2023.04.03
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BCPとは?介護施設で策定する事業継続計画や義務化の内容を解説

~災害などの緊急時の対応がすぐわかる~

BCPとは?介護施設で策定する事業継続計画や義務化の内容を解説

 

編集部より

近年、新型コロナウイルス感染症の流行や自然災害リスクの高まりを受けて、介護施設における感染症や災害への対応力強化が重要視されています。2021年度の介護報酬改定では、感染症や災害が発生した場合でも業務継続できる体制を構築する視点から、介護施設・事業所における事業継続計画(BCP)の策定を義務付け。介護施設や事業所は、3年の経過措置期間が終わる2024年4月までにBCPを策定し、研修や訓練を実施する必要があります。

ここでは、介護施設におけるBCPの基本と、義務化によって各事業者が対応しなければいけないことについて解説します。

BCPとは不測の事態が発生しても事業を中断しないための計画のこと

BCPとはBusiness Continuity Planの頭文字を取ったもので、事業継続計画のこと。自然災害や感染症の蔓延、テロ等の事件、大事故など、突発的な不測の事態が起こったときにも、重要な事業を中断させない、または中断したとしても可能な限り短い時間で復旧するための方針や体制、手順などを示した計画書を指します。

 

突然発生する不測の事態に有効な手を打つことができなければ、事業の中断につながり、企業は事業縮小や廃業に追い込まれてしまうこともあります。BCPは、そのようなことが起きないように、常日頃から準備しておくものです。

緊急時にどのようなリスクがあるかを洗い出し、対処法を決めておくことで、実際に不測の事態が起きたときに、損害を最小限に抑えて事業を継続・復旧することが可能になります。

 

BCPは「事業を継続する」ことを目的とし、テロなどの人為的な被害を含めて備えるべきリスクと対策を示したものである点で、単なる防災対策とは異なります。適切なBCPは、有事の際に事業を継続し、利用者を守ることはもちろん、従業員を守ることにもつながるもの。対外的な信用度が上がることで、企業価値が高まるメリットもあります。

 

介護分野におけるBCPの目的

BCPはどのビジネス領域においても必要なものですが、特に介護分野では大きな意味を持ちます。

介護サービスは、利用者や家族の生活を支える上でなくてはならないものです。災害でライフラインが寸断されてサービスの提供が困難になってしまうと、利用者の生命や身体、利用者や家族の暮らしに大きな影響を及ぼす可能性は極めて高いといえます。実際、新型コロナウイルス感染症の影響によって、介護サービスが利用できなくなったことで利用者の健康や生活の質が低下したり、家族の負担が増えたりといったことが起こりました。

このような感染症の蔓延や大規模災害の経験を踏まえて、不測の事態が起こった場合でも、介護事業を継続できる体制づくりの重要性が認知されるようになり、BCP策定の義務化につながったのです。

 

2024年から介護分野で義務化される内容

2021年の介護報酬改定で、すべての介護サービス事業者に義務付けられたのは、「業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施」です。

2021年4月から適用されましたが、3年間の経過措置期間が設けられているので、完全義務化は2024年4月となります。まだ対応できていない場合は、この時期までにBCPを策定し、研修や訓練を実施する必要があります。

 

BCP策定に国や自治体が補助金などの支援を実施

国や自治体には、中小企業のBCP策定を後押しする動きがあります。2019年7月16日に、中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律(中小企業強靭化法)が施行され、事業継続力強化計画の認定制度がスタート。これは、中小企業がBCPを策定して国に申請し、経済産業大臣から「事業継続力強化計画」の認定を受けることで、税制優遇や金融支援、補助金給付といった支援策を受けられるというものです。

これに加え、各自治体でも独自にBCP策定企業に対しての助成や税制優遇を設けている場合もあります。企業にとってBCPを策定するメリットは、大きいといえるでしょう。

 

BCPを策定しなかった場合の罰則

2024年4月までにBCPを策定しなかった場合、罰則などは特に設けられていません。ただし、実際に災害等が起きて利用者や従業員に被害が出た場合は、企業が賠償義務を負うことが考えられますし、今後、行政指導などの対象となる可能性もあります。

そのようなリスクを避ける意味でも、不測の事態での事業縮小や廃業を回避し、利用者に継続してサービスを提供するためにも、BCPの策定は必須といえるでしょう。

 

 

BCPを策定する際の流れ

BCPは、それぞれの企業や事業所に合ったものでなければ、意味がありません。各企業や事業所が置かれている環境は、地形的にも業種的にも違うため、時間をかけて調査、分析、検討をしてBCPを策定するには、それなりの時間がかかります。

