2024.09.05
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両立経験者の声から浮かび上がる看護管理者の役割

介護との両立支援の実際

 

編集部より

「ナーシングビジネス」2023年vol.17 no.5より抜粋。両立経験者の声から浮かび上がる看護管理者の役割』をご紹介します。

 

廣島のぶ子(ひろしまのぶこ)

一般社団法人日本厚生団 長津田厚生総合病院 看護部長

2015 年国際医療福祉大学大学院修士課程修了(看護政策・管理学)、認定看護管理者取得。1998 年横浜市立大学附属市民総合医療センター看護師長、2018 年一般社団法人日本厚生団 長津田厚生総合病院看護師長、2019 年キャリアコンサルタント取得、副看護部長。2022 年より現職。 

看護職が介護と仕事の両立を目指すにあたってどのような課題があり、看護管理者はどのような支援を行うことができるのでしょうか。筆者が取り組んだ研究をもとに考察します。

目次

  1. 介護離職の現状
  2. 看護職にみる介護離職の実情
  3. 看護管理者が行う介護との両立支援
  4. 仕事と介護を両立した看護師の気づき

 

介護離職の現状

 「平成29年就業構造基本調査」によると、627.6万人いる介護者のうち約55%(346.3万人)が就労しています。年齢階級別では男性が「55~59歳」で87.8%、女性が「40~49 歳」で68.2%と最も多く、家族の介護を理由に離職する人は年間約10万人といわれています1) 。介護離職者は男女ともに50%強が「仕事を続けたかった」と回答し、離職後の負担についても精神面・肉体面・経済面のいずれも減ることなく、「むしろ負担が増えた」との割合が高いことがわかりました2)。また退職金や年金などを含めた生涯所得は減少し、介護の必要がなくなっても再就業が難しい状況にあると示されています3)。介護離職は、組織にとっては中核人材の流出となり、個人にとっても将来が望まない方向に変わることや家計が不安定になるなど負担が増える可能性があります。 

 

看護職にみる介護離職の実情

 2017年「看護職員実態調査」(日本看護協会)4)では、看護職の36.8%が家族の健康についての悩みがあると回答し、40歳代の41.9%、50歳代の51.5%が「介護のための短時間勤務制度を利用したい」と回答していました。とくに40~50歳代の看護職は介護に不安を感じる人が多いといえます。

この結果から日本看護協会は、「介護離職ゼロ」を実現すべく、看護職が希望すれば1日の勤務時間短縮や月の勤務日数を減らすなどの対策を事業主の義務とすることを、厚生労働省に対して要望しています。

本稿では、2017年のインタビュー調査5)と2019年のアンケート調査6)をもとに日本看護管理学会学術集会で筆者が発表した「仕事と介護を両立しながら病院で働く看護師のキャリア発達の実態とキャリア支援」(以下、研究)で明らかになった看護職の介護離職の実態についてお伝えします。

 


図-01 介護を決断した理由

  

 

❶介護を決断した理由

 本研究は仕事と介護の両立経験のある常勤看護師を対象とした調査です。院外組織に調査を依頼し、203名の回答がありました。「介護を決断した理由」のうち「よく当てはまる」「どちらかと言えば当てはまる」の割合が高いのは「家族の介護をするのは当たり前だから」175 名(86.2%)、次に「仕事への責任があるから」154 名(75.8%)、「生活費や教育費などの資金が必要だから」148 名(72.9%)でした〔図-01〕。

 

 介護を決断する際に、「家族の介護するのは当たり前」という介護者の立場、「仕事への責任」という職場での立場、「生活費や教育費などの資金が必要」という家庭での立場とさまざまな立場における葛藤を抱えながら介護することを決断していました。また、2017年に実施したインタビュー調査からは、介護を担うという「家族への感謝の気持ち」と「介護するのは私しかいないというあきらめの気持ち」を抱きながら決断をしている様子が浮かび上がりました。私たち看護管理者は、看護職がさまざまな立場や状況から葛藤を抱えながら介護を決断し、仕事を継続していることを理解することから、介護離職へのサポートが始まるといえます。

 

