どうして看護師は辞めていく?マイナビ看護師のデータに見る傾向と対策

     

編集部より

人手不足が続く医療業界において、「どうして看護師がすぐに辞めてしまうのだろう?」と悩みを抱える経営者や管理者は少なくありません。職場を離れる看護師の真意はどのようなもので、どう対策を打つことが効果的なのでしょうか。看護師転職市場の現状から、離職の理由とその防止策を分析していきます。

(取材対象者:株式会社マイナビ 医療福祉エージェント事業本部 統括部長 酒井貴文)

 

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)

撮影/株式会社BrightEN photo

編集/メディカルサポネット編集部

             

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1. マイナビ看護師の調査に透ける離職の本音

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昨今はあらゆる業界で人手不足が叫ばれていますが、医療業界でも厳しい状況が続いていることは周知の通りです。

特に、医療サービスの質に直結する看護師を採用・定着させることは、多くの現場にとって喫緊の課題とされています。コロナ禍となった2020年以降、看護師採用を縮小または完全に停止し、依然その影響が尾を引いている医療機関も多いでしょう。

 

まず押さえておきたいのが、看護師が離職する本当の理由です。マイナビでは、看護師の労働環境全般の改善に向けて、労働実態と転職活動を含む就業の意向を把握するための調査を行いました。

その結果をまとめたものが「マイナビ看護師 看護師白書2022年度版」です。看護師向け人材紹介サービスであるマイナビ看護師の登録者にアンケートを実施し(有効回答数:1,271件/調査期間:2023 年2 月28 日~4 月11 日)、「退職を考え始めた理由・きっかけ」と尋ねたところ、グラフ1のような結果となりました。

 

退職を考え始めたきっかけ・理由

 

(グラフ1 看護師が退職を考え始めたきっかけ・理由)

 

このデータを見ると、給与、勤務体系、残業、休日、勤務地など具体的な「条件軸」に基づく理由と、やりがいや人間関係という「精神軸」に基づく理由に大別されることが分かります。

前者では「夜勤なしの正社員として働きたい」、後者では「直属の上司と折り合いが悪いので職場を変えたい」といった声が典型的です。看護師の多くは「人のために働く」というマインドを強く有しているもの。

それだけに、感謝されることが少なかったり叱責される場面が多かったりすると、業務へのモチベーションも下がる傾向が見られ、やりがいと人間関係は連動している要素だと推測できます。

 

転職の時期として目につくのは、奨学金の「お礼奉公」期間(一般的に3年間程度)を終えるタイミングです。

ここで初めての転職活動を経験する看護師はかなり多く、それだけに過剰ともいえるような希望条件を出すケースも散見されるのが実情です。マイナビ看護師のキャリアアドバイザーは面談を通して真意をひも解いていき、希望条件の優先順位を整理できるようサポートする他、状況によっては現職にとどまることを勧めるケースもあります。

  

2. 看護師の年代による差異やコロナ禍の影響は?

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離職が検討される背景は、看護師の年代によっても違いがあります。

例えば、新卒1年目の看護師について考えてみましょう。入職早々に離職を希望する理由を聞くと、「人間関係」という回答が圧倒的多数です。
しかし、本心を深掘りすると「不条理な叱責を受けない環境でしっかりと教育を受けたい」という点に帰結することがしばしば。また、「夜勤の厳しさについていけない」という声もあります。そうした層は日中のみの勤務が可能なクリニックを志望しますが、新卒者(に近い看護師)を引き受けるのは難しい現場も多いのではないでしょうか。

 
いずれのケースでも、再度の離職を防止するためには教育体制の確認が不可欠だといえるでしょう。

 

逆に、新人時代や「お礼奉公」の3年間を乗り越えた20歳代後半以降の看護師では、結婚や出産などのライフイベントによる転職が増えてきます。

これはもちろん、私生活の変化により夜勤に入ることが難しくなるため。入職後すぐは産休・育休を取得しづらい現場も多いことから、妊娠を視野に入れた段階から逆算して行動し、早めに転職を済ませておくケースも珍しくありません。

さらに年齢層が上がると、子育てが落ち着いてきたタイミングで、復職のために登録する看護師が増加。自宅近くのエリア、夜勤なし、残業なし、といった明確な条件を掲げ、子どもが保育園に入るタイミングを図りながらスピーディーに入職先を見つける登録者が多い印象です。

 

新型コロナウイルス感染症の影響についても見ていきましょう。

コロナ禍においては、実習生の受け入れ自体ができなかったり、オンラインでの実習に変更したりする病院が多々あり、「看護実習から入職につなげる」という新卒採用の王道ルートが揺らぎました。学生側からしても、看護実習で得られるはずであった情報が不足し、「とりあえず実習先で働く」という選択肢は取りづらかったようです。

結果として、入職先の選択肢が良くも悪くも多様化し、大規模病院以外を選ぶ学生が増加しました。実際、コロナ禍に撤退した飲食店の店舗を活用し、美容系など自由診療のクリニックが増加したエリアでは、新卒採用を強化する法人が多かったようです。

  

既卒者については、コロナ禍前後で大きな変化は感じられませんが、変わった点があるとすれば登録者の性質でしょうか。以前は転職の意思がはっきりしている看護師が登録者の大多数を占めたのに対して、近年では情報収集を主目的とした登録が明らかに増加しているのです。

 

つまり、今すぐ転職を考えているわけではないけれど、入職の可能性がある病院について常に把握しておきたい――と考える層が増えたということ。キャリアアドバイザーによる面談も不要で、条件に合った採用情報を送付し続けてほしいというニーズが強く、常に「次の職場」を想定する習慣が看護師に根付いてきたのかもしれません。 

3. 過度な「引き止め」がはらむ想像以上のリスク

登録者と医療機関の両方から生の声を聞く中で強く感じるのが、両者で離職理由として挙げられる内容の乖離です。

 

マイナビ看護師で把握している登録者の声はグラフ1に示した通りですが、医療機関側に伝わっている理由は「家庭事情(親の介護やパートナーの転勤など)」が大半――というのが実情なのです。これから職場を離れようとする看護師にとって、自分の「本音」を職場に伝えることはメリットになりづらいのでしょう。特に、人間関係に起因する場合では事を荒立てることになりかねないため、避ける看護師が多い傾向にあります。

 

それに加えて、多くの退職希望者が懸念するのが、引き止めの問題です。先の調査において「引き止めにあったことがない」と答えた登録者は22.9%に過ぎず、多くが引き止めを経験していることが分かりました(グラフ2)。退職時期の延期や配属先の見直しといった提案がなされるケースが多いものの、中には強引な引き止めや話し合いの拒否があったという回答も……。

マイナビ看護師の面談でも、「申し出た途端に口もきいてくれなくなった」といったハラスメントに該当しかねないケースが散見されています。

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