2019.10.01
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+αで活躍する医療従事者 vol.3
上村 久子さん(看護師+組織力アップトレーナー)

~多彩なフィールドで活躍する医療従事者たち~

医療従事者の中には「+α」の技能を生かしながら病院以外の多彩なフィールドで活躍する人も少なくありません。こうした人たちは、どのような経緯で「+α」を学び、仕事に生かしているのでしょうか。今回は、医療機関の組織としてのあり方に疑問を抱き、フリーランスの「組織力アップトレーナー」として活躍する上村久子さんにお話を伺います。

取材・文:中澤 仁美(ナレッジリング)
撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

+αで活躍する医療従事者 vol.3 上村 久子さん(看護師+組織力アップトレーナー)

 

上村 久子(うえむら ひさこ)  株式会社メディフローラ代表取締役

  

プロフィール

上村 久子(うえむら ひさこ)

株式会社メディフローラ代表取締役。東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。

その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。

 

 

「白衣の天使」がいない現場を変えたくて

 

――もともと看護師だった上村さんが、組織のあり方に興味を持った原点は何だったのでしょうか。

 

私は幼い頃身体が弱く、アレルギーや重度の喘息を患っていました。家より病院にいる時間のほうが長かったくらいですから、医療従事者は家族のように身近な存在だったのです。そのため、看護師をめざすようになったのも、私にとってはごく自然な選択でした。

 

しかし、大学入学後に実習や看護助手のアルバイトを通して、子どものころからあこがれていた「白衣の天使」を探してみたのですがなかなかみつからず・・・代わりに、患者さんや同僚の愚痴に花を咲かせている人たちが目に付きました。ある患者さんから「隣の部屋からいつもうわさ話が聞こえてくるけど大丈夫?」と言われたときは、心底驚きました。ナースステーションの真横の病室にいる危険な状態の患者さんにそんな心配をさせてしまっていることは、悲しいとしか表現がありませんでした。

 

また、師長が若手の医師に「患者さんの個人的な情報を知りたかったら上村さんに聞けばいいわ」と話しているのを聞いてしまったことも原体験の一つです。看護助手として患者さんの情報をたくさん持っていたのは事実ですが、有資格者である医療者としての仕事の在り方を考えさせられ、これまた残念に思いました。

 

こうした現実を知るうちに、多忙な現場で医療従事者が疲弊してしまい、組織づくりや個人の精神的な成長を促したりキャリア形成について学んだりする機会が極めて少ないという問題に気付いたのです。「白衣の天使」を目指す人たちが「白衣の天使」を体現できる組織を増やしていきたいと考えるようになりました。

 

上村 久子(うえむら ひさこ)  株式会社メディフローラ代表取締役 画像1

   

――それで、大学卒業後はすぐに大学院へ進学し、医療組織の改善に関する研究に取り組んだのですね。

 

現場経験を積みたいという思いもあったので、非常勤で病院保健師として働きながら、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の花田光世教授の下で人事組織論の研究を始めました。勉強を初めてすぐ、医療における組織マネジメントは、一般企業のそれと比べて10年以上は遅れていることを痛感しました。机上の空論ではなく、ダイレクトに現場を変えるためには何ができるか、試行錯誤がスタートしました。

 

中でも目を付けたのは「組織づくり=チーム医療」です。重要だと叫ばれ続けている言葉ではありますが、結局は責任の押し付け合いのようになってしまうケースも多いと知り、チームで働くマインドを育てるための研修作りに取り組みました。

 

例えば、ある病院の協力のもと、2つの病棟で同じ研修を行い、条件によってどのような差が生じるか比較したことがあります。結果的に、師長が元気で活気のある病棟では、研修は抜群の効果を発揮しました。一方、師長に暗い印象を受けたほうの病棟ではあまり変化がみられず、しかもその師長が退職してしまうという結果に終わりました。組織が変化を遂げるにはリーダーのあり方が重要であること、そしてチームによってアプローチを変えなくてはならないことが分かりました。こうしたトライ&エラーを重ねながら、年間を通して行う研修の流れを構築していったのです。

 

上村 久子(うえむら ひさこ)  株式会社メディフローラ代表取締役 画像2

  

うつの苦しみを乗り越えて独立の道へ

 

――研究がひと段落してからは、医療系の経営コンサルティング会社に転職したそうですね。

 

研究を通して、医療現場の経済の流れをより詳しく知る必要があると感じたこともあり、医療分野に特化した経営コンサルティング会社で働くことにしました。医師や看護師の資格を持った社員も多く、診療報酬制度などについても学びながら、レベルの高い環境でデータ分析やアナリスト業務を担うことができました。また、それまでの経験を生かして、社内における組織活性化研修を立ち上げたこともありました。

