2024.06.06
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調剤過誤を防ぐには?裁判事例や調剤過誤の原因と対策について解説

利益を取りこぼさない 薬局マネジメント経営~Vol.11

    

編集部より

調剤報酬改定のたびにマネジメントの工夫が必要となる薬局や調剤併設ドラッグストア。「物」から「人」へのシフトが鮮明になり、地域の医療情報集積とコミュニケーションを担う役割も求められています。地域社会や患者さんのニーズを満たす新しい試みを続けていくためにも、薬局は安定した経営を続けていくことが必要と言えるでしょう。

 

この連載では、大手薬局グループのエリアマネジャー補佐 篠原奨規(しのはら しょうき)さんが、薬局で実際は行っているのに請求できていない報酬の把握や、見落とされがちな業務の工夫など、利益を取りこぼさないようにする薬局マネジメントについて解説します。

 

 第11回は、調剤過誤を防ぐには?裁判事例や調剤過誤の原因と対策について解説です。本記事では、調剤過誤によって問われる責任や裁判事例、気をつけるべき調剤過誤の内容と原因とともに、調剤過誤を防ぐための具体策をお伝えします。

 

執筆/篠原奨規 管理薬剤師 薬局グループ エリアマネジャー補佐

編集/メディカルサポネット編集部

   

   

白衣を着た医療従事者が女性を励ましている 

 

調剤過誤によって、患者さんに健康被害が生じるような事態は避けたいものです。本記事では、調剤過誤によって問われる薬剤師の責任や実際にあった裁判事例とともに、気をつけるべき調剤過誤の内容や原因、具体策について解説します。また調剤過誤が起きてしまったときの対処の流れやポイントについてもお伝えします。

       

1. 調剤過誤とは

白いプラスチック容器から錠剤やカプセルがこぼれている

    

  

調剤過誤とは、調剤に関わる医療事故のうち、薬剤師の過失によって患者さんに健康被害が生じる事故のことです。調剤の間違い以外にも、服薬指導時の説明が不十分であったり、誤った説明をしたりした場合にも薬剤師の過失となり調剤過誤と見なされます。

 

調剤事故との違い

「調剤事故」と「医療過誤」の違いは、薬剤師に問われる過失の有無の点で異なります。医療事故は、調剤を行ったのちに、患者さんに健康被害が生じたすべての事故を指し、その点で、「調剤過誤」と共通しています。しかし、「調剤事故」では薬剤師の過失の有無は問われません。

  

ヒヤリ・ハット事例(インシデント事例)との違い

ヒヤリ・ハット事例(インシデント事例)は患者さんに健康被害はなかったが、“ヒヤリ”とした場合や“ハッ”とした出来事のことです。患者さんへ薬を交付していたかどうか、患者さんが服用していたかどうかは関係ありません。患者さんの健康被害の有無によって、調剤過誤と区別されます。

  

2. 調剤過誤によって問われる責任と実際の裁判事例

裁判所の看板

 

  

調剤過誤を起こしてしまい医療紛争(医療に関連するもめごと)に発展すると、薬局や薬剤師は「社会的責任」と「法的責任」を問われます。場合によっては、閉局にいたることになるでしょう。調剤過誤によって問われる責任について、実際にあった裁判例とともに解説します。

 

薬局の大きな不利益につながる「社会的責任」

調剤過誤を起こしてしまうと、社会的な信用が失墜し、来局者が減少するなど、薬局や薬剤師にさまざまな不利益が生じることが想定されます。そうした倫理的責任、道義的責任、道徳責任などを総じて「社会的責任」と呼びます。社会的責任には法的な拘束力や強制力はありませんが、ときには倒産や公職・名誉職の辞任など、薬局や薬剤師にとって法的責任以上に大きなダメージとなる可能性があります。

  

調剤過誤で問われる3つの「法的責任」

調剤過誤が医療紛争へ発展した場合には、薬局や薬剤師は「民事責任」「刑事責任」「行政上の責任」の3つの法的責任に問われます。

 

民事責任では、被害者である患者さんから債務不履行や不法行為を理由に損害賠償責任を問われることがあります。調剤過誤の内容によっては調剤した薬剤師だけではなく、薬局開設者や管理薬剤師が責任を負うケースもあることは知っておくべきでしょう。調剤業務中に必要な注意を怠り、それによって患者さんに傷害を与えたり死亡させたりした場合には、刑事責任として業務上過失致死傷罪(刑法第211条)に問われる可能性があります。また正当な理由なく、業務中に知り得た患者さんの個人情報を漏らした場合には秘密漏示罪(刑法第134条)に処されます。さらに罰金以上に処された場合、「薬剤師法第8条」に基づき免許の取り消しや業務停止、あるいは戒告といった行政処分を受けることもあるため注意が必要です。

 

実際にあった調剤過誤に関する裁判事例

2011年7月21日に行われた札幌地裁での裁判において、調剤過誤を起こした薬局・薬剤師に対して以下の判決が下されています。

 

患者(96才女性)は、医師から頻尿の治療薬「バップフォー」の錠剤90日分の処方を受け、薬局に処方せんを提出したが、薬剤師は誤って血圧降下剤の「バソメット」の錠剤を投薬したケースです。患者は服用41日を過ぎて脳梗塞で倒れ、1カ月後に死亡。薬局開設者及び薬剤師へ損害賠償請求をし、裁判所は「不必要な薬を服用させられ、典型的な副作用である脳梗塞で死亡したと認めるのが相当」とし、2,500万円の支払を命じています。患者が96歳と高齢であったことを踏まえて、裁判所は副作用による死亡と判断されました。

  

参照:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」

3. 気をつけるべき調剤過誤の内容とその発生原因

「SAFETY」と書かれた木製ブロックの中から「RISK」のブロックを取り上げている     

  

では、調剤過誤はどのような経緯で発生してしまうのでしょうか。調剤過誤の内容とその発生原因についてお伝えします。

 

 

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