎える。

しかし我が国の出生数や新成人数は、毎年のように過去最少を記録し続けており、それが増加に転ずる兆候は見られない。

 

その為、2025年を境として高齢者の「支え手」が財政・サービス両面で急速に縮小していき、2040年頃に財政難・人材難のピークが訪れることが予測される。これが我が国の2040年問題である。 

 

 

    

2. 最先端機器の導入より先に、従前機器の見直しを図ろう

 

 

人材難に対応した介護事業者における生産性向上の取り組みも待ったなしである。

そのため過去の連載「菊地雅洋の波乱万丈・選ばれる介護事業経営Vol.8~介護職員の離職防止対策について」の「5. 離職防止に必要とされる職場環境整備」では、見守りセンサー・自動体位交換機・高性能紙おむつなどの導入、ICTツールの活用などを提言した。

 

しかし最新テクノロジーを導入する以前に、前時代的なケアサービスの方法から脱する取り組みが必要な介護事業者も少なくない。

 

例えば未だに手動式ギャッジベッドを使っている施設がある。ギャジアップが必要のない利用者に対して、寝るためだけにそうしたベッドを使っているならともかく、ギャッジアップが必要な利用者に対しても手動式ベッドを使っているとしたら生産性は向上しない。

介護職員がギャッジアップの度に腰痛になりかねない姿勢で、腱鞘炎になるのではないかと思えるほどの勢いでハンドルを回してギャッジアップしなければならない状況は、介護職員の身体的負担も大きい

介護福祉士養成校の進路指導教員は、卒業生の進路として推薦する際は、全室に見守りセンサーを設置していない介護施設は除外するとしている今日、手動ギャッジベッドを使用している施設に人材は集まらないと考えるべきである。

  

ケアの方法論の適正化も図らねばならない。

例えば介護職員にとって負担が大きい移乗介助は適正かつ効率的に行われているかを検証する必要もある。

使い勝手が悪く倉庫のゴミと化していることが多い移動用リフトを無理に使おうとするのではなく、ノーリフティングケアの正しい知識を身に着けて、スライディングボード等を使いこなしたケアを浸透させることが重要となる。

 

ノーリフティングケア」とは、その名の通り「抱え上げない介護」のことである。

移乗介助などの際にも、利用者が体重の重たい人であろうと、介護職員が一人で対応し、スライディングボードなどの福祉用具を丈夫に活用して対応する方法である。

抱え上げる介護である限り、重たい利用者の移乗介護は、介護者が2人以上いないと対応できない場面が多くなる。

しかし福祉用具を利用して上手にノーリフティングケアが行われると、介助者一人で対応できることになるわけで、必然的に生産性は向上する

そういう意味で、スライディングボードをアナログ機器などと揶揄して侮るなかれと云いたい。

 

 

 

3. テクノロジー導入だけの生産性向上効果は限定的

 

 

生産性が低い職場では、ひとりの職員の業務負担が増え、それを嫌って人材も集まらないという悪循環に陥っていくため、事業継続は極めて困難となると言わざるを得ない。

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