2023.04.17
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谷田病院の新構想「公園型複合施設」
~人・地域・医療・福祉をつなぎ、社会的孤立を防ぐ~

攻めの中小病院経営 ~事務部門が動かすヒト・モノ・情報~vol.12

  

 

編集部より

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、経営・人材確保・収益化など、病院はさまざまな課題に直面していることがこれまで以上に浮き彫りとなりました。それらの課題解決のための取り組みが、必ずしも改善に結びつくとは限らず苦戦する病院もあるようです。本コラムでは、熊本県甲佐町にある谷田(やつだ)病院で事務部長を務める藤井将志さんに、病院において大きな役割を担う事務部門のリアルな実践方法について解説いただきます。第12回(最終回)、1年間にわたって連載していただいたその集大成のテーマは谷田病院の新構想、公園型複合施設。病院という枠を超えて、誰もが自由に行き来できる公園と、通所型福祉施設、健康食レストランを小学校の横に作る予定です。

目次

  • 1.  みんなの居場所がある「公園型複合施設」
  • 2.  「通所型福祉施設」で、子どもから高齢者まで支える
  • 3.  病院が牽引する「インクルーシブなまちづくり」

 

みんなの居場所がある「公園型複合施設」

1年間にわたり続けてきた本連載も、ついに最終回を迎えました。これまで谷田病院で実践してきた業務改善から人材育成、地域づくりの活動にいたるまで、多種多様な取り組みを紹介してきましたが、今回はインクルーシブな共生社会の実現に向けて新たに取り組む「公園型複合施設」についてご紹介します。

 

構想のきっかけになったのは、関連介護施設のコロナウイルス感染症クラスターです。提携していたリネンサプライ業者から洗濯を断られ、ランドリー業務の内製化を検討しはじめました。必要に迫られてのことでしたが、せっかく新しいことにチャレンジするのなら、障害者も一緒に働けたり、年齢や性別、健康状態に関係なく、あらゆる人が集えるような場にしたい。そんな発想を起点として、みんなでディスカッションを重ねてたどり着いたのが「公園」というキーワードでした。

 

谷田病院がある熊本県甲佐町では、子どもたちが自由に遊べる公園が少なく、住民の悩みの一つになっています。そこで、プロジェクトメンバーを募り、まずは公園の意義について議論を重ねて、以下の3点にまとめました。

 

・気軽にというよりも、意図せず誰もが利用できる場所

・何か目的があっても、なくても、行ける場所

・利用する人の年齢や性別、肩書き、収入など、まったく関係ない場所

 

最近の公園は禁止事項が羅列してあったり、入場が制限されていたり、柵で囲まれて入りにくいようにしているところさえあります。しかし、自分たちで公園を作れるのなら、こうした制限をせずに、自由で開放的な“本来の公園の姿”に近いものにしたいと考えたのです。そこで、「絶対のルールを作らないこと」を逆にルール化し、「みんなが自然体で過ごせて、多様性の化学反応が生じる場」をコンセプトに掲げることにしました。ただ、化学反応を起こすために集まるのだと“頑張り屋さん”の集まりにもなりかねないため、それを目的にはしていません。さまざまな人が混じり合うことで自然に化学反応が生じることがあっても、なくてもいいのです。

 

「ルールがないと、いろいろな問題が発生するのでは?」そんな意見ももちろんあるでしょう。子どもが木に登り、落ちてケガをする。意見が合わない人同士がもめる。うるさい。危ない使い方をしている人がいる。そんなトラブルは日常茶飯事かもしれません。しかし、こうした反対意見と出くわし、それを乗り越えることもある意味必要だと思うのです。ルールを作ることで、安易に対話を避けてはいないかと。反対意見を持つ人や個人的背景が異なる人とも対峙して、当事者同士で妥協点を見つけ出していく。理想論かもしれませんが、そんなことが出来る公園になったら、すごいなぁと思っています。

      

 

  

「通所型福祉施設」で、子どもから高齢者まで支える

甲佐町に足りないもう一つの機能が「通所型療育施設」です。2012年に放課後等デイサービスや児童発達支援が制度化され、これらの事業所は爆発的に増加しました。なかでも放課後等デイは、いまやコンビニの数より多いと言われるほど事業所が乱立しています。あまりにも増えすぎたため、熊本県のように新規開設を制限している自治体も珍しくありません。

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