 

ところが、基本的に在宅勤務だったことや、生まじめな性格が災いして、いつしか休みなく働くのが当たり前になっていったのです。次第に眠れなくなり、ミスが多くなるといった悪循環に陥って、気付いたときには完全にうつ病になっていました。

 

一時は死を考えるほどの深刻な状態も経験しましたが、今度は生まじめな性格が幸いして、きちんと薬物治療やカウンセリングを受けることで改善の兆しが見えてきました。心理相談員の免許を持っていたので、治療の過程を客観視できたことも大きかったですね。残念ながら会社は退職しましたが、まずは十分に休養する期間を取って英気を養うことにしました。

 

上村 久子(うえむら ひさこ)  株式会社メディフローラ代表取締役 画像3

 

 

――大変な病を克服して今に至るのですね。退職後はどんなことに取り組んだのでしょうか。

 

実は、中学生の頃から「起業」というものにも密かにあこがれを抱いていました。心機一転を図ろうというとき、真っ先に頭に浮かんだのはそのことでした。父が経営者だったこともあり、「やりたいことがあるなら自由に挑戦してみたら」と声をかけてくれたことも後押しとなり、退職から約1年後、2013年に独立を果たしました。

 

初めのうちは、人材エージェント会社のお手伝いから人脈を広げるなどして、少しずつ仕事を依頼されるようになっていきました。

 

具体的な事業の内容としては、「組織力アップトレーナー」という肩書で行うコンサルティングや研修の提供です。一般企業からの依頼もありますが、全体に占める割合は医療機関のほうが大きいですね。組織の課題に応じて「パワータレント」「モチベーション」「コミュニケーション」「メンタルヘルス」という4コースの研修を用意しています。複数をカスタマイズしながら長期間にわたって組織改革に取り組むことも少なくありません。

 

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「計画された偶発性」を自分のものにしよう

 

――数多くの現場を見てきたと思いますが、どのような課題を抱えている医療機関が多いのでしょうか。

 

ほとんどの場合、問題の根底にあるのはコミュニケーションエラーです。医師の指示を待つ立場になりやすい、いわゆるコメディカルの人々は、ともすれば日ごろのコミュニケーションにおいても受け身になりがちであるように思います。しかも、問題があってもその場では指摘せず、不満がたまりにたまってから爆発的に相手に訴えるようなケースを多く目にしてきました。良好なコミュニケーションは信頼関係に直結します。当たり前のことなのですが、この当たり前のことを当たり前に行えるようにするために、伝え方やタイミングを改善する方法を自ら気付き、実践的に学ぶ機会が必要不可欠だと思います。

 

そもそもコミュニケーションとは、「自分が言ったこと=相手に伝わったこと」ではありません。そっぽを向いて「ありがとう」と言っても、マイナスの意味にとられてしまう可能性もありますよね。あくまでも相手がどう受け止めたかということが重要なのです。その意味では、目線や動きといったノンバーバルコミュニケーションを意識することも問題解決につながります。

 

また、コミュニケーションにおける自分のクセを知っておくのもポイント。私も学生時代の実習中、最初は楽しく会話していた患者さんが、徐々に話してくれなくなるという経験をしました。どうしてだろうと首をかしげていると、担当の先生に「あなた、しゃべりすぎ!」と指摘されて・・・。要は、患者さんを疲れさせてしまっていたのですね。自分が日ごろどのような話しぶりをしているか、信頼できる第三者に評価してもらうことが有効です。ちょっと恥ずかしいかもしれませんが、自分の話し方を動画で見てみるのも効果的ですね。

 

コミュニケーションエラーが減ることで、医療事故を未然に防いだり、人間関係を理由にした退職が減ったりする効果も期待できます。一般企業の例では、「あいさつの仕方を意識したことで売り上げアップにつながった」というケースもあるほどです。

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――最後に、「+α」をめざす医療職の皆さんにメッセージをお願いします。

 

「計画された偶発性」(Planned Happenstance)という言葉をご存じでしょうか。「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことで決定される」という、キャリア理論の考え方の一つです。最初に決めたルート通りに人生のコマを進めなくてもかまいません。大切なのは、偶発的なチャンスをものにするために、譲れないもの、大切にしたいものという自分の人生における軸を明確にしておくこと。その上で自分の軸と照らし合わせて「良い」と思うものをチョイスしていけば、道は自然と拓けていくのだと思います。

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 (取材日/2019年8月7日)

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