2024.07.25
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介護事業経営を左右する加算算定の考え方

~菊地雅洋の波乱万丈!選ばれる介護経営~Vol.7

    

編集部より

介護事業の運営は厳しさを増し、利用者や職員の期待に応えられない事業所は、淘汰される時代に入っています。本コラムでは「masaさん」の名で多くの介護事業経営者たちから慕われる、人気介護事業経営コンサルタント菊地雅洋さんに、「介護経営道場」として、ある時は厳しく、あるときは優しく、経営指南を頂きます。

 

「菊地雅洋の波乱万丈!選ばれる介護経営」第7回は「介護事業経営を左右する加算算定の考え方」です。

介護事業所で最大限の収益を確保するためにはどの加算を取得すべきなのでしょうか。算定要件も含めて詳しく解説いただきます。介護事業経営にお悩みの方は必見です。

 

執筆/菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

編集/メディカルサポネット編集部

   

      

 

1. 33年ぶりに高水準となった賃上げ状況下の介護事業経営

介護事業所と経営

 

今年度の介護報酬改定率は、処遇改善分を除くと+0.61%でしかなく、物価高や人件費高騰分を補填できない厳しい数字となっている。そのためより一層の経費節減等の経営努力が必要とされる。しかも処遇改善加算のプラス改定分も他産業のベースアップと比べてかなり低い数字となっている。

 

例えば連合が公表した傘下労働組合を対象にした調査の中間集計(5月2日時点)によると、初任給の増加率は飲食店などを含む「サービス・ホテル」の10.34%。「製造業」が5.74%、百貨店やスーパーなどの「商業流通」が5.18%である。企業規模が大きいほど初任給の増加率が大きくなる結果も示されているが、「99人以下」でも増加率は4.43%である。それに対して介護事業者の新介護職員等処遇改善加算の増加率は、令和6年度に 2.5%、令和7年度に 2.0%の増加率でしかない。しかもこれは加算をすべて介護職員にだけ配分した場合の数字であり、事業者の裁量権を行使して他職種に配分の幅を広げれば増加率は下がることになる。

 

コロナ禍で一時飲食・宿泊業などから離れ、介護事業者に転職した人は少なくないが、こうした賃上げ状況は、介護事業者に転職した人が元職に戻ってしまうなど、介護業界から人がさらに減る要因になり得る。だからこそ介護事業経営者は、加算だけに頼らない独自の給与改善に努めていかねばならない。最低でも介護職以外の昇給原資は収益を上げる中で別に確保して、介護職員等処遇改善加算は全額介護職員に配分するなどして、最大限の増加率を確保する必要があるのではないか。それでも他産業の昇給増加率に追いつかないが、最大限の経営努力で収益を確保して、従業員に最大限の還元をするという考え方がないと人材確保は困難となり、事業経営が継続できなくなりかねない。加算は最上位区分の算定を目指さねばならないし、単位数の低い加算でも拾えるものは拾っていかねばならない。

      

2. 算定単位が低くとも拾っておきたい加算

施設サービスと居住系サービスに新設された高齢者施設等感染対策向上加算Ⅱ(5単位/月)は単位が低いために算定しないとしている事業者が多いが、本当にそれでよいだろうか。この加算は、「感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関」から、少なくとも3年に1回以上、施設内で感染者が発生した場合の感染制御等に係る実地指導を受けている場合」に算定できるとされ、実地指導は医療機関において設置された感染制御チームの専任の医師又は看護師等が行うこととされており、その内容は下記である。

  • 施設等の感染対策の現状の把握、確認(施設等の建物内の巡回等)
  • 施設等の感染対策状況に関する助言・質疑応答
  • 個人防護具の着脱方法の実演、演習、指導等
  • 感染疑い等が発生した場合の施設等での対応方法(ゾーニング等)に関する説明、助言及び質疑応答
  • その他、施設等のニーズに応じた内容

(※単に、施設等において机上の研修のみを行う場合には算定できない。)

 

このように実地指導内容は決して難しいものではなく、「感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関」も増えているので、実地指導ができる医療機関を探すことにさほど苦労はしない。経営母体が対象となる医療機関である場合は、実地指導も無償で行うことが可能だろうし、外部委託する場合も、さほど大きな経費支出は必要としないだろう。

 

最も重要なことは、この加算は実地指導又は実地研修を受けた日から起算して3年間算定してよいとされていることだ。まり一度実地指導を受ければ、他に何もしなくとも3年間算定できる加算なのである。今月この指導を受けた施設は、今月から2027年3月まで何もしなくとも5単位を利用者全員に加算算定できるのだ。さすればこの加算は単位が低くとも、コスパは高いと言えるのではないだろうか。だからこそ1月でも早く感染制御等に係る実地指導を受けてほしい。

 

感染症予防対策の重要性が増す中で、この加算を算定しているという事実は、収入以外のメリットも見込むことができる。それは感染症の専門家から従業員が指導・教育を受け、万全な安全対策がとられているというイメージにもつながり、地域住民から選ばれる施設となり得る可能性があるという意味だ。だからこそ決して無視して良い加算とは言えない。

       

3. 必ず算定したい生産性向上推進体制加算

短期入所系サービス・居住系サービス・多機能系サービス・施設系サービスに横断的に新設された生産性向上推進体制加算は、労働人口が減り介護人材も益々困難となる今後を見据えると、生産性向上に取り組む事業者であることをアピールするためにも是非とも算定しておきたい。

 

この加算は

 

 

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