❷仕事と介護を両立するうえで工夫していたこと

 「仕事と介護を両立するうえで工夫していたこと」の質問では、「よく当てはまる」「どちらかと言えば当てはまる」の割合が高いのは、介護・家庭場面での工夫として「介護される者(被介護者)の気持ちを大切にする」177名(87.2%)、「介護者の気持ちを大切にする」177名(87.2%)、「仕事も介護も完璧を目指さない」168名(82.8%)、「気分転換をする」163名(80.3%)、職場場面での工夫として「上司に適宜報告し、理解が得られるようにする」117名(57.6%)でした〔図-02〕。また、インタビュー調査からは、①被介護者の気持ちを尊重した介護 ②理想の介護と現実の介護との妥協 ③介護を分担できる人の活用 ④勤務の合間の限られた時間の有効活用 ⑤介護者の心の余裕の確保が挙げられていました。2つの研究結果から、介護する際の被介護者・介護者の気持ちを尊重し、周囲との介護の分担およびサポートを受けながら、介護者の生活や心の余裕を持てるかが「仕事と介護の両立のポイント」といえそうです。以下にインタビュー内容の一部を紹介します。

 

Q: 仕事と介護を両立するために一番大切なことは何ですか。

A: 完璧な介護を目指すのではなく「親の病状や生活が保たれれば良しとし、理想の介護から現実の介護へと妥協することが必要かもしれない」と思えたことで、肩の力が抜け仕事と介護を続けられるかもしれないと思えました。できるだけ介護サービスを使用し、家族で介護を分担して、頑張らないことが重要だと思いました。

 

Q: 仕事と両立しながら介護時間をどのようにつくられたのですか。

A: 上司に相談し、交替勤務や休みを調整するなどして介護時間をつくりました。またショートステイのお迎え時間に合わせて少し早帰りをさせてもらっていました。そのときは看護師長が違う部署から応援を入れるように配慮してくれていました。

 

Q: 仕事と介護を両立するうえでのストレス解消や気分転換はどのようにされていましたか。

A: 家族や兄弟、親戚等の支援や介護保険サービス等の社会資源を積極的に活用して自分の時間をつくりました。気分転換は友人や夫、職場の人と話したり、本やビデオ、漫画を読んだり、マッサージに行ったりしました。そうすることで自然と心に余裕が生まれ、介護と気長に付き合っていこうという気持ちになれました。

 

図-02 図-02_仕事と介護を両立するうえで工夫していたこと  

➌仕事と介護を両立するうえで職場に望む支援

 「仕事と介護を両立するうえで職場に望む支援」の質問では、「よく当てはまる」「どちらかと言えば当てはまる」の割合が高いのは、「仕事内容の調整」80名(39.4%)、「介護休暇・休業の取得の勧め」74名(36.5%)、「有給休暇取得の助言」73名(36.0%)、「業務時間の調整」72名(35.5%)でした〔図-03〕。このことから、介護者は被介護者の変化する介護度、介護状況に合わせて仕事の内容や時間を調整したり、介護休暇・休業、有給休暇を取得したいと望んでいることがわかります。また、前述した仕事と介護を両立するうえで、職場場面では「上司に適宜報告し、理解が得られるようにする」工夫がされていました。インタビュー調査では、介護休暇について「上司の理解があっても人員が少ないから取りづらい」「介護休暇より育児休暇が優先される」などの理由から、自分の休みや勤務を調整するなどして仕事に支障が出ないよう自助努力をしていたという介護休暇取得への困難感が語られる一方で、「早退するときは他部署から応援をもらっている」「介護休暇をいただき母の最期を看ることができて職場に感謝している」という職場の介護への理解と介護休暇への感謝の気持ちが語られました。

 

 このように、介護者は被介護者・介護者の状況に合った両立支援を望みますが、実際には看護職特有の夜勤・交代勤務等の勤務形態の中で自助努力をしながら仕事と介護を継続している傾向にあることが推測されます。

 

図-03_仕事と介護を両立するうえで職場に望む支援

 

  

看護管理者が行う介護との両立支援

  介護は誰もが経験することであり、明日突然やってくるかもしれません。看護管理者は、看護職員が仕事と介護を両立できるような事前準備を進めることにより、いざ職員が介護に直面しても慌てずに仕事と介護を両立できるよう支援していくことが必要です。そのためにはどのような両立支援が必要なのかを以下にまとめました。

 

❶両立支援の準備として行うこと

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