

プロフィール
八田 京子(はった きょうこ) 都立看護専門学校を卒業後、北里大学病院に入職。救命救急センターや手術室などで31年間にわたり臨床経験を積みながら桐蔭横浜大学へ進学し、同大学院法律学専攻 医療過誤研究室にて修士課程まで修了。2016年に臨床を離れ、医療コンサルタントとして活動。2017年にメドライン・ジャパン合同会社へ入社し、現在に至る。
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◆手術室勤務と並行して自分が目指すゴールのヒントを得るために大学へ
――新卒で入職した北里大学病院で順調にキャリアを積みながら、大学に入学して勉強を始めたのはどういう理由からだったのですか。
私は入職後ICUで6年間、救命救急センター(現在は救命救急・災害医療センター)で6年間、手術室で12年間、混合病棟で3年間の臨床経験を積みました。その後、北里大学東病院(2020年3月に北里大学病院と機能統合)に移り、再び手術室勤務。看護師としての臨床経験は、合計すると31年間になりますね。
最初の転機が訪れたのは、救命救急センター時代でした。「死」が目の前にある過酷な環境でがむしゃらに毎日を過ごしていましたが、あるとき「自分がめざすゴールは何だろう」という疑問が頭に浮かんできました。これから看護師としてどんな道を歩むべきか、自分はどんな専門性を得たいのか……。そうしたことを考えているとき、研修で一緒になった他院の看護師から大学の社会人入学の話を聞き、興味を引かれたのです。半年ほどの準備期間を経て、35歳のときに法学部へ進学。同じタイミングで手術室に異動となりました。

――手術室での勤務と大学での勉強を両立させるのは大変ですよね。
もともと手術看護のスキルを学んでおきたいと思っていましたし、手術室は比較的勤務時間が安定しているので、このタイミングでの異動はありがたかったです。とはいえ、未経験の職場で働きながら学生として学ぶことは、決して楽ではありませんでした。器械出しの手順などをなかなか覚えられず、ポイントを紙にまとめて自分の足元に貼っておいたこともあるほどです。
当時は、16時半ごろに勤務を終え、18~20時の間に授業を受けるというスケジュールで動いていました。授業中につい居眠りしてしまうこともありましたが、同じように頑張る仲間たちの存在が私を奮い立たせてくれました。会社勤めの後に通学しているビジネスパーソンや、子育てしながら学ぶお母さんもいて、「もっと頑張っている人がいるのだから泣き言は言えない!」という感覚でしたね。
学部で4年間かけて法学の基礎を学びましたが、「自分はまだまだ」と感じて修士課程へ進学することに。医療過誤研究室に所属し、「チーム医療における責任範囲」をテーマに研究を進めました。医療過誤や医療リスクについて法学的な視点から学んだことは、私にとって大きな糧になったと思います。その後は「2足のわらじ」を卒業し、臨床に専念していました。

◆病院の業務改善&効率化に外部から挑む
――ベテランナースとして活躍していた八田さんが、あえて臨床を離れる選択をしたのはなぜですか。
手術室で後進を指導する中で、志半ばで退職していく看護師が非常に多いという現実に直面し、どう教育すべきか悩むようになりました。大学での学びから、業務上のリスク低減や離職者の減少を実現するためには根本的な業務改善が必要だと実感していたこともあり、臨床現場を客観的に見られる立場で、そうした仕事に取り組んでみたくなりました。そこで、医療コンサルタントという仕事を選んだのです。手術室の無駄をなくして資材を削減するなど、それまでとは違った視点で病院の経営改善のために働くのは新鮮な体験でした。
医療コンサルタントとして働く中で多くの医療用品メーカーとやり取りしましたが、そのうちの1つだったのがメドライン・ジャパン合同会社。臨床看護師時代から取引先としてお付き合いがあり、営業担当者の対応が良く印象的な会社でしたが、今は上司となった人から「使いやすい製品の提供を通して、臨床の業務改善に力を尽くしてみませんか」と声をかけてもらいました。そのことが後押しとなり、思い切ってチャレンジしてみることにしたのです。

