

▼目次
1.インタビュー紹介
病院看護部と看護キャリア開発室の密な連携から
充実した教育・研修制度を実現
新入職員を職場全体で支えることが定着の秘訣

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プロフィール
社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会
東京都済生会中央病院
人材育成センター長代理(写真中)
東めぐみ(ひがし めぐみ)さん
看護キャリア開発室師長(写真右)
土方 ふじ子(ひじかた ふじこ)さん
看護キャリア開発室師長(写真左)
安藤 佳代(あんどう かよ)さん
【業態】急性期総合病院
【設立】1911年5月
【本社所在地】東京都港区三田1-4-17
【病床数】535床
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2-1.教育
配属部署や経験に関わらず
標準化した教育を提供することにより
職員が安心して働ける職場づくり
看護師教育から全職種の教育へ展開
---「人材育成センター」について教えてください
当院には、看護部の組織の中に「看護キャリア開発室」が存在し、看護師教育の重要性を明確に位置付けてきた歴史があります。現院長の就任後はさらに、教育に力を入れる方針を強化し、看護部だけにとどまらず、病院全体で全職種の教育に注力することになりました。それが現在の「人材育成センター」へとつながっています。包括医療支払い制度(DPC=Diagnosis Procedure Combination)導入以降、患者さんの入院日数が非常に短くなり、病気自体も非常に複雑化する傾向にあります。もはや「1臓器=1疾患」という時代ではなく、複数の疾患を同時に抱えて入院されている患者さんが多数を占める状況になりました。また、老老介護や独居の高齢者の方が増加している状況に即した看護のあり方も問われています。当然、現状に対応できる看護師を育てられる教育の重要性も一層高まっています。
多様な部署で看護師が活躍
---ジェネラリストの教育に力を入れているとお聞きしましたが
当院は医師と同様、看護師も特定の疾患や部位だけでなく、総合的に看られる能力が必要だと考え、広範囲にわたる知識を持つ「ジェネラリスト」の教育に力を入れています。もちろんご自身で「スペシャリスト」を目指す意思のある方には手厚く支援をしていますが、ジェネラリスト教育が大半を占めております。当院には訪問看護ステーションや地域連携室など、看護師が活躍できる部署が数多くあります。多様な部署でさまざまな経験を積むことができるのも当院の魅力の一つです。
これまでの実践と経験の蓄積から、支援マニュアルを完成
---教育ツールについて教えてください
当院には毎年、入職されてくる新入職者、中途入職者の方に向けて、1冊ずつ特製のマニュアルを配布しています。長年の構想の末、4年前に完成しました。その後も定期的に改訂を重ねており、当院看護部の「虎の巻」といえる存在です。なかでも『新人看護師の育成に対する支援マニュアル』は、これまでの長い実践と経験の蓄積から紡ぎだした看護の「英知の結集」で、新入職者にとって頼れる看護の教科書です。この支援マニュアルの存在によって配属部署や経験に関わらず、標準化した教育を提供することが可能となりました。普段は指導する側であるプリセプターの指導方法や、日勤・夜勤の患者さんの受け持ち人数などが、細部にわたり詳しく記載されています。各師長はこの支援マニュアルに沿って、受け持ち人数や指導方針などを決定します。マニュアルの完成以降、新入職者の独り立ちの時期の見極めに関しても現場指導に迷いがなくなりました。指導する側にとっては新入職者の指導方法や到達基準が明確となり、指導を受ける新入職者にとっても自分の到達状況を客観的に把握できるからです。
2-2.研修
新入職者を職場全体でサポートすることが大切
---新入職員の教育制度について教えてください
当院のプリセプター制度は新入職者に限らず、中途入職者にも導入しています。誰をプリセプターに付けるかという点では、新入職者よりもむしろ中途入職者のほうに神経を注ぎます。経験年数はもとより、思考性や、性格的な部分もある程度、考慮しつつ慎重に選定します。病棟にはプリセプターとプリセプティが月に一度集まり、積極的に話をする機会として『プリプリ会』という会合があります。そういった会合を通じ、向き合いつつ話をするうちに、新入職者も「守られている」という意識が芽生えてくるようです。

