2022.05.17
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人材定着を目指した病院の取り組み

攻めの中小病院経営 ~事務部門が動かすヒト・モノ・情報~ vol.2

攻めの中小病院経営 ~事務部門が動かすヒト・モノ・情報~

 

 

編集部より

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、経営・人材確保・収益化など、病院はさまざまな課題に直面していることがこれまで以上に浮き彫りとなりました。それらの課題解決のための取り組みが、必ずしも改善に結びつくとは限らず苦戦する病院もあるようです。本コラムでは、熊本県甲佐町にある谷田(やつだ)病院(118床)で事務部長を務める藤井将さんに、病院において大きな役割を担う事務部門のリアルな実践方法について解説いただきます。第2回は「人材定着」をテーマに、谷田病院での具体的な実践方法について解説いただきます。そもそも「定着率の高い病院」とは何をもって「高い」と判断されるのか、これまであまり触れてこられなかった部分かもしれません。よく新卒看護師の離職率(定着率)が人材定着のものさしとして活用されますが、では、入職から定年まで1人も辞めない(=定着率100%)ことがいい組織の表れなのでしょうか?コラム内で紹介されている、藤井さんが考える人材定着の定義を皆さんはどう感じますか?

 

 

病院における「人材定着率を上げる」のゴールを考える

「人材の定着率を上げる」ことは多くの医療機関で求められているのではないでしょうか。しかし、例えば500人の職員がいて、その全員に定着してほしいかというと、必ずしもそうではないでしょう。おそらく、問題がある職員や方針が合わない職員は定着しない方が良いかもしれません。また、全員がずっと定着するということは、そのまま時が過ぎると社員の高齢化につながるで、一定数の新陳代謝は求められます。

 

一方で、労働者の立場からしても、日本企業の終身雇用を前提とした環境が変わりつつあります。民間の調査によると、新卒で入社後に定年まで働きたいと思っている人は3割程度となっています(図表1)。そもそもひとつの組織にずっといることは考えにくい環境となっているのかもしれません。

    

 図表1:2023年卒学生の就職意識調査 

マイナビ 2023年卒 大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(11月)  

マイナビ 2023年卒 大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(11月)

 

 

このように考えると、人材を定着させるということは「組織の方向性と合った人材」「おおよそ10年くらい」いてもらうことなのでしょう。

 

この「組織の方向性」というのも医療機関によってさまざまです。例えば当院の場合、高度急性期医療を提供していたり、都市部に立地している医療機関ではありません。そのため、手術の腕が日本トップクラスの医師や、それを支える看護師のような人材は求めていません。当院は基本方針で職員が安心できる職場を掲げています(図表2)。

 

 

図表2:谷田病院の理念と基本方針

谷田病院の理念と基本方針

   

どんなに優秀な人材であっても、この職場の安心感を乱すような行為をしてしまう人は求めていません。この基本を前提とし、法人全体で ①ワークライフバランス(以下:WLB)が得られる仕組みと②学べる組織化に力を入れてきました。具体的にどのような取り組みをしたのか、それぞれ解説していきましょう。

  

ワーク重視・ライフ重視、職員それぞれの価値観を尊重した労働環境づくり

まずWLBについては、当院が田舎町にあることから、仕事が何よりも優先!という人よりも、家族やプライベートのことが優先で、それを犠牲にしてまで仕事をしたくない人の割合が高いと感じています。ガツガツした人材が少なくなったともいえるかもしれませんが、それを憂いても仕方ありません。

 

会議や勉強会を勤務時間内で実施することはもとより、定時で退勤できるような環境、有給取得ができるような環境づくりをするように求めています。実際に、慢性的に残業が発生している部署や、有給取得ができないような部署はありません。

 

しかし、このWLBを保つことを方針として掲げると、

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