――現在、メドラインで担当している業務内容について教えてください。
クリニカルエキスパートという役職に就き、社内では医療や看護に関する専門的な知見から営業担当者をサポートしています。例えば、臨床現場で当社の製品をどのように使っていただいているのか共有したり、臨床で使いたいと思うポイントを伝えたり、といったことです。また、対外的には病院向けに製品を正しく使うための「看護師向け教育プログラム」の作成・実施にも携わっています。
臨床で培った医療従事者としての考え方、手術室環境におけるガイドラインへの理解、大学で得た知識や文献検索の技術などを含め、これまでの経験が今に生きていることは間違いありません。「清潔範囲とはどこまでを指すのか」「医療安全について医師と看護師で感覚が異なるのはなぜか」など、非医療従事者には理解が難しいことはたくさんあるので、臨床現場との橋渡し役として、より分かりやすい表現や伝え方ができるよう日々努力しています。
オフィスワーカーになって変わったことといえば、フレックスタイム制も活用しつつ基本的に9時~17時30分までの規則的な就業時間で働き、年末年始には休暇が取れるようになったことです。また、外資系の企業であることを実感したのが、週末の終業時に同僚から“Have a nice weekend!”と言われたこと。これまで30年以上働いてきましたが、週末を楽しく過ごそうという発想がなかったため、驚くと同時に感動しました。臨床現場でも、こうしたあいさつが普通にできるような環境になればいいですね。

◆地道な臨床経験がすべての土台に
――クリニカルエキスパートとして、八田さんがめざす目標は何ですか。
大学病院時代から、「人に教える」ということがいかに難しく、大変であるかを痛感してきました。特に、毎年何十人という新人看護師が入ってくる大学病院などでは、教育に割く労力が非常に大きいもの。「先輩によって言うことが違う」というようなことがあればスムーズな育成は難しく、道に迷った新人の離職にもつながりかねないため、教育のやり方を考える必要があります。
そこで大切なのが、基礎となる情報を一本化すること。だからこそ私たちは、細かな部分で個人差が出やすいPPE(個人防護具)の正しい使い方や、手術室における器機の清潔操作などについて、統一された教育プログラムの作成に力を注いでいます。また、誰もが同じように資材や機器を使えるよう、必要なものをパッケージ化したSPT(手術準備キット)を展開しています。医療機器メーカーが基礎的な部分の教育を「肩代わり」することで、病院の業務効率化を少しでもサポートできればと考えています。

――最後に、「+α」をめざす医療職の皆さんへのメッセージをお願いします。
「外資系」というワードに華やかな魅力を感じる方もいるかもしれませんが、クリニカルエキスパートとして活躍するのなら、地道な臨床経験が欠かせません。様々な職種とやり取りする仕事だからこそ、相手の信頼を得られるだけの経験を積み、自分は何を学んできて、何がしたいのかを明確にすることが第一歩だと思います。
めざすところを明確にすることは、自身のモチベーションアップにもつながります。仕事を続けながらキャリアチェンジのために動き出すのは大変なことであり、「何となく」という程度の感覚では壁を越えることはできないでしょう。自らの未来を見据え、「私は今、本当に必要なことをしている」という確信を持って、前に進んでいくことが大切だと感じています。
メドライン・ジャパン合同会社
■住所:東京都文京区小石川1-4-1 住友不動産後楽園ビル15F
■代表電話番号:03-5842-8800
■URL:https://www.medline.co.jp/
■設立:1999年11月
■代表執行役員社長:長谷川 智裕
全米最大規模の医療機器メーカーであるメドライン・インダストリーズの日本法人。
医療機関向けに手術準備キット、手術用・検査用手袋、ガウン、ドレープ、個人防護具など医療用品の製造・販売を行う。
適正品質の製品を、適切な価格かつ付加価値のある製品販売により、医療従事者の感染防止と患者ケアによるQOL向上に貢献している。
詳細は会社HP https://www.medline.co.jp/

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