 

なお、BCP策定には、半年程の期間をかけることが推奨されています。下記の進め方の具体例を参考に、スケジュールに沿って策定を進めましょう。

 

1. 現状分析(0.5ヵ月)

「災害時マニュアル」など、施設で業務継続計画に類似するものがすでにある場合、BCPの目的を果たすために転用できるかを調査し、現状を把握します。

 

2. 想定されるリスクの分析(1ヵ月)

自然災害、感染症のそれぞれについて、想定されるリスクを洗い出します。

 

3. 事業への影響度シミュレーション(2ヵ月)

洗い出したリスクが、事業継続にどれぐらい影響を及ぼすかをシミュレーションします。

 

4. ケース別対応方法の検討(1ヵ月)

優先的に対応すべき業務を決定し、必要な対応方法を洗い出します。対応に必要なリソースもチェックします。

 

5. BCPの可視化(1ヵ月)

必要な対応方法をカテゴリーごとにまとめ、BCPとして可視化します。

 

6. 運用ルールの決定(0.5ヵ月)

決定したBCPを職員に周知するための研修や、実地訓練をする方法・スケジュールを決めて実施。運用ルールを最終決定します。

 

 

介護分野のBCP策定のポイント

介護事業者がそれぞれの施設の規模や環境に適したBCPを策定するために、知っておきたいことがあります。BCP策定の流れに沿って、いくつかのポイントをご紹介します。

 

どのようなアクシデントが想定されるか

BCP策定のためにまず必要なのは、現状の把握です。施設の規模や立地によって、アクシデントはさまざま想定されます。運営している事業所にどのようなリスクが存在し、それぞれどれぐらいの影響が見込まれるのかを把握することが大切です。

 

■考えられるリスクの事業に対する衝撃度と発生頻度の関係図

BCPとは?介護施設で策定する事業継続計画や義務化の内容を解説

 

アクシデントの際に必要な取り組みを整理する

アクシデントが起きた際、業務の継続またはいち早い復旧のために必要な取り組みを整理します。介護事業者の場合、感染症と自然災害は分け、別々に考えるのが一般的です。

 

どのような取り組みが必要かを考えるには、内閣府が公開している「事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」や、厚生労働省が公開している「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等」が参考になります。

 

BCPは策定したら終わりではなく、いざというときはその内容を実行できるように体制を整えたり、必要な物資を準備したり、職員を訓練しておくことも大切です。具体的には、下記のような準備が必要になります。

 

・担当者を決めておく

アクシデントが起きた際に、施設内の誰が、いつ、何をするのかをあらかじめ決めておきます。アクシデントが起きたときのことを具体的に想定し、時系列に沿ってどのように行動するかを明文化しておくのがおすすめです。

 

・連絡先を整理する

アクシデントの際、利用者とそのご家族はもちろん、行政やほかの介護事業所等、応援が必要になったときにスムーズに連絡できるようにリスト化しておきます。通信まひの際の連絡のとり方の検討も大切です。

 

・必要な物資の整理、準備

自然災害発生に備え、必要な物資は普段から備蓄しておきます。「食料品」「看護、衛生用品」「日用品」「災害用備品」をリストで整理し、計画的に備蓄することがおすすめです。

 

・組織で情報共有

BCPの内容を職員で共有し、共通認識を持っておきましょう。

 

・定期的なBCP見直し、研修・訓練

定期的にBCPを見直し、必要に応じて研修や訓練を実行します。

 

 

介護分野のBCP策定の例

介護分野のBCP策定の一例として、厚生労働省の「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」から、自然災害BCPをご紹介しましょう。

ここでは、「総論」「平常時の対応」「緊急時の対応」「他施設との連携」「地域との連携」の5つの視点で構成されています。

 

BCPとは?介護施設で策定する事業継続計画や義務化の内容を解説出典:厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン

 

 

介護分野のBCP策定の例

BCPは介護事業者にとって、不測の事態が起きたときも事業を継続し、利用者にサービスを提供し続けるとともに、自社の事業縮小や廃業を防ぐ上でも重要なものです。2024年4月からはBCPの策定が義務となりますので、まだ準備ができていないなら、これを機に導入するのがおすすめです。

 

メディカルサポネットでは、医療機関や調剤薬局、介護事業者様向けの人材紹介サービスのほか、BCP策定をサポートするセミナーやコンサルティングも行っております。BCPの導入にお悩みなら、ぜひメディカルサポネットにご相談ください。

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