新入職員フォロワー研修会
新入職者同士が仕事の悩みや疑問を共有し、刺激しあい、成長しあえる研修を行なっています
新入職者にとって、プリセプターの存在は重要です。新入職者の個性を重視した個別教育を心がけております。「ちょっと心配」となると、師長をはじめとする部署全体でサポートします。状況に応じて担当の副部長が面接をします。その上で「適切な対応は何か」を総合的に判断します。比較的、早めに対処が可能なのは、現場の連携プレイの賜物です。
管理者からアンテナを張り巡らせ、新入職者のSOSサインを逃さない
---入職後のフォロー体制について教えてください
当院では、新入職者に関しては、まず「サポート面接」があります。4月入職者の場合、5月に自分の所属部署以外の管理者と面接をし、健康状態の確認や、ホームシックになっていないか、現所属部署と自分とのマッチングについてなどを話す機会が設けられます。続いて7月から8月に、臨床心理士が面接を行います。新入職者にとって、ちょうど疲れが溜まってくる時期ですので、人間関係から指導方法、管理者との関係まで、胸襟を開いて話し合ってもらいます。たとえば5~6人が同期として入職したとしても、シフトの関係等で勤務がバラバラとなるため、同期同士が会う機会はかなり少なくなります。病院・病棟内に仲間がいるということは心強いものですし、それが精神的に大きな支えとなることもあります。各師長が、アンテナを張り巡らせ「最近、少し様子がおかしいな」というサインを発している方には、早めに声をかけ、面接などの対応を行っています。
加えて、子育て中の看護師が一堂に集まり、お互いの悩みや頑張っていることなどを語り合う「はぐつむ会」を行なっています。院内の「人材確保委員会」に属する師長たちが提案した、新しい取り組みです。午後の時間を使った、茶話会であり、子育ての悩みや育児をしながら仕事をするとまどいなど、語り合います。雰囲気の良いラウンジで、年4回ほど定期開催しています。

看護技術トレーニング
看護知識・技術を講習を通じて確認しています
中途入職者にはキャリアを考えるきっかけを提供
---中途入職者に対する独自研修は取り入れているようですが
当院の中途入職者は、新卒入職者に近いレベルにある看護師と、逆に長い経験と能力を持つ看護師の大きく2つに分かれる傾向にあります。長い経験を持つ看護師は、今まで大事にしてきたものと、当院が大事にしている部分が、食い違うケースも生じますので、そのギャップを埋めていくための研修を実施します。だいたい半年以内に入職された看護師が5~8人でグループとなり、「自分のキャリアを考える」というテーマで語り合いつつ、今後、自分がいかにこの病院で力を発揮していくのかを考えるきっかけを作ります。「きっかけ」と「気づき」を生み出すものこそが教育であると考えています。
2-3.定着
常に教育を進化、充実させることが人材の定着につながる
---そういった中途入職者へのフォローは「大きな救い」になっているのでは
中途入職者の多くが、入職してしばらくすると「壁」を感じています。「こんな看護をしてみたい」など、さまざまな希望を抱いて転職したはずなのに、いつしか「でも、何かが違う…」という違和感を抱いてしまう。そんなときは、現在の職場の悪い部分ばかりが目につくという負のスパイラルを起こしがちです。中途入職者には「まずは半年間、環境に慣れてほしい」「気になることはひとまず日記にでも書いておき、徐々に共有して問題を解決していきましょう」と前向きに指導しています。こうした教育手法を取り入れて以降、中途入職者が「良い方向」へと力を発揮してくれるようになりました。もともと経験と実践力があるので、組織にとって大きな力になります。このような教育を進化、充実し、当院に入職された方が前向きに活躍してくれる体制が整いました。
また、「夏祭り」、「クリスマスコンサート」など、イベントも数多く、業務外で職員たちがコミュニケーションを図れる場を積極的に作っています。2017年から開催している『済中塾(さいちゅうじゅく=済生会中央病院を縮めた略語)』では、当院で活躍されている先輩方の、「知恵袋」的な部分を後輩たちに継承させていくという意義で、『徹子の部屋』を模した、トークショーを催しています。仕事と直結する研修会などとはまた別に、職員が集まる機会が多い病院と言えます。他者との関係が希薄になりがちな時代だからこそ、病院の中で仕事以外の部分でつながることも大切なのかもしれません。
看護師の伸びしろを模索し続け、活躍の場を広げる看護教育を
---今後の看護教育の方向性を教えてください
当院は長年、看護教育に力を入れてきました。常日頃、「もっと看護師の仕事の幅を広げる教育があるのでは」と考えています。大切なのは、しっかりした教育を継続すること、さらに「看護師たちにとって現状で物足りないものは何か」「もっと伸びしろを引き出す方法があるのではないか」と常に進化を模索し続けることだと考えています。また、教育する人材の育成にも努めていきたいと考えています。

Point.01 「教育」 幅広い領域に対応できるジェネラリストの育成
Point.02 「研修」 新入職員全員に支援マニュアルを配布し教育の標準化を
Point.03 「定着」 仕事以外で職員同士がつながる環境を提供
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取材日:2017年10月13日
メディカルサポネット編集部